第五話 原魔六血家

「待ってる....いつまでも......待ってるから」


 あの時と同じ声がし、周りを見る。


 しかし周りには何も現れておらず、声もさっきのもの以外聞こえてはこなかった。


「どうして...俺をこの世界に....?」


 質問をするが応答はない。


 色々な質問を何度もしたがどれも応答はなく、そのうち、また意識が遠くなり、眠るような感覚で意識が無くなった。









 目を開けると、そこは宿の部屋のようで、そこで俺は横になっていた。


周りにはルーナやパール、ターナにラノとリナがいた。


 俺が目覚めたことに気がつくと、ルーナに話しかけられたが、あの時と同じ、周りが止まっているような感覚で何を言っているのかわからなかった。


他のみんなも何かを話しているようだったが、ルーナと同様、何を言っているのかわからなかった。


すると、パールが俺にメガネを差し出してきた。


それをかけると、今までの周りが止まっているような感覚が消え、声も聞き取れるようになった。


「おはよう輪!お前ほんとに無茶したな!生きててよかったよ。」


 次にパールが


「まだ起きないで。あなた、死にかけたのよ。本当に危なかったわ。」


 ラノとリナも


「あのゴーレムが出たなら私達も戦いたかったのにー!私たち二人は最強なんだよ。」


 と言い、お互いの顔を見ながらニコッと笑った。


 最後にターナが


「あ・な・た・は・何度危ない目にあえば気が済むんですか!私が許可するまでは人より強い相手とは戦わないようにしてください!」


「はい...そういや、君ら俺が戦っている間、何してたの?結構大きな音とかしたはずだから気づいてはいたはずだと思うんだけど...あとこのメガネって...」


 そう言うと、みんなは顔を逸らし、誤魔化すような仕草をした。


「え....もしかして....気づいてなかったの?あんな大きな音がして?え?嘘でしょ?」


「うるっさーい!昨日は疲れてたんだよ!」


 ルーナが大声で言い、その言葉にターナ達もうんうんと賛同した。


 その後、部屋の扉が開かれ、外からアルンが入ってきた。


「輪、目が覚めたのね、よかった。」


 そう言うと、アルンはパールの耳元でコソコソと何かを話すと、パールは


「みんな、輪の怪我が治り次第、すぐに次の街に行くわよ。奴らにまた襲われる前にね。」


 奴ら....あのゴーレムのことか?と思い、パールにその事と、眼鏡について聞いた。


「えっと...まずは眼鏡なんだけど、あなたが眠っている間、あなたの中身を見させてもらったわ。周りが時が止まったみたいにゆっくりに見えるそうね。」


 その言葉に、そんなすぐに分かってもらえるなんて、やっぱり魔法使いってすごい。


と思いながら、ちらっとルーナの方を見ると、


「なんだよ...やんのか?」


 と、拳を上げながら言われ、首を何度も横に振った。


「多分、その能力も例の人が授けたやつね。それで、その眼鏡にはその能力を抑制する魔法をかけてあるわ。その眼鏡をかけていれば普通の速度で日常をすごせるわ。」


「そうなんだ、ありがとうパール。それで、さっきの奴らのことなんだけど」


 その言葉にパールは少し間を空け、話し出した。


「前にも言ったけど、連中はアルン、ルーナ、そして私を狙って時々襲ってくるんだけど、その理由は私たちが周りとは違う、特別な存在だからなの。私たちは、原魔六血家のうちの三家、箒の原血、杖の原血、本の原血の人間なの。原魔六血家っていうのは、魔法の原点、つまり、魔法を生み出した六人の魔女の血を引いている家ってことなのよ。箒や杖の名があるのは、魔女たちがそれを使っていたかららしいの。」


