対帝国
第12話『このたび別荘を建てまして』
ラキシア王国の隣にあるぺレス王国は、大きな湖を挟んでミレア帝国と隣接している。
そんなぺレス王国は後継者争いの真っ只中にあった。
双子として生を受けた2人は、武の第一王子と知の第二王子と呼ばれていた。両者の仲が悪いわけではなく、方針や得意事と言った特色から、国内でそう呼ばれて親しまれており、後継者争い自体も娯楽のように楽しまれていた。
国民としては、どちらが王になろうが、もう一方がサポートにまわり、2人の協力体制で国を治めるだろうと考えられていた。そしてそれは2人の王子たちもそうしようと約束し合っていた。
「どっちも負けるな」
娯楽的な争いに使われるこの野次こそ、ぺレス国民の声であった。
理不尽の面々は、そんなペレス王国の湖に来ていた。魔物の集落を蹂躙して回っている時に見つけたこの湖でバカンスを楽しもうと、湖岸に別荘を建てていたのだ。
彼らはインベントリから地竜の肉を取り出すと豪快に焼き始めた。辺りに肉の焼ける良い匂いが広がっていた。
「こんにちは」
2人の男性が声をかけてきた。
「楽しそうですね。宜しければ私たちも御一緒させてもらえませんか?」
そう言って持ち上げた手には、まだ見たことのないお酒と湖で釣ったと思われる魚、狩りで仕留めたのであろう鳥が握られていた。
ここで断るのが気まずいと言うのもあるが、それ以上に握られている酒に興味がある3人は、目でOKを出し合い2人を受け入れた。2人はパキラとラキアと名乗った。
2人が持っていた酒は、ペレス王国で作られている果実酒で、貴腐ワインに通ずる味をしていた。
地竜の肉は5人共に好評で、2人からは当然何の肉か聞かれたが、先の地竜の王の騒ぎがペレス王国に届いていないはずがないと考え、ラキシア王国で酒を樽買いしたおまけに貰ったと誤魔化した。
夜も更けて、すっかり酔っ払った5人は、全く噛み合っていない話で盛り上がっていた。
翌日昼になって起き出した面々の前には、パキラとラキアの姿があった。
(ラキア)
「すっかりご馳走になった上に、泊めて頂いてありがとうございます」
(パルパ)
「いいっていいって」
(エミル)
「楽しかったしな」
(ジュマ)
「まだ何日かはここにいるから、何時でもおいで」
2人を見送った理不尽の二日酔い共は、パルパに魔法をかけてもらい、二度寝へと戻っていった。
パキラとラキアの両名が湖を訪れていたのは調査の為であった。ミレア帝国に不穏な動きがあると言う報告があり、兵士たちに見回りを指示したのが、パキラとラキアであった。
理不尽の面々はまだ知らないが、パキラとラキアこそペレス王国の双子王子である。
2日後、パキラとラキアは再び湖を訪れた。兵士による見回りは続いているが、この日の2人は見回りの指揮ではない。荷馬車に例の果実酒の酒樽を積んで、理不尽の面々との酒盛りが目当てであった。
先日の酒盛りがよほど楽しかったと見える。
荷台に並ぶ酒樽を見た理不尽の呑兵衛共は歓喜し、早速酒盛りの準備をはじめた。地竜の焼ける匂いが周囲に広がり、酔いもしっかり回った5人が「変わらぬ友情を誓い合っている」所に来客があった。
「こんにちは、おや?これはこれはペレス王国の王子様方」
そう言いながら近付いてきたのは、甲冑に身を包んだ兵士たちであった。話していたのは、隊長だろうか。
(パキラ)
「誰だ?その格好、ミレアの者であろう?」
王子と聞いて、理不尽の酔っ払い共は一斉に膝をつ…くわけがなかった。
彼らにとって王子かどうかなど、何の価値もなく、ただ面白おかしく美味しく楽しい酒が飲めるかどうかが大切であるからだ。
「おやおやペレス王国はまだそんな事を言っているのですか?ここは我らミレアの地、これまでもこれからもね」
どうやら隣国との領土問題を抱えているようだが、それは理不尽の面々にとっては無関係でどうでも良い事だ。
しかし、楽しい酒の席に土足で踏み込み邪魔をしているこの状況には不快感を感じる。
(ジュマ)
「すまないが、ここは私たちの別荘でね。見ての通り、今は友人を迎えて楽しく食事を楽しんでいる。特に用がないなら、お引き取り願えないだろうか?」
ジュマはにっこり微笑みながら話しているが、パルパとエミルの目には、あまり見ることのない怒ったジュマの姿として捉えられていた。
「誰だおまえは?我々は王子と話しているのだ。口を挟まんで貰いたい」
素直に撤退するような奴らではない。理不尽の面々の酔いが、隊長の言葉ごとに冷めていっていた。
「大体何だここは?誰の許可を得てこんなものを建てた?ペレス王国の人間は常識がなくて困る」
ここでパルパがキレた。
─ 帰れと言っただろ? ─
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます