第七話 刺客

 男が指をパチンと鳴らすと、周りの森や川が消え、真っ白な空間になる。


「これは私の魔法だ。この空間から解放するには私を倒さなくてはいけない」


「なんだ、簡単じゃねーか」


「ほざけ、小娘が」


 男がいくつかの魔法陣を床に描くと、魔法陣が床から飛び出し、ルーナの方に向く。


 そこから力が込められるような音がし次の瞬間、魔法陣からビームが飛び出す。


 ルーナは箒にのり、ビームを避ける。しかし、ビームはルーナの方に向きいつまでも追いかけた。


「なるほど、追尾系か。だったら!」


 箒のスピードを上げ、ビームを一気に突き放すと、ルーナは振り返り、箒の先端に魔力を込める。


魔力が込められた箒の先端が光だし、追尾するビームに向かってこちらもビームを放つ。


お互いのビームにより、爆発が起こる。


「へっへー。まだまだ行くぞ!」


「それはこちらも同じだ」


 男はルーナが逃げている最中に呪文を唱え、大きなひとつの魔法陣が浮かび上がる。


「させねーよ!」


 ルーナも男に向かっていくつかの魔法陣を描くと、それらをひとつにする。


「アイアン・ロッド」


 魔法陣の中央から鉄の棒が勢いよく飛び出し、男に放たれる。


「ちっ」


 男は詠唱をやめ、手を鉄の棒に向ける。


「マジックシールド」


 手からガラスのようなものが現れ、鉄の棒と衝突する。


 お互いに粉砕し、煙や砕けた破片が飛び散る。


 男が周りを見ていると目の前から拳が飛んでくる。


それを間一髪で避け、その場から離れると、すぐに先程の詠唱を再開する。


煙が消えていき、ルーナの姿が見える。


 見ると、ルーナも詠唱を開始しており、お互い何も邪魔はしなかった。


 そして詠唱が終わり、一斉に魔法をぶつける。


「アクアフルーレ!!」


「ライトニング・ボルト!!」


 2つの上位魔法が衝突し、またも煙が出てくる。


 しかし、威力としてはルーナの方が上だったため、そのまま男の方にルーナの魔法が飛んでくる。


(私以上の力だと?この小娘.....)


「ぐっ!」


 必死に魔法を避けようと横にステップしたが、ステップした先で別の魔法が男に当たった。


「なんだと.....」


 上位魔法を詠唱して発動させた後は普通、すぐに別の魔法を使うことは出来ない。


 そう、普通なら。


 ルーナは上位魔法どころか、その一段階上、極魔法を使うことができるため、上位魔法など何度も使える。


「上位魔法で詠唱をしたのは....私を油断させるための....」


「正解!まだやるか?こっちは大歓迎だぞ!」


 ルーナは箒に魔力を込め、次の魔法をいつでも打てるようにする。


「お前、名前はなんだ?」


「.....ディエゴだ....」


「よっしディエゴ、お前はどこから来た、なぜ私たちを狙う。」


「それは言えないな。依頼内容にそいつらのことは話すなとあるんでな」


 ディエゴは腰をおろしたまま、手を上にあげると、白い空間が元の森や川に戻った。


「あたしの勝ちだ、トドメは刺さないからとっとと消えな」


 ルーナは勝ち誇った顔をし、ディエゴにそう言った。


「あぁ、そうするよ」


 ディエゴが立ち上がり、ルーナから背を向け、歩いていく。


(あいつが父母からの刺客か聞きたかったがまぁ、そうだろうな)


 ルーナも後ろに振り返り、パールたちの元へ戻る。


「!!」


 その瞬間、後ろで爆発と共に背中にとてつもない痛みを感じ、爆風で吹き飛ぶ。


 ルーナは何が起こったのかを察し、舌打ちをした。


「痛てぇ。あいつ、見逃してやったのに....」


 後ろの木にもたれながら煙が消えるのを待っていると向こうからディエゴが歩いてくる。


「見逃されたからって帰ると思ったか、チャンスがあればものにする。 それが私だ。」


 呪文を唱えながらルーナに近づいてくるディエゴ。


(こりゃ、ちょっとやばいな。アイツらが今の爆発で気づいてくれれば、何とかなるかもだが。)


 ルーナは歩いてくるディエゴを見ながら昔、アルンとパールに言われたことを思い出す。


「あんたはいつも敵に甘いのよ。勝ったって感じたから急に油断するんだもん。」


「いい?勝ったと感じてもせめて遠くに飛ばすとか再起不能にしてから勝ち誇るのよ。」


(はは、アイツらの言う通りだな。)


 目の前までディエゴが近づき、今にも魔法を繰り出しそうだった。


 もう終わりかと思った瞬間、横から剣を持った男がディエゴに、向かって斬りかかってきた。


 ディエゴは容易くそれをかわし、後ろに下がる。


「輪!」











 俺はルーナに近づいていた男に剣を構え、ルーナに安否を確認する。


「いや、大丈夫ではないけど、なんで来たんだよ。」


「遅いからに決まってるじゃん。あいつにやられたんだろ。お前は魔法で回復してて。」


 そんなことを言うと、ルーナにダメだと言われた。


「お前が勝てる相手じゃねー、とっとと逃げてアルン達を呼ぶんだ。」


「そんな暇あったらお前がやられるだろ。俺が言った通りにして。」


 ルーナはまだなにかいいたそうだったが、気にせず俺は相手の方を向く。


「仲間か、だがお前では話にならん。今ならお前には何もしない。さっさと消えるんだ。」


「仲間だから見捨てられないんだ。行くぞ!」


 掛けてある眼鏡を外し、剣をかまえる。


 そして、敵に向かって走り出す。


敵はまだ動こうとはしない。


いや、ゆっくりに見えるだけで実際相手は動いているのだろう。


 行ける!


