不正に攻略!それが彼らの日常です

指月譬

異世界へ!

第1話 『理不尽な奴ら』

 例えばゲームの中にとても強いドラゴンがいたとしよう。いくつものギルドが協力して、大規模なレイド作戦を幾度も失敗させながら攻略方法を模索し、長い時間と多大な損害と多くの犠牲の末に、遂に念願の討伐を成し遂げる…恐らく多くのゲームで、運営する側はそれが正攻法の攻略と考えて運営している事だろう。


 ここに1本のゲームがある。

「The Real Life Of Fantasy World」

多くのプレイヤーが第2の現実世界の如く仮想世界の日々を過ごしている。ある者は早朝からパンを焼き、ある者は酒場を廻って歌い、またある者は火を前に鎚を振るう。そんな世界に、知らない者のいない、しかし誰も見た事がないプレイヤー達が所属するギルドがあった。

ギルド名「理不尽の理」。

これまでに幾多のダンジョンやレイドボスを攻略している為、討伐アナウンスで目にする機会は多い。しかし、彼らが攻略している姿を誰も見ていない事から、無理ゲーを誤魔化す為に運営によって行われた攻略自演じゃないかと噂される事もあると言う。運営チームも良い迷惑である。

 はっきりと言おう。実に誠に本当に迷惑な話ではあるが、彼らは実在している。


 理不尽の理のメンバーは3人。白魔法使いのパルパ、黒魔法使いのジュマ、アサシンのエミル。

 彼らはゲーム起動と同時に音声チャットを繋ぎ、ゲーム内の集合場所で落ち合う。彼らの集合場所は毎日変更され、ゲーム内で発言することはない。

この日の集合場所は、王都の東城壁塔下であった。しかし、他のプレイヤーが情報を掴んでそこへ行ったとしても彼らを見かけることはない。彼らにとっての「下」とは文字通り直下、ゲーム内のオブジェクトをすり抜け、地面さえもすり抜けた地下深く。グラフィックの底である。現実世界ならばこの迷惑極まりない彼らを熱いマントルに始末してもらえるところなのだが…。

 どうやらここで彼らが全員揃ったようだ。


(パルパ)

「今日はどうする?」


(エミル)

「あ~私オリハルコン在庫欲しい」


 数々のダンジョンやレイドをたった3人でこなしてきた彼らは揃ってレベルはカンスト(カウントストップの略で最大値の意)しており、超低確率の装備の強化や消耗品である投擲武器の補充として、入手困難な高級素材を湯水のように使っていた。オリハルコンもその一つで、消耗品である投擲ナイフをオリハルコンで量産するという非常識な用途の為であった。


(パルパ)

「じゃ地竜(※要大規模レイド)行く?」


(エミル)

「すまん、助かる」


(ジュマ)

「何周いる?」


(エミル)

「3周でMAX貯まると思う」


 所持数限界まで素材を確保する為に、本来大規模なレイド作戦を展開するような敵を周回しようなんて考えるのは、理不尽の面々ならではであろう。


(パルパ)

「炙り?溺死?」


(ジュマ)

「上行くのめんどいし、このまま下移動からの炙りでいいんじゃね?」


(エミル)

「焼き加減は?」


(パルパ)

「レア!」


(ジュマ)

「そうしますと討伐失敗ですが宜しいですか?」


(パルパ)

「OK!」


(エミル)

「OKじゃねぇよ!私の為に働け!」


 彼らはかれこれ3年間ほぼ毎日こうしてつるんでいるだけあって親友や家族のような信頼と安心感と無遠慮と無配慮を有する間柄になっていた。

 ここで彼らの言う「炙り」について説明しておこう。使用するのは3人の魔法とスキル、そして1つのアイテム。そして、彼らの姑息な悪知恵である。


「影縫い(エミル)」

対象を移動不可にする。術者が5~15歩移動すると解除される。


「火の加護(パルパ)」

5分間、火属性魔法の効果を1~10%上げる。


「ファイヤフロア(ジュマ)」

一定範囲に持続ダメージを与える火炎を展開する。


「鍛冶の熱石(アイテム)」

炉内の温度を上げる。


 まずはエミルが影縫いでターゲットの移動を封じて攻撃判定外の直下底に移動(要7歩)する。

 次にパルパがジュマに火の加護を付与する。

 最後にジュマが直下底でファイヤフロアを展開する。


 これで準備は万端。

 影縫いは動きではなく移動を封じるスキルである為、スキルで縛っても攻撃は続けられる。となれば本来ならば当然回避などの移動を余儀なくされ、スキルはすぐに解除されてしまう。その為、実戦では使い道がなく逃げる際の時間稼ぎにしかならないが、それさえも帰還アイテムの方が確実である事から要らないスキルとされている…のだが。

彼らの場合、姑息にも直下底に潜る為、縛って潜ってしまえばもう動く必要がない。すると、影縫いは永続的な移動封じというチートスキルとなってしまうのだ。

 次にファイヤフロアであるが、実は火に触れない上空であってもダメージが入る仕様である事はゲーム内でも広く知られている。しかし、空にじっとしている敵がいるわけもなく、仕様上ダンジョンの階下から上階にいる敵にダメージを与える事は出来ないので一般的にはこの魔法を生かせる場面はかなり少ない。加えて与える総ダメージも初級魔法で同じMPを消費する方が圧倒的に多くなる為、ゲーム内では要らない魔法の1つとされている。

しかし!しかしだ!

直下底から遥か上方で動かないターゲットに対して用いるとなれば話は変わってくる。誠に不本意ながら維持して待つだけの簡単なお仕事の完成となってしまうのである。

 そこへ火の加護で補助すれば待ち時間の短縮になるのだが、彼らはもう1つダメ押しをする。ゲーム内でも知られていないがファイヤフロアは炉と同じ扱いのようで鍛冶の熱石を投げ込む事で高温となりダメージ量が倍近く跳ね上がる。一体誰がこんな事を考えたのだか。


 あとは、その火を囲んで鍛冶の熱石を薪のようにくべながら、絶やさないように魔法をかけ直しつつ音声チャット越しに酒盛りをして敵が倒れるのを待つのだ。


 これが知らない者がいない程有名でありながら、誰も見たことがないと言われるカラクリである。彼らは多くの人と同じゲームの世界にいながら、地面の下や壁の中といった裏側世界で毎夜酒盛りをしながら下品な笑いを肴に棲息しているのである。

はぁ…まったく…。


[ ギルド : 「理不尽の理」が地竜グラノラスを討伐しました]


 彼らの酒盛りが下ネタ交じりになってきた頃、ゲーム内では1周目の討伐アナウンスが流れた。

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