第四話 イリアムの街

「おーい。見えたよー!」


 ラノが大声で後ろにいる俺たちに言い、走って街の中に入っていった。


 業の里から1番近い、イリアムの街、ここには里のみんなも何度も行っていたようだ。


「それじゃ、今日はここに泊まりましょうか。」


 宿をとり、夜まで自由行動ということで、俺は街から少し離れた森で特訓を始めた。







「おっ、おーい、次はあれ食おうぜ!」


 ルーナとラノとリナが美味しそうな食べ物を手に持ちながら次の店へと向かう。


「まずその手に持ってるものを食ってからにしなさいよー。」


 アルンがそう言いながら、自分も手に持ってる食べ物を、口の中に頬張り、すごい速さで食べていった。


「あなたも食べたいんじゃないの。私が持つからとりあえず食べたいのを頼んで宿で食べましょう。」


 パールの提案に全員が納得し、街にある食べ物を片っ端から頼んでいった。








「おいしー。やっぱこの街の食いもんは最高だぜ!ターナも食えよ。うめーぞ。」


「分かってますよ。....うまー。」


「もうこれが夕飯ね。輪の分も買ってきといて良かった。」


 そう言うと、パールも一心不乱に食べ物を食べていった。










「そろそろ戻るか。」


 特訓を終え、辺りが暗くなり始めたので、宿に帰ることにした。


 宿に向かっている途中、突然、知らない人から声をかけられた。


「あの、すいません、僕の友達があっちで倒れてて、助けてくれませんか?」


 何故こんなに人がいるのにピンポイントで俺が声をかけられるんだ...


そう思いながら、倒れてる人を野放しには出来ないので、他にも人を連れていこうとしたが、


「あの、早く来てください。もう友達が、早く....」


 と、強引に手を引っ張られながら連れていかれた。







 着いた先には彼の言っていた倒れてる友達はおらず、代わりに俺よりはるかに大きい体をした男と、刃物を持った男性2人が待っていた。


(刃物もってる....怖い...)


「おう兄ちゃん、痛てー目に会いたくなければ、その剣を置いてとっとと帰りな!」


 刃物があることに怯えている俺に対し、大きい体のボスらしき人が決まり文句のような事を言いながら俺の周りに先程声をかけられた男性も刃物を持ちながら集まった。


 どうやら、俺が持っている剣が目当てらしい。


今すぐ走って逃げて、人混みで大声を上げればいいかと思ったが、この1ヶ月でどのくらい強くなったのか気になったので4人の相手をすることにした。怖いけど。


「嫌です....」


「そうか、やっちまえ!」


 消え入りそうな声で断ると周りの男たちが一斉に刃物を刺しに来たので慌ててしゃがんで避ける。


仲間同士で刺さるのを回避しようと男たちは急ブレーキをする。その隙に全員の足を思いっきり蹴り、倒れさせる。


 倒れた人達は当たりどころが悪かったのか、しばらく痛そうにうずくまっていた。


 ボスの足だけは太くて倒れそうになかったので、腕を掴み背負い投げをする。


 しかし、あまりにも重すぎて持ち上げられず、逆にボスに投げられた。


が、


投げられるのはターナに嫌ってほどされたので、難なく受身をとる。


 すぐに立ち上がり、目の前にあるボスの股間目掛けて、蹴りを入れた。


 ボスは股間を手で押え、膝つけながら痛そうな声を上げていた。


 そして剣を取り、ボスの首元に突きつける。


「まだやる?こっちも暇じゃないんだけど」


 心臓がバクバクしながら、カッコつけたセリフを言うと、連中はすぐに逃げていった。


(よかった。ちゃんと勝てた...)


 特訓の成果が出て、嬉しくなり、剣を鞘に収める。


 そのまますぐに宿に帰った。










「おかえりなさい。遅かったですね。なにかあったんですか?」


 ターナに聞かれ、先程の事を言うと、ターナは嬉しい顔をしながら、


「そうですか!特訓の成果が出てよかったです。あ、でもだからって浮かれすぎてはいけませんよ。またあの時のゴーレムみたいなのが出てきたら迷わず逃げてください。」


 その言葉に頷き、剣を床に下ろす。


「それじゃ、晩御飯にしましょうか。」


 パールがそう言うと、突然何も無いところから黒い渦みたいなのが現れ、そこに手を突っ込むと、中から食べ物がいくつか出てきた。


「.....なにそれ」


「あれ?あっそうか。教えてなかったわね。これは『時空収納』何もない空間に荷物や食べ物を入れて置けるの。あなたも私から魔力や魔法について教えられたから、使えるはずよ。」


