第六話 道中

この世界に来てから初めて嫌な夢を見た。


生前の夢だ。


なんてことは無い。


ただの日常が映し出されていた。


 朝に起き、学校に行くため、制服に着替える。

テレビを見ると毎日のように事故や死亡のニュースが流れていた。

それをしばらく見て、学校に行く。

道中、たくさんの人がいた。


気持ち悪い。


信号待ち中に友達と喋る人。


イヤホンをしながら歩く人。

複数の人が話をしている。


気持ち悪い。


学校に着き、教室に向かう。

その途中もたくさんの人とすれ違い、その人たちの声が聞こえる。


吐き気がする。


 教室に入る瞬間、夢は終わり、目が覚めた。






「....嫌な夢だったな」


 隣ではラノとリナが2人でベッドに入り、寝ていた。


 部屋の扉が開き、ターナが入ってきた。


「起きてくださーい!朝ですよー!」


 大きな声でそう言うと、ラノとリナがすぐに起きた。


「起きろと言われたら起きるのがあたし達のいいところ!」


「ところ!」


 ターナが2人の頭を撫でながら、はいはい、えらいえらい、と言う。


 ルーナたちの部屋に行くと、アルン、ルーナ、パール達はまだ寝ていた。


俺らを起こす前にこいつら起こせよ


と思いながら、3人を起こす。


「ほら、朝だよ、起きな。」


「うーん...すやすや」


「もうちっとだけ...」


「起きたくない...」


 1人は少しだけ声を上げながら再度眠り、1人はもうちょっととせがみ、再度眠り、1人は率直な気持ちを声にし、再度眠りについた。


なるほど、ターナは起こさなかったのではなく起こしても起きなかったから俺らの部屋に来たというわけか。


「はぁ...」


 そういえば、ルーナやパールとは結構話をしたが、アルンとはあまり2人で話をしていなかった。


この人も原魔六血家の人で魔法使い、そのぐらいしか知らない。


まぁ、別に知る必要は無いし、いいか。


 そう思い、3人をもうちょっとだけ寝かせることにし、自分の部屋に戻り、着替えをする。


 しばらく経つと3人がやっと起き、朝の身支度をする。


 それが終わると、宿を出る。


「このまま次の街まで行くわよ。みんな、忘れ物はないわね?」


 みんなで忘れ物のチェックをし、イリアムの街を出て、次の目的地に向かう。


「よっしゃあ、長年待ち望んだ妹との対面がもうすぐで叶うんだ!ほら早く行こうぜアルン!」


 ルーナがそう言いながらアルンの手を引っ張り、先まで走っていく。


手を引っ張られながらアルンも一緒に走っていった。


 歩きながら2人を追うと、少し先で2人が座りながら待っていた。


「おっそいぜお前ら」


「はぁっ、はぁっ、はぁっ」


 ルーナは余裕な表情を浮かべていたが、隣に座っていたアルンは息切れをしていた。


 ルーナが疲れているアルンを背負い、楽々と歩いていた。


「まったく、こんくらいでバテるなんて、アルンはまだまだだなぁ!」


「あ、あんたがおかしいのよ。ぜえっぜえっ、魔法使いのくせに。」


 しばらくルーナたちは楽しく歩いていたが、そのうち同じような景色が続き、顔はどんどんつまらなそうになっていった。


そして、辺りが真っ暗になり始めた頃、ルーナがこんなことを言い出した。


「なぁ、しりとりしようぜ。」


「なんとまあ典型的な。まぁいいけど」


 アルンが言い、他のみんなも承諾する。


「じゃあ私から。鳥」


「り、り、り、りから始まる言葉あるっけ?」


「輪廻転生」


「あぁそっか。輪廻転生」


「輪廻転生。輪廻転生。そういえば輪も転生してこの世界に来たのよね。」


 早速しりとりが終わる。


「うん」


「輪の世界ってどんななんだ?教えてくれよ」


 みんなが聞きたそうな顔をしているので、少しだけ話す。


「例えば、俺が元いた世界では魔法が存在してないんだ。」


 手始めにそう言うと、みんなは驚いたような顔をした。


「魔法がないって....つまり、機械だけで日常生活送ってるのか?いやいやいやいやいや、ありえないだろ。」


「いやまぁ、この世界よりは技術が高いし」


「へえ、そういや、なんで輪って自殺したんだ?」


 ルーナがそんなことを口にし、他のみんなも俺が自殺した理由を気にした。


「........」


 俺は無言を続けた。


