第14話『幕を閉じた国、幕を開けた国』

 理不尽の理の面々は、ミレア帝国の詳細な地図の入手と、軍事関連の城や塔などの位置把握の協力を王子たちに申し出た。

 ペレス王国は、これまでも度々、帝国から挑発や嫌がらせを受けていた。相手は、いつかは戦争を仕掛けてくるであろう事が確実視される相手である。故に王国側は、既に今回の件で求めた情報を得ていた。

 さしあたっての問題は、情報閲覧の難しさである。ペレス王国がそれらの情報を保有していると言う事が明るみに出れば、帝国に争いの口実を与え兼ねない。

それ故、厳重に管理されている上に、一部の者しか閲覧する事も出来ない。当然、持ち出しなんてもっての他である。


 結局、最も簡単で確実な方法をとるしかないのだが、


(ジュマ)

「エミル、頼める?」


(エミル)

「まぁ、今回は仕方ないもんな。王子に貰った酒3樽な!」


(パキラ&ラキア)

「アハハハハハハ!」


(パキラ)

「本当、あなた方は楽しいな。いいよ、その酒樽は私が用意しよう!」


 夜を待って3人は、王子を連れてペレス王都へと転移した。ここからは別行動になる。

 王城に忍び込んだエミルは、ラキア王子の手引きですんなり情報にありつき、マップスキルに記録した。

これで計画を練る事が出来る。


 パルパとジュマは、パキラ王子からエミルの報酬の酒樽を、ちゃっかり多めに受け取ってインベントリに隠し持った。

エミルを待つ間、思い出したようにジュマがパキラに耳打ちし、パキラはそれに頷いた。

エミルが合流するのを待って、3人は別荘へと転移した。 



 3人が戻ると、別荘は燃えていた。


(エミル)

「いるな…」


 呟くが早いか、エミルの投擲ナイフ2本が放たれた。

流石の暗殺者アサシン。ナイフは隠れていた者の両足に1本ずつ、腱を切るように突き刺さっていた。

これではもう逃げようがない。


 取りあえず、放火犯はエミルに任せて、パルパとジュマが障壁を張り荷物の運び出しにあたった。

 別荘に戻った時点で、消火したところで壊して建て直すしかない状態まで火が回っており、片付けの事を考え消火はしないで諦める事にしたのだ。


 その間、エミルは捕らえた男に尋問していた。当然、素直に口を割るわけがない。


(エミル)

「どうしてこういう時、黙秘しようとするんだろうね。どうせ喋る事になるんだから、さっさと喋った方が絶対楽だと思うんだけどねぇ」


 そう言いながらエミルが取り出したのは、唐辛子の塩漬けと鬼おろしだった。

刃物や自白剤ではないあたり、相当怒っているようだ。


(エミル)

「何処からがいい?」


 鬼おろしで塩漬け唐辛子をゴリゴリしながら「どこからにしようかな♪」と歌う。


(エミル)

「とっても痛いけど、白魔法使いがいるから安心して。何度でも喋るまで繰り返してあげるからね」


男はあっさり自白した。


(エミル) 

「やっぱり帝国だってさ」


(パルパ)

「だろうな」


(エミル)

「んじゃ、こいつの行き先決めようか

①王国兵に引き渡す

②犯罪奴隷として売る

③男色兄貴にプレゼントする

④魔物の中に放り込む

⑤怪しさ満点の首輪着けて帝国に返す」


(ジュマ)

「③か⑤!」


(パルパ)

「③!」


(エミル)

「だってさ♪ 明日連れてってあげるからケツ洗って、楽しみに震えて待っててね」


 翌日、放火犯は王国兵に放火犯として引き渡された。



 数日後、王子たちが別荘跡地にやって来た。一目見るなり事情を察した王子たちが言葉を失う中、パルパが言った。


── 帝国、滅ぼすけどいい? ──


 王子が頷くのを見届けた理不尽の面々は、転移と縮地を使い、数分とかからずに帝国帝都に辿り着いた。


[ 北にある山を見よ!]


 帝都に、声が響いた。

視認出来ない高度から、拡声魔法を使っての理不尽の面々による宣戦布告が始まった。

 帝都北の山は、帝都から程良く見える距離にあった。

そんな北の山に、宣戦布告の理不尽な杖が振られた。

山はその頂を失うどころか、影さえも失った。


[ 我々は旧ヨアナ国を取り戻さんとする者である!

ミレア帝国に宣戦を布告する!

暫しの猶予を設け攻撃を開始する!

命の惜しい者は、今すぐ城から退去せよ!

但し、皇帝及びその一族、国の中枢に在る者の退去は、司令官の敵前逃亡であり、世界共通の大罪であると判断し、実行次第その場で処刑する!

退去しない者の命は確実に失われる事を宣言する! ]


 1時間半の猶予の間に、逃げ出した重臣や貴族は20名を越えた。エミルのマップと照合し、おかしな位置に反応のある者もいたが、これは隠れているのであろうがそのままにしておいた。

どのみち地下室や通路に逃げ込んだところで、地殻をごと抉るのだから無意味である。


[ 時間だ、攻撃を開始する! ]


 城及び周辺を幾重もの障壁が囲んでいく。

高高度から放たれた無数の巨大な矢が大気を振動させ、大地を揺らした。

凄まじい爆風と巨大な地殻津波が障壁の半数を破壊し、吹き出した溶岩が黒煙の底を黄や赤に光らせる。

 後には黒く硬い地面があるばかりであった。


 他の砦や出城、領主邸などは、やるべき事をした後で順に片付けていく事にする。さぁ、帝国の滅亡を宣言しよう。


── 我々の勝利だ!只今をもって、ミレア帝国の滅亡を宣言する! ──



 帰還したパルパとエミルは、帝国の滅亡を王子に報告した。

時を同じく、ラキシア王国にも帝国滅亡を知らせる手紙が届いていた。



 後に元帝国領は、ラキアを国王に、かつて無念の滅亡を遂げた国の名「ヨアナ王国」として、ペレス、ラキシア両国に祝福されて建国された。

これはあくまでも後の話である。

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