「魔女...」


「まぁ、連中が私たち目当てなのもあるけど、本命はこの子なの。」


 そう言うとパールは時空収納ではなく、持ってきたバッグから1つの玉を取り出した。


「この中には人が入っているの」


 そう言いながら、近くのテーブルに玉を置いた。


「今から話すことは、私たち3人がターナたち、業の里のみんなと出会う前のことよ。」













「おーい、パールー!遊ぼうぜー!」


 本の原血の家の前で大声を上げているのは、杖の原血の家の子、アルン、箒の原血の家の子、ルーナだった。


「わかってるよー。ちょっと待ってー!」


 こちらも大声を上げながら外に行く準備をしている本の原血の子、パール。


 支度を終え、玄関の扉を開ける前に両親に挨拶をしようと思い、両親がいる地下の部屋のドアを開けた。


「お父さん、お母さん、いってきます」


「はいいってらっしゃい」


 開けた瞬間、母が扉を目が見える程度まで閉めた。


 若干見えた部屋の中にはアルンとルーナの両親もおり、そこで何かをしていた。


 少し気になったが、2人が待っているので走って外に出た。


「お待たせ。何して遊ぶ?」


「あれやろうよあれ!だるまさんがぶっ飛んだ!」


「やろー!」






 そして、いつも夕暮れになるまで3人でずっと遊んでいた。


 遊び終わり、2人が家に帰ると、パールも家の中に入り、夕食を食べに部屋に行った。


「いただきます」


「パール、夕食が食べ終わったらまた血を抜かせてもらうぞ。」


 父にそう言われ、


(正直自分の血を抜かれるの嫌なんだけど)


