第18話『国の未来の過去の話』
無事に理不尽の面々の別荘が完成し、別荘にはペレス・ラキシア両国王と、パキラ・ラキア両王子が、それぞれの馬に酒樽をぶら下げて遊びに来ていた。
ジュマとエミルが両王子と帝国のその後について話をしている横で、両国王とパルパがそれぞれの城内の美人ランキングで盛り上がると言う不謹慎極まりない構図が描かれていた。
(ラキシア国王)
「ほう!やはりパルパ殿も大きいのがお好きであるか!」
(ペレス国王)
「となれば、昨年からうちに来ているメイドが一番じゃな」
(ラキシア国王)
「今回、わしが参った際にお茶を持ってきたあの娘か?」
(ペレス国王)
「おお、そうじゃそうじゃ!」
(ラキシア国王)
「確かにあの娘はよかったのう」
(パルパ)
「そんなにか!?」
(ラキシア国王)
「わしの護衛って事にして帰りについて来てはどうじゃ?」
名君の面影は、理不尽の面々といる時には消え失せるようだ。朱に交わればなんとやら。いや、風呂桶一杯の黒に、他の色を1滴垂らしてもと言うのが正しいか。どこまでも真っ黒な理不尽の面々に毒され、名君の誉れまで黒く染めなければ良いのだが…。
(ペレス国王)
「ジュマ殿も大きいのが?」
(パルパ)
「あいつはスレンダーで慎ましいのが好みらしい」
(ラキシア国王)
「エミル殿のよう…」
王子たちと話していたはずのエミルの拳が、何故か少し離れた3人の頭頂部を捉えた。
(パルパ)
「お、王様にまで」
(エミル)
「3人とも殴れと本能からの天啓があってな」
鼻からも飛び出た酒を吹きながら、両国王は女性の怖さを再確認したのであった。
(パルパ)
「あれでエミルは意外とあるからな、ジュマはもっと小ぶりな奴だな」
言い終えると同時に、パルパは何者かの見えない角度からの蹴りで負傷した。
一方、帝国内の状態は予想以上に酷いものであったと言う話を聞いたジュマは、先立ってドッキリの際に見た光景を思い出していた。
今日食べるものさえ確認できなかった村の頼みの田畑は、先に実をつけられるだけの栄養もなければ、水さえもなかった。
(ラキア)
「そんな中で、神の奇跡が起きた村がいくつか出てきてね、村中の者が急に眠気を催して、目が覚めると、あらゆる食料問題がインフラから解決してたらしい。」
(エミル)
「へぇ~」
(ラキア)
「ところでジュマ殿、ドッキリって何ですか?」
(ジュマ)
「…まぁ、そうなるよね」
(パキラ)
「ならない方が不自然…ですね」
先のドッキリ作戦について、不純な動機も含めて説明された両王子は、愉快そうに笑い続けた。
(ジュマ)
「まぁ、動機はともかく人は財産だからな」
(ラキア)
「おっしゃる通りです」
(パキラ)
「あなた方の顔を見る限り、神の奇跡はまだ起きそうですね」
(エミル)
「あれはあれで酒が美味くなるからな。でも、この先必要になってくる特産品や産業に関しちゃ、私らが勝手に押し付けるわけにはいかないからね」
(パキラ)
「え?いけないのですか?」
(エミル)
「駄目でしよ?」
(ジュマ)
「どうして?」
(ラキア)
「ジュマ殿!お顔が悪巧みの時のものになっていますよ?」
(ジュマ)
「…飲み込みが早くなってきたな。ま、冗談はさておき、国が主導したり、土地の向き不向きで提案したり、時に背中を押してやったりってのは、別に悪くないと思うよ。でも、もっと大事なやっておく事があるけどね」
(ラキア)
「もっと大事なやっておく事…ふむ、何でしょう…」
(ジュマ)
「エミルは分かるよな?」
(エミル)
「私に酒盛りより大事な事はない!あ、あった。3秒後に私の乳の話をするパルパと王様をしばく事!じゃ!」
(ジュマ)
「大事なのは、教育だよ。勿論貴族だけの話じゃないよ。難しいものではなく、読み書き計算、後は生きる上で必要な知識や土地の特色や歴史ってところかな。これをやったかどうかで、次の世代の国は栄えも衰えもすると思うよ」
ジュマの言葉を心の中で反復して噛み締める両王子は「奪うよりも与えよ。与えるよりも育てよ」と言っていた先代ペレス国王の言葉を思い出していた。
その王子の思考の中で思い出された先代国王の言葉は、無意識にラキアの口から呟かれていた。
それを聞いたジュマは「これは俺の言葉じゃないんだけど…」と前置きすると、紙にさらさらと書き記しペレスに手渡した。
[ 人は堀 人は石垣 人は城 情けは味方 仇は敵なり ]
武田信玄で知られる有名な言葉であった。
後に、旧帝国領に限らず、ペレス・ラキシア両国の学舎に、この言葉が掲げられるようになったルーツは、この隣で下品な話が展開されている別荘での一幕にあった事は、未来の子供たちの知るところではない。
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