第二話 業の里

山を降りると、あまり人がいない村に到着した。


「ここは業の里。住んでいるのは数えるくらいしかいないんだよ。」


 そう言うと、こちらに歩いてきた女性にルーナが話しかけた。


「よぉアルン。元気か?元気だよな。後でたい焼きつくってくれ。ターナはどこにいるんだ?」


 アルンと言われた髪色が赤色の女性は呆れた顔をしながら、


「早い。話が早い。もうちょっと落ち着いた感じで話しなさいよ。」


「いや、お前が元気じゃない時なんて賭け事に負けた時だけじゃねーか。そんなことよりターナは?」


「はあ」

とため息をしながら女性は


「.....あなたが元気じゃない時もよ...」


 と言うと、ルーナは嬉しそうな顔をした。


「ターナならまた山で刀を鍛えてるわよ。ていうか、なんでターナが...って後ろの人は誰?剣を持ってるからターナを呼ぶ理由はわかったけど。」


 と俺の事を言われたので、前に出て自己紹介をした。


「えっと...初めまして。俺は輪、ルーナやパールともさっき出会ったばかりなんだ。」


 俺の自己紹介を聞いて、女性も笑顔で自己紹介をした。


「初めまして。私はアルン。趣味はお金を倍以上に増やすことよ。」


「お金をドブに捨てることの間違いだろ」


 ルーナがそう言うとアルンは笑顔のままルーナの背中に肘打ちをした。


「アルン、ちょっと話をしていいかしら。」


 パールがアルンにそう言うとアルンは不思議そうな顔をしながら自分の家に案内した。


玄関の扉を開け、はいろうとすると、突然山から大声を上げながら走ってくる人がいた。


そしてすぐに俺の目の前に来るとスピードを緩めず俺に激突した。


「あああああああ!!頭が!頭がーー!!」


「あああああああ!!剣が!剣がー!!」


 俺は頭を、走ってきた女性は俺から瞬時に奪った剣を掴みながら断末魔をあげた。


そして女性は剣を持ちながら、俺に向かって


「これは誰が鍛えたんですか?いつ手に入れたのですか?どこで?」


 怒涛の質問攻めをされ、困惑してると、パールが女性に


「ちょうどいいわ。ターナ、あなたも話に入ってきて。」


と言った。


 この人がターナか。


と思いながら不思議そうな顔をしながらアルンの家に俺の剣を持ちながら入っていくターナの後ろを歩いた。


 中はアパートの一室のような部屋で、部屋の隅には大きな金庫があった。


真ん中のテーブルに全員座り、パールは俺の事について話した。


「なるほどねぇ。そんなことが本当にあるとは。で、そのコア・シティに行くためにターナに修行してもらうと。」


 アルンが剣をまじまじと見ているターナを見ながら言うと、ターナは剣を俺に返してその場を立った。


「いいでしょう。今日からこの私があなたを鍛えてあげましょう。で、いつここを出発するのですか?」


「準備もあるから早くて1ヶ月ね。輪、さっき面倒は私が見るって言ったけど、ごめんね。面倒はターナに見てもらって。」


「うん...わかった。ターナ、これからよろしく。」


「よろしくお願いします!ではでは、早速修行を開始しましょう!」


 そう言うとターナは俺の手を引いて山の奥まで走り出した。


体力がない俺はすぐにバテて、山を登る頃からターナに引きずられる状態になった。


そしてターナの家に着くとさっき走ったばかりなのにさらに走れと言われた。


「ではでは、この家の周りを何周か走ってください。そうですね、さっき見ましたがあなたは体力がないようですし、初日ということもあるので軽めに100周走ってください」


「今なんて?10周?」


「100週です。大丈夫です。吐きたくなったらちゃんとバケツ持ってくるので。」


「はっはい...」


 そういうことじゃないんだよなぁ。


と思いながら、早く終わらせたいというきもちがあったので、剣をターナに渡すとすぐに走った。


 2週目ぐらいになると、スピードが落ちていき、それを見たターナは


「走る速さは落ちても構いませんが、止まってはダメですよ。」


 と言われた。


 何度も続く景色を見ながら、何度も吐きそうになりながら、俺はこのまま死ぬのではないかと思った。







 そして、


(お..おわった...やばい..死ぬ...)


 やっと100周を走り終えた俺は終わった瞬間に地面に倒れ込んだ。


「お疲れ様です!ではでは、次行きましょう。」


「え...まだあるの....?」


「当たり前です。あなたはそもそも体が全然鍛えられていないので、人一倍修行をしなくてはいけません。ではでは、家の中に入ってください。」


 そう言って俺は水を飲み、家の中の道場に入った。


「次は筋肉をきたえます。この紙に書いてあることを100回ずつやってください。そして、次の週からは200、そのまた次の週は300と、増やしていってください。剣の修行はまだまだです。」


