第8話『混乱という名の火に油を注ぐ』

 地竜消失騒動から1週間。ラキシア国王は頭を抱えていた。王だけではない。その場にいる全ての者がそうなるしかなかった。

 調査はまだ続いているが、既にかなり詳しい情報が集められており、城内では誰もがその対応に追われていたのだが、資金面はもちろん、軍や人材に限りもあれば、現地に赴いた者達たちに不休で右へ左へというわけにもいかず、当然休息も必要である。やる事の多さに、何もかもが追いつかず足りずという状態に陥っていたのだ。

 そんなところへ新たな報告がもたらされた。


「申し上げます!国内の魔物の集落が、一夜にしてほぼ全て消滅したとの報告がありました!」


 一撃殲滅の快感に、片っ端から魔物の集落を手に掛けた理不尽のサイコ共は昨晩、王都近くの森にある魔物の集落をも消滅させていた。


「何だと!?」


「近いものは王城内の塔からも確認できます!」


 王を先頭に、その場にいた者皆が確認の為に塔へ向かった。

そこで目にしたのは、遠くの森の一画が円く更地のようになっている光景であった。


「誰か、もっとよく見せろ!」


王の要求に遠見の魔法が王と場の者皆にかけられた。


「一体何をどうすれば、あんな集落ごと地面を抉り耕したような痕ができるというのだ?」


「はっ!報告では集落があると報告されている地点を的確に狙っている事から、少なくとも何者かが明確な意思を持って集落を狙ったものと考えられます!」


「目撃者は?」


「はっ!現在、痕跡付近の町や村を中心に聞き込みを行っておりますが、今のところ遠くから地響きのような音と振動があったが、すぐに外へ出て確認しても変わった様子はなかったというものばかりであります!」


 城内に戻った皆は、再び頭を抱えた。

竜の谷と今回の件、恐らく同じ者が関与している。場にいた全ての者がそう考えていた。


「谷だけでも手一杯だというのに…」


 調査の結果、地竜は幼体成体共に数頭確認されたが、これまでの生息数を考えると、少なくとも100体以上の地竜が不明となっている事が報告されている。

 皆の思いを代弁するかのように、大臣の一人が呟いた。


「そういえば、鍵穴は確認出来たのか?」


 地竜の谷には「竜の大鍵穴」と呼ばれる巨大な鍵穴にのような形をした入口を持つ洞窟がある。そこには地竜の王が住んでいるという伝承があるが、そもそも地竜の谷自体が危険地帯として入谷制限が設けられており、年に1度の棲息数調査以外での入谷が認められたのは、ここ10年でたった3回だけという状態の為、地竜の王の存在は分かっていない。

 もし、この地竜の王が伝承ではなかった場合、今回の件で…。


 その心配は、現実になろうとしていた。

「地竜グラノラス」

かつてゲーム内では、大規模なレイド部隊を幾度も壊滅させ絶対不敗を誇っていたものの、遂に理不尽の理によって初討伐され、運営チームの自演疑惑を加速させた存在。

そう、第1話でグラフィックの底から理不尽共に酒盛りしながら炙られた地竜のネームドボス、地竜たちの王が「地竜グラノラス」である。

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