第2話『攻略!罰当たり共の覇王の塔』

 誠に残念ながら、理不尽の理の連中に新たな娯楽が提供される事が発表された。地上100階層の「覇王の塔」の実装である。ゲーム内では鍛冶師や錬金術師、薬師達が特需を見込んで素材確保に躍起になり、予告された最寄の村は宿屋に食堂、商店の建設ラッシュと、村が町を飛ばして都市になろうかというお祭り騒ぎである。


 『人々を拒むゴノラル山脈の谷間に突如現れた覇王の塔。各階層毎にボス及び取り巻きモンスターが配置され、10階層毎にレイドクラスのボスが配置される。各階層を攻略することで塔入り口の転送石から次階層への転送が可能となる。10階層毎のレイドボスを攻略すると覇王の欠片が手に入り、100階層攻略後に転移した先で欠片を組み合わせることで、完全攻略報酬と覇王の称号を手にすることができる』(公式運営発表より)


 さて、この日の理不尽の酔っ払い共はと言うと、意外にも塔の実装発表に騒ぐどころか話題にすら挙げずに、王都は王城の第3王女(NPC)の寝室で王女にセクハラしながら下品な酒盛りをしていた。

 

 時は流れ、覇王の塔は告知通り実装された。


 覇王の塔実装後2週間が経過した頃である。ゲーム内最大のガチ勢ギルドがこの日、初の10階層攻略を成し遂げようとしていたのと時を同じくして、理不尽の連中は塔を囲む山脈の中の最高峰の中(勿論地中)にいた。


(パルパ)

「ここって、塔の最上階と高さ同じぐらい?」


(ジュマ)

「何か思い付いた?」


 彼らは割と思い付きで行動する。そしてその思い付きを実現させる事に喜びと楽しさを感じている。


(パルパ)

「コンベアでそこの火口湖に水没させられん?」


(ジュマ)

「できるかも」


(エミル)

「じゃあ私、水に酸撒いとくし連れてきて」


 このゲームでは、場所柄上持続ダメージが入る場合がある。溶岩、毒沼、砂嵐の中と言ったものが挙げられるが、呼吸の出来ない水中もまた陸上生物の持続ダメージを発生させる。

 パルパの魔法障壁を敵の足元に張り、ジュマのアースウェイブと言う地面に波を起こし相手を転倒させるだけのネタ魔法を障壁越しに放つ事で、障壁によって相手は転倒せず、攻撃を受けたという判定もない状態のまま、魔法の波のうねりによって相手を、移動した事もわからないぐらいほんの僅かだけ移動させる。これをゲーミングキーボードで高速連射するようにマクロ登録することで、あたかもゆっくりとベルトコンベアで運ばれていくかの如く、敵を任意の場所へと移動させてしまう。

 彼らの悪知恵が編み出したこの技は、仕様による位置のズレを利用している為に壁を無視して移動させてしまう事ができる。

 ちなみに彼らはこの技をボス戦用に開発したわけではない。遡ること1年前、王城の謁見の間から王が姿を消すという事件があった。王を捜索した運営チームによって無事発見された王は、玉座に座った出で立ちのままにトイレに座っていたと言う。

 後に王の隠れてう○こ事件と呼ばれる事になったその事件の犯人は、酔っ払って悪ノリした理不尽の輩共である。


 さて、こうして、塔を順に攻略せずに安全な塔の外から塔を囲む山脈にある火口湖へとラスボスを運び水没させて倒そうというのが今回の連中の作戦だ。エミルの撒いた酸によって、トラップ扱いされ、倒した際に判定が取れるようにしておく事も彼らは忘れない。


(エミル)

「はぁ~いブクブクしましょうね~」


(ジュマ)

「無碍ねぇな」


(パルパ)

「エミルってば残酷~」


(エミル)

「おまえも沈めてやろうか?」


 彼らの作戦はうまく行き、あとは、のんびりいつも通りの酒盛りを楽しむだけになっていた。


[ギルド :「理不尽の理」が、覇王リダリアスを討伐し覇王の塔100階層を攻略しました]


 そんなアナウンスに、ゲーム内のチャットが大荒れに荒れている頃、理不尽な連中はすっかり酩酊状態になっていた。

3人のゲーム画面上には覇王の欠片を組み合わせて嵌め込む石盤がある。


(ジュマ)

「欠片1個だけは草」


(エミル)

「ほんとそれな」


(パルパ)

「他飛ばしてラスボスやるからやで」


(エミル)

「言い出しっぺおまえな!」


(ジュマ)

「取りあえず帰ろか」


(パルパ)

「出口どこ?」


(エミル)

「帰還石使え」


(ジュマ)

「…使えんぞ?」


 無事に罰が当たり、理不尽の連中はめでたく運営にヘルプを出してBANされるしかなくなった事をご報告…したいのはやまやまなのだが!残念ながらこれぐらいで大人しくお縄につくような奴らではない。


(パルパ)

「取りあえず壁抜けして底行こか」


(ジュマ&エミル)

「OK」


 底から見上げると、かなりの広範囲で何かしらのオブジェクトがないかの確認ができる。そうやってこの空間に、先程の石盤のあった部屋以外のものがないかをしらみ潰しに探していく。彼らはこれまでもこうしてピンチを脱してきた、のだ…が…。忘れてはならない彼らは3人とも酩酊状態なのだ。

真っ暗な底で、3人とも棒立ちという画面を前に、いつしか近所迷惑な大イビキをかいていた。

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