 絶望した顔をしながら俺は何を言っても無駄だと思い、大人しく紙に書いてあることをやっていった。








「お疲れ様です。今日はこれでおしまいです。」


 全ての項目を終え、倒れ込んでいた俺にターナが笑顔でそう言い、水を飲ました。


走り込みを始める時はまだ昼だったのに今はもう真っ暗だ。


「ではでは、ご飯にしましょう。こっちに来てください」


 ターナについて行き、居間に着くとそこには色々な料理が並んでいた。


「遠慮せず、食べてください。今日を乗り越えたご褒美です。」


 それを聞いてお腹が空いていた俺は、いただきますと言い、目の前にある料理をどんどん食べていった。






「ご馳走様でした。すごく美味しかったよ。」


「ありがとうございます。ではでは、お風呂に行きましょう。場所は里の方です。これあなたの服です。」


 ターナに服を貰い、里にある風呂に案内してもらった。


「1時間後にここで待ち合わせましょう。」


 風呂屋の前でターナがそう言い、風呂を楽しみにしていたような足取りで女湯の方に歩いていった。


俺も早く風呂に入りたかったのでさっさと男湯の方に行き、服を脱ぎ風呂への扉を開けた。


中にはシャワーしかなく、奥にもうひとつ扉があった。


「露天風呂じゃん、やったー。」


 とっとと体を洗い、シャワーを浴びた俺は露天風呂に続く扉を開けた。


湯船には誰も入っておらず、少しほっとした俺はすぐに湯船に入った。


一日の疲れが消えていく感覚を感じながら周囲の景色を眺める。風呂ってこんなに気持ちよかったんだ。


 しばらく湯に浸かり、周りの景色や夜空を見ていると、やつはいた。


女湯と男湯の仕切りの壁に少しだけ空いた穴に目をつけ、女湯を除く男が音も立てずに座っていた。


 いつからいたんだ.....


 女湯の方はターナの他にアルン、ルーナの声が聞こえており、覗き魔には気づいていないようだった。


と思ったが、しばらくすると女湯の方から大きい波のようにお湯が男湯の方に降ってきた。


「わ!わああああ!!」


 大声を上げながらお湯を顔にもろに受けた俺はしばらくお湯の中に潜り、もう終わったかと思いお湯から顔を出すと、目の前には先程の覗き魔がいた。


「あぁ。君が異世界からきたっていう人か。僕はキイ、趣味は覗き。よろしくね。」


「あ...うん...よろしく。俺はりん。」


 いきなりの自己紹介で、少し戸惑ったが、こっちも自己紹介をし、なぜ覗きをしていたのか聞いた。


「女の子の裸を見たいからでしょ。」


 あぁ、こいつはダメだ。もうダメだこいつは。


キイはこの里には俺を含めて3人しか男が居ないことを話した。


なのでいつもならこの時間はキイ1人しかいないはずだったので、思う存分覗きが出来ていた と言った。


「いや、俺がいなくてもあっちにはバレてただろ。」


「覗きってのはバレるまでが覗きだからね。」


 あぁ、こいつはダメだ...もう治らない。


「君、1ヶ月後にコア・シティに行くんでしょ。あそこすごく遠いのに、すごいねぇ。」


 どうやら、里のみんなは俺の事を知ってるみたいだった。


しばらくキイと話をしていると、女湯の方からターナの声がした。


「りーん!もう1時間経ちましたよー!」


 もうそんな時間かと思い、キイと一緒に風呂を出た。








「次覗きをしたらその目、くりぬきますから」


「ただのご褒美じゃないか。なんなら今やってくれてもいいんだよ。ねぇねぇ。」


 キイの気持ち悪い言葉を聞いたターナはすごく引いていた。


 キイが俺の耳元まで近づき、これまたやばいことを言った。


「実は僕、女性だけじゃなく男性もいけるんだ。....君のこと、好きだよ」


 それを聞いた瞬間背筋がゾワゾワと感じ、すぐにキイと別れた。


 ターナと一緒に家に帰り、俺が持っていた剣について話し合った。


「この剣なんですが、私が見た感じ、手練の職人が鍛えたとは思えないんですよ。なんていうか、その場に突然出てきたという感じなんです。」


「?どういうこと?」


「そもそも剣というのはしっかりとした工程を踏みながら作っていくものです。しかしこの剣にはそのようにして鍛えられた感じがしないのです。」


 全然意味がわからないが、とりあえずこの剣はほかのとは違うということにし、次にターナはこの剣に名前はあるのかと聞いた。


「せっかく手に入れたんです。名前をつけてあげなきゃかわいそうですよ。」


「いきなり言われてもどんな感じに名付ければいいのかわからないよ」


 そう言うと、ターナはいくつか自分が鍛えた剣や刀の名前を言った。


「雷豪、伝国、水白州、炎戒、土流、こんな感じですかね。もちろん私がこんな感じの名前が好きなのでこんな名前にしてますが、人によって色々な名前を剣につけているんですよ。」


 いくつかの剣の名前を聞き、しばらく考えが、いい名前が思い浮かばなかった。


「まぁ、ゆっくり考えていけば大丈夫です。」


 ターナに俺の部屋を案内され、1人になると、俺は部屋にしかれた布団に横になり、すぐに寝てしまった。

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