無幻の黄昏

ふみりえ

第一部 命の始まり

第一話 生と死の狭間

部屋の壁に縄を吊るし、そこに首を入れ、椅子から足を離す。少し待つと、意識が遠のいていく。これでやっと終わる....やっと....。そして完全に意識が途切れた。


 気がつくと、周りは真っ暗でどんどん下に落ちていく感覚があった。


何故だろう、この感覚は何回も経験したような感じがした。


そんなことを考えていると、突然どこからか声が聞こえた。


「...をっ、手をっ!」


という女性らしき声がし、目の前にその女性らしき人の手が現れた。なぜだかその手を掴まなくてはいけない気がし、手を伸ばした。


が 、


僅かに届かず、指と指が擦れあった。


そしてそのまま下に落ちていく感覚と共に声と手は遠のいていき、やがて完全に見えなくなった。


そこで俺はまた意識をなくした。



 「ーい、おーい、大丈夫か?」


 意識が戻ると、先程とは違う声が聞こえ、閉じていた目をあける。


目の前には魔女帽子を被り、膝まであるスカートと服の上にケープを着た、いかにも魔法使いのような見た目の女性がいた。


「お、起きた。お前なんでこんなところで寝てたんだ?」


 女性の言葉を聞いて辺りを見渡すと、そこは森の中のようで俺はそこで眠っていたようだ。


先程の暗闇での声となぜ自分がこんなとこにいたのか気になったが、とりあえず目の前の女性に声をかけた。


「えっと、こんにちは。起こしてくれてありがとう。」


「おう。あたしはルーナ。見ての通り、優秀な魔法使いだ。あんたの名前は?なんでこんなとこで寝てんだ?」


 やっぱり魔法使い、外国人?でも日本語...いくつかの疑問を持ちながら、とりあえず質問に答える。


「あ、俺は輪。えっと、気がついたらここにいたんだ。」


「ふーん。で、どこから来たんだ?」


 少し疑いの目を感じたがとりあえず今の問いに答えようと、ひとまず日本と言った。


 その瞬間自分は自殺をしたのだということを思い出した。


そして、ルーナに何言ってんだこいつという顔をされ、


「なんだそれ、あたしが知らないってことはめっちゃ遠いところから来たんだな。....ところでよ、その背中の剣、すっげーかっけーな。どこで作ってもらったんだ?」


色々と考えたいことがあったが、ルーナの言葉で背中を見るとそこには1つの剣があった。


それに驚くと、次は自分の服装がおかしいことに気づく。


服は元々俺が着ていた長ズボンに長袖、そしてその上に見たことの無い丈が長いパーカー付きのコートがあった。


なぜコートと剣が、と思っていると、ルーナが


「まぁこんなところでも何だし、とりあえずあたしの家に案内するよ」


 ルーナの少し後ろを歩いている最中、頭の中を整理しようと思い、自分の現状について考えた。


 まずここはどこだ。ルーナが日本を知らないと言っていたが、日本を知らないということは地球ですらないということなのだろうか。それとも、これは夢なのだろうか。首を吊り、意識を失ったあと死ぬ前に他の人が自分を見つけ病院に搬送され、まだ意識が戻ってない最中...もしくは死ぬことに成功し、これはいわゆる死後の世界という所なのだろうか。まだよく分からないが、とりあえずここは地球とは違う世界ということにしよう。


 次に俺の格好に剣。コートや剣は初めて見るもので、生前持っていたものでは無い。


そもそも俺はただの一般人なので、剣を持っているわけはないし、コートもここまで長いものは持っていない。


だがコートの下の長袖、長ズボンは俺が元々持っていたものだった。


頭の中で考えながら歩いていると、いきなり自分の周りに霧がかかり前が見えなくなる。


「えっえっ...どうしたの...」


 突然のことに困惑し、前を歩いていたルーナを目で探そうとしたがすぐに霧が晴れ、目の前にルーナがいた。


それに少し驚き、後ずさんだ。


「悪い悪い。ここは霧に入らないと行けない仕組みなんでな。着いたぜ。」


 ルーナの後ろには西洋のような感じの屋敷があった。


ルーナがドアを開けると大きな声で


「おーい。お客様が2名来てやったぞー!この屋敷は客の出迎えもしないのかー!」


 さっき自分の家だと言ってなかったか?と思いながらまた知らない人が出てくることに不安を感じていると、目の前にある長い階段から髪の長い女性が開いたままの本を持ちながら歩いてきた。