そんな俺の様子を見て、何かを察したターナは


「まぁまぁ、そんなこといいじゃないですか。それよりも、もう夜ご飯にしませんか?」


 と誤魔化してくれた。


「確かに、お腹空いた。食べよう食べよう」


 ルーナがお腹を抑えながら言い、その辺で焚き火をする。


「私たちは動物狩ってくるから、あなた達は魚を釣ってきてちょうだい」


 パールとアルンとターナが狩りに行き、俺とルーナは釣りに行った。


リナとラノは疲れて眠ってしまった。


「お前竿の作り方知ってるか?」


 ルーナの言うことに首を横に振ると、ルーナが竿の作り方を教えてくれた。


「んで、ここに糸をつければ完成。な、簡単だろ。自分でもう一本作ってみろよ」


 ルーナから竹をもらい、言われた通りに作っていく。


 完成して、ルーナに見せると


「まぁちょっち雑だが、いいと思うぜ。そんじゃ、釣るか。」

 2人で川に糸を垂らし、魚が飛びつくまで待つ。












「いないねぇ。もう諦めない?」


「私たちが諦めたら夕食が魚数匹だけになっちゃうわよ」


「しかもあっちも釣れるかどうか分かりませんしね」


 なにか手頃の動物を探しているが、今日はなかなか見つからない。


「こんなことなら食料をたくさん持ってくるんだった」


 パールはそう後悔し、2人にもう少し遠くに行ってみようと提案する。


 2人とも同意し、森の奥まで進んで行った。


「2人にとって、輪はどんな存在ですか?」


 唐突にターナにそう聞かれ、なぜそんなこと聞くのかを質問した。


「私からしてみれば輪は一番弟子でもありますからね。私はもう輪を仲間だと思っています。しかし、あなた達は私と輪のような関係では無いので、気になったのです。」


 (なるほど、確かに輪とは里にいる時や旅に出てからも必要最低限のこと以外ではあまり話していない。イリアムの町で大きな音がして、外に出てみると輪が血を沢山流していたからその時はさすがに心配した。)


パールはそう思い、率直な考えを2人に話した。


「まぁ、輪が私たちをどう思っているかは知らないけど、私も輪のことは仲間だと思っているわ。見たところ、別に敵という訳では無いし。」


「私もせめてもう少しは仲良くなりたいと思っているわ。」


 2人の意見を聞いたターナはほっとした顔をし、


「よかったです。輪があなた達にどう思われているのか心配だったので」


 と言った。


「まぁ、仲良くなる機会なんてこれから沢山あるわよ。コア・シティまではまだまだ遠いし」


 2人とそんな話をしているとアルンが歩くのをやめ、耳に手をかざす。


「聞こえる。鳥の声」


 アルンが走り出し、私たちはその後をついていく。


 着いた先にはたくさんの鳥がおり、思わずお腹が鳴った。


「ではでは、何匹か頂きましょうか。」


「取りすぎはダメよ」


「わかってるわよ」


 ターナは剣をかまえ、アルンは杖を出し、パールは本を出す。


「「あなた達が今夜の晩御飯よ!(です!)」」










 一方その頃、俺とルーナは魚を何匹か釣り、バケツに入れていく。


「このくらいにしよっか」


「そだな。取りすぎは良くないもんな。」


 竿を時空収納にしまい、魚の入ったバケツを手に取る。


すると、いきなりルーナが


「輪、悪いが先に行っててくれ。」


と少し真剣な顔でそう言い、俺は素直に先に行った。


 俺が先に行ったのを確認すると、ルーナは川の向こうにある木に向かって声をかけた。


「出てこいよ、タイマンだ。」


 すると木の裏から男が出てきて、


「いつからわかっていた」


「最初っからさ、あんたの魔力をビンビン感じてたさ、イリアムの町から出てからすぐにな。」


 男は川の前まで歩き、そこで止まり、


「では、一緒に来てもらおう、他のふたりもだ。」


「嫌だね、断る。」


 男ははぁっと息をし、一瞬のうちにルーナの背後に回り込む。


「ならば、力づくでついてきてもらおう。」


 ルーナに向かって拳を振りかざすと、体に当たる1歩手前でガンっという音がし、男はその場から1歩引き下がった。


 ルーナの目の前に1本のほうきが現れ、ルーナはそれを自在に操る。


「よっしゃぁ、やるか!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る