第15話『国の未来を操ろうとする者』
これはパキラとラキアの両王子が、理不尽の理によって滅んだ帝国の後処理に追われる少し前の話である。
旧ヨアナ国を匂わせる宣戦布告の内容は、王子たちによって、ペレス王国は勿論、ラキシア王国にも伝えられていた。エミルが情報を得に城へ入った夜、ジュマが王子にした耳打ちこそ、両国へ文書での伝達だったのだ。しかしながら、これは両王子が伝えた事が分からないよう、工作がなされた上での話である。
帝国滅亡の報を受けた両国王は、宣戦布告をした謎の組織を城へ招くよう指示したのだが、今のところの手がかりは直前に届けられた誰が届けたかも分からない文書のみであった。
両国にとっても、帝国の滅亡は大陸内の緊張を一気に取り去る喜ばしい事ではあったが、数々の国を侵略し滅ぼしてきた帝国を、文書が届けられてから何日と待つことなく滅亡させる戦力、と考えると手放しで喜んでばかりもいられないのである。
時間の経過と共に、あの日帝国で何が起きたかの情報が足されていく事を期待していたが、どれだけ待っても、加えられた情報は、謎の声による宣戦布告からの一撃滅亡と言う、ますます喜べなくなるものだけであった。
埒があかないと判断したペレス王国とラキシア王国は、合同での調査部隊を組織した。
結果、地竜グラノラスを消滅させた跡地と帝国城跡地が同じ攻撃によるものと判別され、それはどちらの件も「奇跡」ではない事を伺わせており、脅威の存在を案じる必要の発生に他ならなかった。
また、調査部隊からの報告によると、謎の組織がその後の旧帝国国民に対して、臨時の治世を行う様子が見られず、それどころか何らかの声明を出した様子もないと言う。
この状態が続けば、治安の悪化などが懸念されるが、驚異的な戦力を有する組織の手前、ペレス、ラキシア両国が、でしゃばるわけにもいかない。
あくまで、調査と、支援の範囲内で事に当たるしかないのだ。
この両国の手塞がりな様子を間近で見ていたのが、パキラ、ラキア両王子であった。
宣戦布告を知らせるのと同じように文書で誘導する事も考えたが、一国を滅ぼしておいて、文書で後始末を押し付けるような形は、どう考えても無責任であるし、不可解である。
両王子は相談し、理不尽の面々の元へと馬を走らせた。
湖畔では、別荘の再建が始まっていた。材料があれば、エミルが図面を引き、パルパが加工し、ジュマが魔法で施工する形で進められるのだが、それでは時間がかかりすぎる。と言うのも、パルパは材料問わずに加工はお手の物ではあるが、それは機械があればの話で、人力で鋸を引き、鐫、鉋で仕上げていくのは負担が大きすぎるのだ。
そこで、図面を持ってこの世界の専門家に依頼するのだが、それでも時間がかかるのは避けられない。
かつて、ゴノラル山脈の拠点建築の際も、町での滞在期間と山脈への到達と、場所の絞り込みという期間の間に作業を進めてもらっていたし、別荘に至っては時間はたっぷりあった。
急な焼失という今回の事は、理不尽の面々にとっても急な事であったのだ。
住むところについては拠点があるので問題ないのだが、面々が再建を急ぎたいのは両王子の事と、自ら滅ぼした帝国のその後の事があったからである。
前回の別荘の図面をそのまま同じ職人の元へ持ち込み、放火焼失という支障のない理由だけを伝えて再度依頼して、出来たものから施工していくという進め方で、日々再建に当たっていたのだ。
(パキラ)
「やぁ、やってるね」
両王子が再建中の現場にやって来た。馬には、左右のバランスを取るように結わえ下げられた小さめの酒樽が2樽ずつ下げられている。
(ジュマ)
「お?来た来た!」
(エミル)
「私の酒!」
あの夜、エミルに内緒で貰った酒を、拠点でジュマとパルパがこっそり隠し飲みしていたところ、酒の気配を嗅ぎ付けたエミルに発見され、没収された上、次に王子たちが持ってきた酒は全てエミルのものと約束させられていたのだ。
(パキラ&ラキア)
「あはははははは」
事情を聞いた両王子は、腹を抱えて暫く笑い続けた。
本題に入る前に、しっかりと笑わせてもらった王子たちは、出発前よりも安心していた。
(ラキア)
「実は帝国のその後の事なんだけどね」
(ジュマ)
「だよね。そろそろ色々と限界なんでしょ?」
こういうところは計算高いジュマらしい部分である。理不尽の参謀は、ただ任命されたわけではないのだ。
(ジュマ)
「まず、俺が考えてる最終的な部分の話をさせて貰うと、ペレスをパキラ、帝国はラキアが治めるというのを考えてる」
パルパとエミルが頷くのとは反対に、両王子の目は驚きを隠せずにいた。
(ジュマ)
「ペレスもラキシアも巷での王様の評判はとても良いみたいだけど、その評価は2人から見ても変わらない?」
ジュマには何か考えてる事があっての必要な質問であることを察した2人は、どちらも名君であるエピソードをいくつか話した。
(ジュマ)
「なら大丈夫そうだね。両陛下にプライベートで話せる機会のセッティングをお願いしてもいいかな?俺が直接会って話すよ」
(ラキア)
「2人は親戚同士でもあるし、これまでも何度も同席しているから、大丈夫だと思います。ただ、プライベートというのは、側近の同席は構わないと受け取らせて頂いても?」
(ジュマ)
「いや、側近もなしで、両陛下と両王子と俺の5人だけ、それもなるべく早くがいい。今のままだと難しいと思うなら、他言無用を伝えた上で、宣戦布告の当人を知っていて、話したいと言っている事を伝えてくれていいよ」
王子は、それなら出来そうだと考えたが、他言無用に不安を覚えていた。
「こんな話をしてきた」
と、漏らしてしまう状況は想像しやすい。
(ジュマ)
「他言無用は、国を葬った者の希望」
察してそう続けたジュマがニヤリと笑うと、王子もまたニヤリと笑った。
これ以上の口止め脅しはない。
両王子とエミルが酒を飲みながら盛り上がる中、パルパとジュマはお茶を飲む。そんな夜は更けていった。
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