と思いながら頷いた。








 血を抜かれ、その血を父はすぐに部屋の外に持っていった。


その後はシャワーを浴び、ふかふかのベッドに入り、すぐに眠りにつこうとした。


明日もルーナ達と遊ぼうと思ったが、今日見たあの部屋のことが気になった。


 両親はいつも地下には行くなと言われていた。


 もうこの時間は両親も寝ているので、こっそりと地下の部屋を見ることにした。


 両親が起きないようにこっそりと地下へ向かう。


地下にある部屋の扉を開け、中に入ると、そこにはたくさんの実験器具や資料があった。


 それらを見ていると、テーブルの真ん中に水晶があることに気づいた。


 水晶の中をよく見ると、


「え....これって...」


 中には体をうずくませた自分より少し歳の小さい女の子がいた。


女の子は目を閉じていたが、苦しそうな顔をしていた。


 近くにあった机を見ると、そこには資料とたくさんの実験器具、そして、アルンとルーナ、そしてパールのものらしき血の入ったチューブが水晶に繋がっていた。


 あまりのことに恐怖と両親への不信感が溢れ出した。


「え...子供をこの中に入れたってこと...?いや...違う...まさか..私たちがいつも血を抜かれていたのって....まさか....!」


 血を抜かれるのは日々の健康チェックだと両親は言っていた。


 しかし、実際はその血を水晶の中に注入していた。


「でも...なんでそんなこと...」


 資料を見ると、あることがわかった。


 アルンと、ルーナ、私の両親は私たちの血を使って、最高の魔力、最強の魔法が使える魔法使いを人工的に作り出すことだった。


しかしそれで作られた人間は魔力が暴走し、寿命がとてつもなく短くなるらしい。


そして完成したとしても、魔法で洗脳し、短い人生をあの両親のために使われるそう。


「そんな...お母さん...お父さん...そんな...」









 次の日、いつも通り、魔法の勉強が終わり、外からルーナたちの声が聞こえる。


「おーいパールー!遊ぼー!」


 遊ぶ支度をし、両親へ挨拶をしに行く。


 今日も両親とアルン、ルーナの親は地下の部屋にいた。


 行ってきますと言い、外へ出る。


 いつもどおり、2人と一緒に遅くまで遊んだ。


 そして、昨日の出来事を2人に話すことにした。


 最初は信じて貰えないだろうと思ったが、話してみると2人はそれを信じてくれた。


「なんだそれ。私たちの血から人を作ってるってことか?」


「多分...」


「そういえば、私のお父さんとお母さんも家に帰っても全然部屋から出てこない」


「そういえばあたしんちもだ。...でもさ、それでなんか困ることがあるのか?人を作ってても別に問題ないんじゃねーのか?」


「それだけならそうなんだけど、部屋にある資料を見ると、作るだけじゃないの。」


「え?」


 パールは2人になぜ両親が人を作っているのか話した。


「それひどくない?」


「いやでも、ドッキリとかじゃないのか?私たちへの」


 ルーナがそう言ったが、2人は納得出来なかった。


「今日、帰ったらお父さんとお母さんに聞いてみる。」


「私も聞いてみようかな」


「いや、みんなで同じ日に聞いたら私たちが何か考えてるんじゃないかって思われるんじゃないか?聞くのはパールだけでいいだろ」


 ルーナの言ったことに2人は同意し、その夜、パールは両親に地下のことを聞いた。


「ねぇ、地下でなにやってるの?」


 そう言うと、両親は椅子からガタッと立ち、パールの肩を掴んだ。


「地下で何を見た?お前、見たのか?あれを」


「え...いや、いつも地下にいるから何やってるのかなって」


 初めて見る親の厳しい顔に、少し恐怖を感じた。


「なんだ、そんなことか。パールには関係ない事だよ。」


「でも...あの玉は.....」


 うっかり口走ってしまい、両親の顔を見ると、先程とは比べ物にならないくらい、厳しい顔をしていた。


「やっぱり見たのか!!あれはなんでもない!!お前ももう二度と地下には来るな!わかったな!!」


 そう父に言われた途端、パールはあるひとつの計画を思いついた。


「うん...わかった...」


 涙目になりながらそう言い、自室に戻り、その日はそのまま一日が終わった。










「やっぱり、そうなのね。」


「どうする?一応、私たちの妹でもあるんだよな。そいつ」


 アルンとルーナにそう言われるとパールは昨日思いついた計画を2人に話した。


「逃げよう。あの玉を持って、遠くに」


 そして計画の流れを話すと、2人は驚いたような顔をしながら、


「え...それ昨日と今日で思いついたのか?すっげーなお前」


「でも、お父さんやお母さんから逃げるなんて」


 ルーナは乗り気だったが、アルンは気乗りではなかった。


そんなアルンにルーナは


「お前、父ちゃんや母さんから何かしてもらったか?」


「魔法の勉強を教えてもらったりはしたけど、それ以外はあんまり...ご飯も自分で作ってる...」


「だろ?そもそも私たちの親は普通じゃないんだよ。どの道今回のことが無くても私はそのうち、ここから逃げるつもりだったぜ。」


 ルーナの言葉にアルンも決心したようで、


「うん...そうだね。たとえ逃げても私たちなら生きていけるよね。」


「それで、いつ逃げるんだ?今日か?今日だよな?」


 ルーナが急かすような事を言ったが、パールは


「....えぇ、今日よ。今日の夜、ここからあの子を連れて逃げるわ。」


 3人で何時に逃げるかを計画し、暗くなったのでそれぞれの家に帰っていった。


「お父さん、お母さん、おやすみなさい。」


「ああ....おやすみ」


 寝床につき、両親が寝る時間になるまで待つ。


 両親が寝る時間はいつも10時、その時間になるまで何度も計画の見直しをする。


 そして、10時半になり、計画を実行に移す。


 足音を立てないように地下に行き、部屋の扉を開ける。


 部屋の真ん中にある玉を持ち、外に出る。


外にはアルンとルーナがおり、3人でルーナのほうきに乗り、全速力で遠くへ逃げていった。











「そして、業の里にたどり着き、そこにいるみんなに事情を説明し、私たちを受け入れてもらったの。」


「じゃあ、里で言ってたあの件って...」


「そう、そろそろこの子を外に出してあげないとなって。そのために私たちは魔法を勉強したわ。それはもう、色々な魔法をね。」


「そして、最近やっとあの子を外に出せる魔法が完成したの。その魔法を次に目指す場所で使うわ。」


「あなたからしたら、目的地に行くのに何ら関係はないけど、付き合ってくれるよね?」


「もちろん。そもそもみんなは俺に付き合ってもらってるからそのぐらい全然。ちなみになんで今じゃないんだ?」


 その疑問にパールは


「実は魔法ができたと言っても私達じゃまだ使えないの。でも、魔力がたくさん集まった場所でやればその魔法を使えるかもしれない。だから魔力のたくさん集まった場所に行く必要があるの。」


 話が終わり時計を見ると、時刻は11時を過ぎていた。


「昼ごはん食いに行こうぜ!ずっと輪が起きるのを待ってたからお腹ぺこぺこだ。」


 宿を出て、昨日からみんなが決めていた店へ歩く。


 歩きながらみんなは他愛のない話を俺に聞かせていたが、そこには何か気を使っているような感じがした。








 店まで後ちょっとのところで、いきなり俺は誰かに口を抑えられ、そのまま人気のない道まで連れていかれた。


 そこには、先日俺に絡んできた奴らがいた。


 ボスの取り巻きに体を抑えられ、動けないでいると、ボスが目の前に歩いてきた。


「よう、クソガキ。前のお礼をさせてもらうぜ。」


 ボスは拳を握り、俺の顔目掛けて殴ってきた。


「ッ!うぅ....」


 前のゴーレムほどでは無いが、痛みを感じ、俺は呻き声を上げた。


「どうだ?まだまだ行くぞ」


 それからも俺は何度もボスの拳を受けた。


 顔や腹を殴られ蹴られ、体を抑えられているので抵抗もできない。


 そして、ボスは一旦殴るのをやめ、俺に話しかけてきた。


「おい。なんだその目は?」


 俺はずっとボスの目を見ていた。確かに殴られ蹴られして痛かったが、そんなことよりも、殺したいという気持ちがあった。


「ッ!この!ガキが!」


その後もボスは何度も顔を殴ったが、その間も俺はずっとボスの目を見ていた。


何発目か分からない拳をくらいそうになった時、ボスは寸前で止め、顔からは汗が少し流れていた。


(なんだこいつ.....)