 パールからコツを教えてもらい、その通りに魔力を集中させ、頭で時空収納を想像する。


何度か失敗したが、回数を重ねると突然目の前に渦が現れた。


「出来たわね。時空収納は便利だし、簡単な魔法だから覚えていて損はないわ。」


「これならたくさんの荷物を持っていけるしな。」


 あぁ、だからみんな荷物が少ないんだ。


 最初、みんなの荷物が少ないことに疑問を感じていたが、今ので納得した。


「なぁもういいだろ、早く食べようぜ。もう腹が空きまくってるぜ。」


「あなた、さっき沢山食べたわよね」


 ルーナの言うことにアルンが言い返すと、横でパールがぼそっと


「あなたもでしょ...」


 と言ったのを俺は聞き逃さなかった。


「ではでは、いただきましょうか。」


 ターナが言い、他のみんなも一斉に食べ始める。


 俺が初めに手に取ったのは、タレが程よくついてる焼き鳥。それをひと口食べる。


「......うっまーい!なにこれすっごい上手い!」


 その言葉に同じものを食べていたラノとリナは食べながら何度も首を頷く。


 焼き鳥を3本ほど食べ、次にルーナが食べていたチーズがものすごく伸びているピザを手に取る。


 口に含みピザを持っている手を遠ざける予想以上にチーズが伸び、すぐさま残りの分も口に入れる。


「これもうまーい!おいしー!」


 次から次へとテーブルにある食べ物をたいらげる。他のみんなも一心不乱に料理を食べていき、お腹いっぱいになる頃にはテーブルにあった料理はほとんど無くなっていた。


 晩御飯を食べ終え、明日も早いので、寝ることにし、自分の部屋に戻る。


 部屋は2部屋用意しており、1つはアルン、ルーナ、パール、ターナ、もうひとつは俺、ラノ、リナになった。


「ねぇねぇ、輪は11歳の頃、どんな子だったの?」


 唐突にラノにそう聞かれ、リナも聞きたそうな顔をしていたが、生前の頃の話は思い出したくなかったので、適当にはぐらかし、どうしてそんな質問をしたのか聞いた。


「それはね、私たちが11歳だからだよ。ほら、私たちってこう見えて大人っぽいじゃん?だから普通の11歳の子がどんな感じか知りたかったんだ。」


 大人っぽい....気になるところがあったが、スルーした。


つまり、この子達に手を出した人はその瞬間ロリコン認定されるというわけか。寝ぼけて隣のベッドに潜らないようにしなくては...


 2人との話が終わり、眠くなったので、その後は何事もなく眠りについた。















 どっかーん!!


 という音が聞こえ、慌ててベッドから起き上がり、窓の外を見ると、業の里で出会ったゴーレムが一体クレーターの中央に現れていた。


 ゴーレムはゆっくりと俺たちのいる宿に歩いてきていた。


「なんでこっちに....」


 里で戦った時は完全に俺の負けだったので、リベンジをしたいと思い、コートと剣を持ち、急いでゴーレムがいる場所まで走った。


(大丈夫、ちゃんと特訓したんだから。)


 ゴーレムの前に立ち、剣を構える。


前と同じく、ゴーレムは拳を握り、殴ってきた。


体をしゃがませ、剣を逆手持ちにし、斜めに地面に刺す。


そのままゴーレムの拳を剣で受け流し、すぐに剣を逆手から元に戻し、両手で掴み、ゴーレムの腕の付け根を斬る。


 斬った腕が地面に落ち、重そうな音がした。


(いける!このまま落ち着いて相手の動きを見れば!)


 次に足を狙おうと、腕を斬った勢いのまま足の付け根を斬る。足が地面に落ちると同時にゴーレムはバランスを崩し、倒れる。


 トドメをさそうと、頭の部分に剣を構える。


だが、刺そうとした瞬間、残っていた方の腕が俺の体を殴り飛ばした。


とんでもない速さで殴り飛ばされたため、防御も出来ず、もろにくらい、25mほど飛ばされた。


「げほっごほっ!うぅ....」


 先日受けた時とは比べ物にならないくらいの痛みを感じ、血反吐を吐いた。


(やばい...なんで...いきなり...)


 うずくまっている最中も片足を失ったゴーレムは俺のところにゆっくりと小刻みに飛びながら近づいてくる。


 何とか立ち上がり、次の策を練ろうとした。


 殴られた場所を左手でおおい、右手で剣を持ち、構えた。


(もう一度片手を斬る。そしてすぐに首。)


 近づいてくるゴーレムに自分から走り出し、後ろに回りこみ、振り返る時間も与えずに残った腕を斬ろうとする。


 しかし、あとほんの少しというところで、突然大ジャンプをした。


斬ることに全ての力を注いだ俺はそのままバランスを崩し、前に倒れ込む。


そこにゴーレムの腕の肘が思い切り、背中にめり込む。


 ボキボキという音と共に口から血が吹き出す。


 あまりの苦しさと痛みに涙を流していると、体をゴーレムに持ち上げられ近くの商店に投げられた。


(痛い...痛い...痛い...痛い....痛い..)


 感じるのは痛みのみ。


もう次にどう動くかを考える余裕などなかった。


 投げられた場所から立ち上がり、ゴーレムをじっと見る。


 動こうとは思わなかった。


このまま次の攻撃を受けたら死ぬ。


そう感じながら、まだ続く痛みに意識を奪われていた。


ゴーレムがゆっくりとこちらに近づいてくる。その間も俺はずっと続く痛みに気を取られていた。


 しばらく経つとようやく痛み以外の事を考えられるようになり、あることを考えた。


(こいつを...殺す...骨が折れようとも、腕が無くなっても...脳が飛び散ろうが、こいつだけは....)


 このまま俺が死んでも、あいつが生きていることが気に食わなかった。


ただそれだけのことで、殺したいと思った。


 もう次の策は考えなかった。次にどう動くかも考えなかった。


 ただ、体が動く。


殺したいという事を考えながら、ゴーレムに近づく。


 残った足を斬りたいと思ったので、斬る。


ゴーレムの体が地面に転ぶ。


 次に残りの腕を斬る。


次に胸を刺す。


何度も...何度も...


ゴーレムは先程から動こうとはしなかった。


いや、動いていはいた。


ただその動きがとてつもなくゆっくりだった。


まるで時が止まったみたいに。


ゆっくりと。


そして、頭を斬る。


その瞬間、ゴーレムの体が結晶となって消える。


 ゴーレムがいなくなり、ほっとしていると、後ろにパールがいたことに気づく。


 パールは俺を心配そうな顔で見ており、だんだん俺は眠くなり、そのまま意識を失った。

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