 剣を相手に向かって斬りつける。


 敵は驚いたような顔をしながら斬られた箇所を魔法で回復する。


 何度も攻撃をおこなったが、手応えがあまり感じなかった。


 攻撃をしながら俺はパールに言われたことを思い出した。


「普通、魔法が使える人は戦闘中、魔法で体を強化してるの。だから、手練じゃない限り、刃物なんかは効かないのよ。」


 剣で斬りかかるのをやめ、次にパールから教わった魔法を使う。


 まだ俺は詠唱をしないと魔法を使えない。


 相手から距離を取り、詠唱を始める。


 俺からしたら普通の速度で詠唱をしているが、相手からしたら高速で詠唱をしているように見えるだろう。


パールの言った話では詠唱は、繰り出す魔法を分かりやすく頭に浮かべるためのものなので、人によって違うんだそう。


だが、魔力が沢山集まっている場所では、ある程度は無詠唱で魔法が使えるんだそう。


「......ウィッチ・ビギニング、ロッククラッシュ!ランス・アクア!」


 2つの魔法を行使し、相手に向かってそれを繰り出す。


 相手はそれをもろにくらい、衝撃で煙が生じる。


「なるほど、その目は特殊な能力を持っているようだな」


 剣よりかは大きい傷を負わせ、俺はもう一度魔法の詠唱を開始する。


「ならば」


 瞬間、敵の姿が消える。


 詠唱をやめ、敵の姿を探して周りを見渡すが、どこにもいない。


 すると、後ろから


「瞬間移動だ」


 という声が聞こえ、背中に衝撃がくる。


 そのまま体がルーナの元まで吹っ飛んだ。


「おい大丈夫か輪!だから言っただろ!早く逃げるんだ!」


 激しい痛みと共にルーナの声が聞こえるが、目の能力のせいで上手く聞こえない。


「嫌だ....あいつを....倒すんだ...」


 ルーナに聞こえるような速度で言い、その場で立ち上がり、剣を構える。


「お前....腕が震えてんのか?」


 そう、先程から俺は体が震えていた。


 死ぬかもしれない。


死んでもいいが、それでも震えてしまう。


それでも剣をかまえる。


 ルーナはそんな俺を見て、


「そうか....それじゃ、付き合うぜ!」


 ルーナも立ち上がり、両腕に魔法を纏わせる。


「作戦だ輪、よく聞け。」


 ルーナの作戦と、敵の名前を聞き、作戦を開始する。


「ほう、捨て身で来るか」


 俺は剣を右手に構え、左手に水の魔法を纏わせ、ディエゴに向かって走る。


「ウィッチ・ビギニング、アクアソード」


 2つの剣を同時に扱い、不慣れながらも振りかぶる。


 その間、ルーナは上位魔法の詠唱を開始する。


(私をルーナからこの男に注意を逸らし、その間に私を倒す魔法の準備をする作戦か。単純だが、作戦としては悪くない。)


 俺の能力でルーナに近づかせる隙すら与えずに攻撃しまくる。


「よっしゃぁ、輪!どけぇ!」


 合図が聞こえ、俺はディエゴから距離を置く。


(来た!)


 ディエゴはそれを待っていたかのように、予めこっそりと右手に準備をしていた魔法を発動する。


「なっ」


 まずい!このままじゃ、お互いの魔法がぶつかり合って、不発になってしまう。


「そうだろうな、おらぁ!」


 ディエゴが右手を振りかぶった途端、ルーナはそれを左手で塞ぎ、右手で魔法を繰り出す。


「ライトニング・ボルト!!」


 俺とディエゴは驚いたような顔をし、ディエゴはそのままルーナの魔法により、遠くに飛んでいってしまった。


「ふぅ、何とか勝てたな、やったな輪!」


「うん、でも、どうやって?」


 なぜディエゴの魔法を防げたのかを聞くと、ルーナは


「んなもん、両手に別の魔法を纏わせてたんだよ。左手には防御魔法、右手には攻撃魔法をな。お前が2つ同時に魔法を使ったのと同じだよ」


 そう言うと、ルーナは俺に手を差し伸べる。


「?」


「悪い、実は私、お前のことを一緒に戦う仲間とは思ってなかったんだ。旅の仲間とは思っていたけど、お前は弱いし、私たちが守らなくちゃいけないと思っていた。だが違った、お前は命懸けで私を守ってくれた。だから改めて、一緒に旅をする仲間、そして一緒に戦う仲間として、な」


 それを聞いて、俺は嬉しくなり、ルーナと握手をする。


「へへっ、やっと笑ったな、輪」


 ルーナにそう言われ、思わず顔に手をかざす。


「ふふっ、うん、ありがとう。ルーナ、これからもよろしくな」


「おう!」


 そして、俺とルーナは一緒にみんなの元まで帰って行った。

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