 ボスは恐怖していた。


もしかしたらこいつは復讐しに来るかもしれない。


あの剣をもって、どこまでも、たとえ死んでも。


 俺の目を見ながらボスはそう思い、部下に行った。


「こいつを離せ」


「へっ、いやボス、あんたがやらねーんなら俺たちがやるぜ」


「いいから離せって言ってんだよ!!」


 ボスの突然言ったことに部下は驚いていたが、ボスが大声を上げた途端、俺の体から手を離した。


「はぁっはぁ、ゲホッゲホ!」


 解放され、地面にヘタレ込み、何度も咳をする。


 それでも俺がボスの目を見ていると、突然ボスの頭の上から手を組んだ腕が現れ、ボスの頭目掛けてその手が思いっきり落ちた。


「天空落としー!!」


 ルーナの声が聞こえ、その手がルーナのものだとわかった。


「輪!大丈夫か!」


 ルーナに思いっきり、殴られたボスは気を失い地面に倒れ込んだ。


 ルーナはそんなボスのことは気にせず、俺の前に走ってきた。


「お前は怪我してばっかだな。行こうぜ、みんなが待ってる。」


「えと、残りのやつらは...」


「あぁそうか。おいお前ら!次うちの輪に手出してみろ!地獄の果てまでぶっ飛ばしてやるからよ!」


 ルーナがそういった途端、残りの取り巻きはボスを連れてどっかに行ってしまった。


 魔法使いの言うセリフじゃねーな。


「さ、行こうぜ!」


 地面にヘタレこんでいた俺にルーナは手を差し伸べた。


 その手を掴み、立った俺は、こんなことを考えた。


 もしも、最初にあの空間であの人の手を掴んでいたら、どうなっていたんだろう、と









「うわぁ」


 店でみんながいたテーブルに行くと、ターナがそう呟いた。


「チンピラに絡まれてたんだよ。ボスにやられそうって時に、私が颯爽と現れ、魔法で全員追っ払ったぜ。」


「なるほど、ルーナがそのチンピラを殴って退治したのね。」


 パールがそう言いながら、俺に治癒の魔法をかけた。


「いやそうじゃなくて、あたしの魔法でだなぁ。」


「それじゃちゃっちゃとご飯食べましょうか。」


 ルーナの言うことに全員が無視し、目の前にある料理を食べていく。


 俺も目の前に料理を食べようとする。


 すると突然横から1口サイズの肉が現れた。


「はい、アーンして」


 パールは俺にそう言い、肉を口元まで近づける。


「いや、1人で食べれるよ」


「ダメよ、あなた、この短期間でどれだけ怪我したと思ってるの?ほら、さっさと口開けなさい。ちゃんと噛むのよ」


 そう言われ、大人しく口を開けると肉が口の中に入る。


「ちゃんと噛むのよ」


 2回も言われたので、素直に何回も噛んで飲み込む。


 それをずっと見ていたルーナが


「なぁ、アルン。あたしにもアーンしてくれよ」


 アルンは顔を赤らめ、


「はっ!はぁ?じ、自分でやんなさいよ。あなた、怪我して無いんでしょ」


「いや、チンピラを手で殴ったからよぉ、手が痛くてぇ。な?な?やってくれよアルンちゃーん。あ、でも肉を食べさせてくれよ、間違ってもピーマンは食べさせないでくれよぉ」


 アルンはしょうがないわね、と言いながら、肉をひとかたまり取り、ルーナの口に入れる。


「うーん、美味しいぜこの肉、柔らかくて食べやすくて、しゃきしゃきとして、想像以上の苦味が、ってこれ肉の中にピーマン入ってんじゃねーか!」


 ルーナはそんなノリツッコミをしながら口の中にあるものを吐き出そうとしたが、アルンがルーナの口を押え、


「ほら!飲み込みなさいよ!美味しいわよピーマン!」


 少し楽しそうにそんなことを言っていると、ルーナはやっとピーマンを飲み込んだ。


「はぁ!はぁ!死ぬかと思った。」


 ターナとリノとラノはそんな様子を見ながら笑っていた。


 隣を見ると、パールが俺の方をじっと見ていた。


「なに?」


「いえ、次行くわよ」


 次の食べ物を口に入れてもらい、よく噛んで飲み込む。


 そんなことを繰り返し、お腹がいっぱいになると、店を出て、宿に戻った。


 宿でみんなで色々遊んでいると、いつの間にか夜になり、各々の部屋に戻り、そのまま眠った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る