第三話 旅立ち
「朝ですよー!!起きてくださーーい!」
ターナの大きい声とおたまと鍋をカンカンする音が聞こえ、目を開けた。
「おはよう、ターナ...」
「おはようございます。さっさと顔を洗って、特訓を開始しますよ」
特訓内容である『朝、10周家の周りを走る』を開始し、走っている最中、家の中から朝ごはんのいい匂いがし、早く食べたいという気持ちが強くなり、何とか10周走り終えた。
「お疲れ様です。ではでは、朝ごはんにしましょう」
食卓に着くと、そこには昨日同様、色々な料理が並んでいた。
「いだたきまーす。」
夢中で料理を食べていると、ターナが俺の方を向き、
「2週間特訓をしてきましたがだいぶ慣れてきましたね。これでやっと一般人よりちょっと弱い程度でしょうか。」
「正直ここまでできるとは思ってなかったから達成感がすごい。」
ターナとそんなことを話しながら、料理を食べ、片付けを済ませた。
「それでは、私は里まで買い物に行ってきますが、あなたも着いてきますか?」
「いや、いいや。いってらっしゃい」
ターナが里に向かい、1人になると、いつもどおり、特訓の内容を片っ端から済ませ、道場の真ん中で大の字でしばらく休んだ。
「そんで、輪はどんな感じだ?」
「そうですね。必要以上に人と関わらないようにしている感じですね。特訓や料理、挨拶以外では、あまりあの人の方から話しかけてはきません。」
アルンの家でルーナとターナがそんな話をしていると、いきなり玄関のドアが開き、アルンが入ってきた。
「なんで私の家にあんたたちがいるのよ。」
「おっ、アルンおかえり、今ちょっと輪について話してたんだよ。」
「おかえりなさい」
アルンも床に座り、再び輪について話し合った。
「やっぱさ、プレゼントがいいと思うんだよ。最初はよそよそしいけど次の日にはあっちから話しかけてくるようになるぜ。」
「いえいえ、ここは美味しいもの作戦です。美味しい料理を一緒に食べていけばゆっくりですが確実に親しくなれると思うんです。」
「一緒に一日を過ごせばいいのよ。朝から夜まで一緒に行動していけば夜には普通に話しかけてくるようになるわよ」
各々の考えを言いながら、どれが良いか話し合っていると、
突然
ドカーン
という音が聞こえた。
「「「ほんびろげーー!!!」」」
3人ともその音にびっくりし、すぐに玄関から外に出ると、目の前の地面がクレーターのように凹んでおり、その中央には3mはある生物がいた。
「またですか...こりませんねぇあの人たちも」
「ほんと、あれ直すの誰だと思ってんのかしら」
「そいじゃ、とっとと終わらすか」
3人とも、怪物に向かっていっせいに走り出した。
「えっ....」
特訓が終わり外で休んでいる途中、突然俺の目の前に3mの怪物が現れた。
怪物は俺を見ると、いきなりそのでかい腕で俺に殴ってきた。
「ぐほっ」
体にもろにあたり、経験したことの無い痛みに嘔吐を繰り返した。
(なんだコイツ...いきなり....やばい...逃げなきゃ)
無我夢中で家の中に走り、玄関にあった自分の剣を手にし、すぐに外に出て怪物から逃げた。
すると、2度目のパンチが俺に向かって飛んできた。俺は瞬時に剣を相手の拳に突き立てた。
怪物は突き立てられた拳を引き、もう片方の拳で殴ってきた。
「げほっごほっ」
殴られた拍子に吹っ飛ぶと、口から血を出し、うずくまった。
(考えろ...どうすれば切り抜けられる...!)
そう考えた途端、俺は自分から自殺の道を選んだのに、この世界では生きようとしている自分に気づいた。
そうだ、自分から死んだんだ。ならもう、ここで死んでもいいじゃないか。
そう思い、相打ち覚悟で剣を構える。
剣のやり方を習った訳では無いので、不格好な構えだが、気にせず相手の方を見た。
ずっと見ていると、不思議なことに気づいた。相手が動かないのだ。
それだけでは無い。
周りのものや、空気が、全て止まっているように見えた。そんなことを考えていると、突然後ろからビリビリという音ともに怪物に雷が落ちたような衝撃が走った。
「輪!大丈夫か!!」
怪物の後ろからルーナがほうきに乗ってやってきた。
ルーナが来たことで肩の力が抜けると、そのまま俺は気を失った。
大声で騒ぐ音が聞こえ、目を開ける。
近くにはルーナとアルン、そしてターナがおり、他にも何人か人がいた。
「あ、目が覚めましたね、輪。」
ターナに話を聞くと、
どうやら里の方でも同じ怪物が現れ、ルーナ達も戦っていたそうだ。そして、俺の方でも怪物が現れたのに気づくと、急いで助けに来てくれたそう。
「ターナ、今何時?」
「あれから6時間、もう午後7時です。」
そんなに寝ていたのか、と思い、起き上がろうとすると、お腹に痛みが走った。
「まだ横になっていてください。あなたの体であのゴーレムの拳を2度も受けたのですから。」
ルーナが近づき、俺に話しかけた。
「しっかし、お前、すごい無茶したな。すぐに走って里まで逃げればよかったのに。死んだらどうすんだよ。」
「いや、俺は1回死んでるし」
「こら、そういうこというんじゃありません。1回死んだとしても、今は生きてるんですから、命を大切にしてください。それにここで死んでは会いたい人にも会えませんよ。」
ターナにそう言われ、確かにと思った。
だが命を大切にする気は起きなかった。
「おーい。お前が輪ってやつか。ん?お前全然強そうじゃねーな。お前の世界での男は全員そんな感じなのか?」
突然、並んでいたテーブルの奥に座ってた女性が俺の元まで近づいてきた。
前に会ったキイも俺と似た感じだったんだが
「違います。あの人が見てるのは外見ではなく、中身です。あなたの魔力を測って言ってるのです。」
魔力?
「魔法を使うためのエネルギーみたいなものです。あなたの魔力は....常人より低いですね。魔力が高ければ高いほど、色々な魔法を使うことができます。」
「お前が襲われたゴーレムは私の超すごい魔法で倒したんだ。どうだ?すこいだろ?」
ルーナがそう言うと、パールが
「あなた...魔法は雑用ぐらいにしか普段使わないくせに...輪にでかい顔したいからって張り切って使っただけでしょ....まぁ、魔力は修行したり、成長と共に大きくなるから。.....それじゃ、私も明日からあなたに修行をさせるわ。魔力と魔法の修行。」
と言い、すぐにターナと明日のスケジュールについて話し始めた。
「魔法が全てって訳では無いが、あった方が便利だしな。」
ルーナたちに魔力について教わり、次に目の前に人物が誰なのか聞いた。
「こいつはサタール。私たちと同じで里に住んでいるやつだ。」
「よろしくな!輪」
「よろしく...」
サタールと軽く挨拶をし、今何をしてるのか聞いた。
「宴ですよ。あなたにとっては初めてかもしれませんが、この里にはたまに、遠くから敵がやってくるのです。なんでも、ルーナとパール、そしてアルンを捉えて実験台にしたいと思っているみたいです。彼女たちは他とは違う、特別な存在なんだそうです。そして、その敵が来て、倒す度にこうして宴を開くようにしてるんです。まぁ、今回もお疲れ様でしたみたいな感じです。」
周りを見ると、みんなの他にキイともう1人、男性がおり、酒を飲んでいた。
「ほらほら、輪!お前も飲め!」
と、サタールに酒を勧められたが、酒は飲めないと言うと、少しざんねんそうな顔をし、ジュースを注がれた。
「あそうだ。せっかく今、里のみんなが集まってるんだし、まとめて紹介するぜ。」
ルーナがそう言いみんなの前に立った。
「まずはこの髪が青くて短髪のターナ。言わずと知れた剣術使い。そして髪がエメラルドのパール、言わずと知れた魔法使い。さらに白髪の長髪で筋肉モリモリのサタール、言わずと知れた腕力自慢。その次に黒髪でキモイキイ、言わずと知れたなんでもや、そしてそして、髪がルビーのアルン、言わずと知れた魔法使い。そしてこのちっこい2人が、黒髪のラノと白髪のリナ、まだそんな大した名前はない。次に灰色の髪の毛のリーノ、言わずと知れた薬屋、お前の怪我はあいつが直したんだ。あともうひとりいるんだが、今は居ないんだ。そしてそしてそして、綺麗な水色の髪で瞳も美しいこの私!ルーナ、言わずと知れすぎた優秀な超すごい魔法使い。」
すごい、まるで画面の前にいる読者に説明したかのような文章だ。
初めて会う人達に軽く挨拶をすると、背の低い、ラノとリナが俺のところに来て、質問をされた。
「ねえねえ、あなた何歳?」
「えと、15歳」
そう答えると、2人はあからさまに残念な顔をした。
「気にしないでください。この2人は年下が欲しいだけなのです。この子達が里で最年少なので。」
2人が残念そうに元の席に戻ると、突然、扉から羽根の生えた女性が入ってきた。
「パール!半分終わったよー!」
「お疲れ様。悪いわね。それじゃこのままもう半分もお願いするわ。」
「まっかせてよ!このなんでもやがもう半分もちゃっちゃとマッピングしてきます!けど、今日はもう休みます。」
そう言うと女性は、俺の方に近づき、目の前に座った。
「はじめまして、輪さん。私はハルネ。キイと一緒になんでもやをやってるの。あ、だからといって、なんでもできるわけではないから。そこんとこよろしくね。今私はあなた達が通る道や街のマッピングをしている最中なの。完成したら本にして渡すね」
お互いに自己紹介をし、ハルネは背中に着いた翼を外して空いてる席に座り、サタール達と一緒に飲み始める。
あれ外せるんだ。
そう思っているとパールが俺の方を向き、
「そうそう、旅に行くメンバー、増えたから。私とルーナとアルンとターナ、そして、ラノとリナ。このメンバーで行くわ。」
4人増えたが、まぁもう知っている人なので、あまり抵抗はなかった。
それどころかターナが着いてきてくれるのはありがたい。
「旅の途中でも特訓はしますから。あと、明日から剣の特訓もしますので。」
「私たち、めっちゃ頼りになるから、よろしくね!」
「そうだよ!私たち、めっちゃ頼りになるから!」
ラノとリナが大声を上げ、そういった。
そして、宴が終わり、ターナの家からみんなが帰ると、ターナからあることを言われた。
「先程も言いましたが、もう二度と、命を投げるようなことはしないでください。もしまたあのような状況になったら、迷わず私のところに来てください。そして、咄嗟にそう判断できるようにしてください。それが私があなたを特訓させる上での条件です。分かりましたね?」
真面目な顔と声でそう言われ、思わず頷いた。
心配そうな目をしたターナだったが、すぐにいつもと同じ笑顔になり、もう寝るように言われた。
ここを旅立つまであと2週間、これからは、もっと頑張ろうと、心の中でそう思った。
そして、あっという間に旅に出る日になった。
「準備はできましたね。ではでは、里に行きましょう!」
刀を下げ、軽い荷物を持ったターナと共に里に向かった。
「おっ、来たな。そんじゃ行くか」
ルーナたちと合流し、いよいよ里から外に出る。
他の人も見送りに来てくれていた。
「帰ったら、お前らがどんだけ強くなっ
たか見てやるからな。」
「帰った暁には混浴風呂に入ろう。」
「みんな、薬は持ったね。」
旅に出る6人は里のみんなが見えなくなるまで、ずっと手を振っていた。
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