「うるさいわねあんたはいつも。いい加減自分の家を作りなさいよ。って、もう1人は本当にお客さんなのね。」


 ルーナに軽い愚痴を言い、俺の方をちらっと見た。


「いやぁ。もうここのベッドじゃないと寝心地が悪いんだよ。そうそう、こいつは輪。森の中で倒れてて、変なとこから来たっていうんだ。」


 ルーナがそう言うと、女性は俺の方を見ながら


「そう。それじゃ、向こうで話を聞かせてもらうわ。」


 と言い、俺たちを部屋に案内した。


「私の名前はパール。この屋敷の主よ。よろしく。」


「俺は輪。よろしく...」


 消え入りそうな声で自己紹介をし、今までのことを話した。


「なるほど。日本という国は聞いたことないわね。私たちが知らないだけ...という感じでもなさそうね。...あなた、別の世界から来たのかしら。」


 パールの思いがけない言葉に、俺は驚きながらも自分もそう思っていることを話す。


「多分..そうだと思う..」


 そう言い、2人に自分がしたことを話した。元の世界で首を吊って死んだこと。


この世界に来る前に真っ黒な空間で人の声と手が出てきて、その手を掴もうとしたが指を擦り合わせただけということ、剣とコートはこの世界に来てから知ったこと。


「お前自分から死んだのかよ。勇気あるなぁ。」


 ルーナがそう言い、俺の背中を叩いた。少し痛いと思いながら、後ろにある剣とコートを脱ぎテーブルの上に置いた。


 パールが剣とコートに手を添え、目を閉じたまま


「なるほど。だいたいわかったわ。まずこの剣とコート、これは女神と天使が作ったものね。多分、あなたが暗闇で会った人も天使か女神のどっちか。そしてあなたをこの世界に呼んだのもその人ね。」


 今までの話だけでそんなにわかるのか。


 そんなことを考えながら天使と女神がなんなのかを質問した。


「私たちとは違う次元にいる存在のことよ。そして、あなたからも少しだけ天使と女神の気を感じるわ。」


「え..そうなの?全然そんな感じしないんだけど。具体的に何かあるの?」


 俺の言ったことにパールが「それはわからない」と言い、剣とコートを俺に返した。


「ま、とりあえずしばらくは私たちが面倒を見てあげるわ。それで、どうするの?これから」


 これから...特に何かしたいわけではない。死んだら転生するなんて本気で思ってたわけではないから。けど、あの暗闇で出会った人...あれが本当に女神や天使のような人なら会ってみたい。そして、なぜこの世界に俺を呼んだのか、理由を聞きたい。


「....その天使か女神に会いに行きたい」


 パールとルーナにそう言うと


「だよなぁ!会ってみたいよなぁ!あたしもあんたを呼んだやつに会ってみたいんだよ!行くんならあたしも行くぜ。もちろんお前も来るよな?パール」


 なぜルーナがそれほどまでに行きたいのかはわからないが、ルーナの言ったことを聞いたパールは少し考えてから、


「そうね。どの道私がいないと行けないと思うし、そろそろあの件もどうにかしないとって思ってたところだし。」


 パールがそう言うと、ルーナはウキウキした感じで


「よっしきまり!いつ行く?今か?明日か?今か?」


「気が早いわよ。ここから天界の入口に行くまでどのくらいかかるのか分からないんだから、準備をしなくちゃ」


 どんどん乗り気になっていくルーナと、それをなだめながら計画的に行こうとしているパールを見ながら、少し安心感を覚え、気になったことを話した。


「あの..天界の入口ってなに?」


 先程パールが言った、天界の入口というワードに疑問を覚え質問した。


「あぁそうか。そこからよね。まずあなたが会いたいと思っている人はここにはいないの。正確にはこの次元には、ね。まず世界には3つの次元があるの。今私たちがいる地の次元。そして、天使や神がいる天の次元。最後に裏の世界、それで天の次元に行くにはこの世界の中心...コア・シティに行く必要があるの。」


 世界の中心...どうやって世界の中心と定めたのかはわからないが、そこに行かないと天の次元に行けないなら、行くしかない。


「だいたいわかった。それで、ここからコア・シティまでどのくらいかかるんだ?」


「わからないわ。とんでもなく遠いらしいけど」


 それを聞いて宇宙を感じた。


「まぁ私たちがついて行くし、大丈夫よ。」


 それを聞いて安心した俺はいつ行くのかを聞いた。


「うーん。諸々の準備があるから早くて1ヶ月かしら。....さっき私たちがいるから大丈夫と言ったけど、あなたも一応修行をしてもらうわ。」


 修行?と思っていると、2人は出かける準備をしたので、俺も席を立った。


「今から里に向かうわ。そこにあなたに修行をつけてくれる人がいるの。それと旅をするためのものを買いに行くの。」


 修行をつけてくれる人がどんな人なのか不安を感じるが、一緒に旅をしてもらう以上、断れなかった。


 2人の身支度が終わり、屋敷のドアを開け外に出た途端、霧に包まれすぐに晴れた。


 森に出て、街に向かう道を歩いていくと長い下り坂に着いた。そこから景色が見え、俺はこう思った。


「........きれい..」


 思っただけのつもりが無意識にそう言い、前を歩いていたルーナが、


「だろ?里にいる奴らもいいやつだからよ。」


 それを聞いて、1歩1歩を歩く度に俺は、これから...何かが始まる....いや...始まっている気がした。

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