第13話『王子との変わらぬ友情』
ミレア兵士隊長に対する苛立ちを隠せなくなったパルパが声を荒げた事によって、ミレアの兵たちが一斉に抜剣した。
「こ奴らを捕らえろ!」
隊長らしき男が叫んだ。
しかし、兵士たちは動く様子がない。隊長が振り返ると、兵士たちはエミルの影縫いによって動きを封じられていた。
かつて、ゲーム内で地竜グラノラスを縛ったあのスキルである。
加えて、オリハルコンで作られた投擲用ナイフが極細の見えないワイヤーによって、兵士たちの喉元に無数に突き付けられていた。
(エミル)
「帰る?それとも死ぬ?」
ミレア兵士たちが去った後、王子が口を開いた。
(ラキア)
「まずは謝罪させて欲しい。
私たちは奴らの言った通り、ペレス王国の双子の王子だ。
言い訳になってしまうが、先日接触したのはミレア帝国に不穏な動きがあって、あなた方を見定めようとしたからだ」
理不尽の面々は、そんな事は気にしないと言う顔で頷きながら酒を注いで、ラキアとパキラの前に置いた。
(ラキア)
「今日来たのは、あなた方との時間が楽しかったから、そこには何の裏もなく本心であることを信じて欲しい」
(ジュマ)
「分かってるよ、誰しも事情がある事もあるさ。そんな理由で怒るような奴はここにいないよ」
王子たちはほっとした表情を見せると、王族と言う立場もあろうに、軽く頭を下げた。
(パキラ)
「帝国の戦争の歴史についてはご存知ですか?」
理不尽の面々は、ゲームの中でその解説があった事は知っている。但し、そんなもの読むような真面目なプレイをする彼らではない。3人が3人共、安定のスキップでスルーしていた。
(ラキア)
「今の帝国領には、元々帝国の他に3つの国がありました。帝国は、それらの国を次々に攻めて、領土を拡大して今の大きな領土を手に入れたのです」
ラキアは、注がれた酒を1口飲んで続けた。
(ラキア)
「そこの湖、ヨアナ湖の大部分は、元々ヨアナ国の領土でした。
ヨアナ国が帝国に攻められた際、ペレス王国は同盟国として共に戦い、帝国を退けました。
その感謝の証として約定を交わし、湖はペレスに譲られました。
その僅か半年後、ペレスでは疫病が蔓延し多くの犠牲者を出すことになってしまいました。
それを好機と、帝国は再びヨアナ国に攻め入りました。
我が国もすぐに動きましたが、疫病の為に十分な支援ができず、ヨアナ国は善戦虚しく侵略されてしまったのです。
帝国は、元々大部分がヨアナ国の領土であった湖は、帝国のものと主張しはじめました。
当然、ペレスは国同士の正式な約定の上に譲渡された領土であると主張しました。
隣国ラキシアも我が国に同意する声明を出してくれましたが、帝国は、滅んだ国との約定は無効と主張し、今日に至るのです」
(パルパ)
「つまり、帝国はみんなの敵って事で合ってる?」
王子たちは、パルパのまとめ方に思わず吹き出しながら「合ってる」を意味するハンドサインを出した。
王子にこれからの事に関する口止めを約束してもらった理不尽の面々は、ペレスに協力する事になった。
先程の動きから、理不尽の3人が腕利きであろう事は分かったものの、だとしてもたった3人が協力したところで、普通は何も変わらない。王子たちは、内心でそう思いながらも、3人の気持ちが嬉しく喜んだ。
王子たちの嬉しい誤算は、理不尽の面々は普通ではない事。そして、酒の席で酔っ払いジョークのように発せられた「変わらぬ友情を誓う」の言は、王子たちを気に入った彼らの、本当の約束であった事。
しかし、王子たちはその事をまだ知らない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます