第2話 『星の右手』
冒険者ギルド『エーワンス』。そこは大勢の人で賑わっていた。なにせここはこの星で一番の実力と人気を誇るギルドだ。唯一『天界』の観測に成功したギルドで、エントランスには大きなスケッチがこれでもか、と存在感を放っている。
人混みをかきわけて、奥へ奥へと進むとようやく受付まで辿り着いた。受付の人とは顔馴染みだ。
「いらっしゃ…レストさん!薬草ね?」
「うん。いつもよりちょっと少ないけど…」
私はここに薬草を卸す事で生計を立てている。この薬草を使うのは勿論。
「あぁ!良かった。見つかったんだよ!例の本!」
『大魔導士』を名乗る『ミリル・アートヴァンス』さんだ。私が摘んできた薬草を使ってポーションを作るのがこの人の仕事。自分でもあれこれ栽培していたりするけれど、私が摘んできた物がいい…。という事にして貰っている。
「ミリルさん。あー、えーっと。それよりも話したい事が…」
「それは私の話の後では駄目なのか?」
ちょっと圧が強いのがこの人の特徴だ。駄目とは言い辛いけど、駄目な事にしないと私の話が出来ない。頬を掻きながら困っているとベクルが横から顔を突っ込んできた。
「私でも初めて見る事が起こったんです。是非ともお知恵を…」
その言葉にミリルさんの顔つきが変わった。ベクルほどの冒険者が初めて見る事、それは興味を惹くには十分過ぎる事だろう。考え込む仕草をしたあと、こちらについてくるように手を引いて歩き出した。
二階の大きなテーブル席。冒険者達が簡単に飲み食い出来る簡易的なスペースが設けられている。飲み物を四人分、それぞれに配置した後、ミリルさんは席に着いた。
「それで、初めて見る事って?」
ミリルさんはいつになく真剣だ。ベクルはどう切り出せばいいのか、迷っている様な表情だった。
「あのベクルが初めて見る事…。気になるねぇ、教えてよ」
そう問いかけたのは。
「…何でペスケまでついてくるのかしら」
『ペスケード・ツインランサー』、二つ名に『血塗れの冒険家』がついた自分の背丈はあろうかという程の鎌斧『デスサイズ』を振るう、落ち着いた狂気が良く似合う眼鏡をかけた女性だ。
昔にはベクルと一緒に冒険をした事もあるらしい。歳も一個違いで冒険者時代には特別、仲がよかったとか…悪かったとか。今は兄さんと一緒に旅をしているはずだ。
「私の専門は知ってるだろ?古代技術の復元!それも、もしかしたら古代技術かもしれないよ」
大雑把に言うと、ペスケは学者も兼業している。かつてこの星に栄えていた技術を今の時代に復元する事が何よりの目標で、それには科学も魔法も垣根はない。よく『セントラル』に勝手に調査に行っては怒られているというのを聞いている。
古代技術…といえば古代技術なのかもしれない。私はあの時に懐かしさを覚えた。ペスケにも話をしておくのは頼りになるだろう。
一呼吸してから絞り出すように声を出した。
「あの…。魔物に囲まれたとき、突然『天光斬月』が光って、魔物の動きが止まったんです」
ミリルさんの表情に少し険しさを増した。ペスケはまだ確信が持てないのか上に視線を移すと腕を組んで指をとんとんと動かした。
「それは抜刀した時、だよね?勿論」
「はい。私にはその光が時計回りに薙いだように見えて…」
「そこまで見えたの?私にはただ、光ったようにしか…」
ベクルは見えてなかったみたいだ。余りにも一瞬の事だから近くにいた私しか確認できなかったのだろうか。ミリルさんは本を取りだし、ページを捲っていくとある所で止め、テーブルの上に広げて置いた。
「まさか、とは思うが…。それは『勇気』…かもしれないね」
「『勇気』…?って確かにあの時、勇気を振り絞ろうとはしましたけど…」
「いんや、違うんだよ。そういう『現象』があったのさ」
私が感じた物と同じだ。『現象』、それが正しいのなら色んな事に納得がいく。私にはそんな大層な力はない、色んな偶然が重なって出来た『現象』なら、あの時起こっても不思議ではないのだ。
「それは、多くの光の魔力と高魔導性の武器…簡単に言えば強い武器が揃った時に起きやすいとされている」
光の魔力…。そんなのを引き出す特訓なんてしてこなかった。たまたま、あの場所にそれが集まっていたのだろうか。強い武器、となればお父さんの残してくれた『天光斬月』だ。これは間違い無く強い。
でも、この二つは簡単に揃えられるはずだ。何せ…。
「兄さん…。兄さんはそんな『現象』起こしたことないはずだけど」
私よりも魔力を引き出すのが遙かに上手で、『陽光灼乱』を持つ兄さんなら、出来ておかしくないはずだ。ましてや勇者の称号に一番近い人だ。『勇気』という言葉に相応しいあの人に出来ないはずがない。
「それがコントロール出来るのなら、大昔にやってるのさ。これは遙か古代にも制御出来なかった事だ」
ペスケは開かれた本のページを指差した。そこには、私が見た通りに剣が光輝いてる様が描かれている。
「詳しく説明するならば、その『現象』は敵対する生命の生命活動を全て停止させる。思考、緊張、神経。その全てだ」
「浴びせられた相手は、相手の『気迫』に圧されたのだとしか解する事が出来ない…『勇者の気迫』という事で『勇気』、と名付けられた訳だな」
考える事も出来ず、備える事も出来ない。自由に起こせたら無敵の能力だ、間違いなく。そんな事を、私が出来た?
「ますます分からないです…。なんで私に出来たのですか?」
ミリルさんは頭を掻いたあと、呟いた。
「それが分かれば苦労はしないのだが…。私はベクルくんを信じて聞いているのだが、本当に起きたのか?」
どうやら信じていない、みたいだ。私だって信じられない。
「はい。確かに魔物の動きが死んだかのように一瞬止まりました。…もしかして」
「…もしかして?」
私の方に向き直ると、いたずらっぽくベクルが笑った。
「もう一回できないかな?レスティ」
「むりむりむり!!絶対できないよっ!!」
聞けば聞くほど自信が無くなる。今より凄い技術のある古代にも自在に出来なかった事が、今の自分に出来るかと言われたら絶対に出来ない。ミリルさんとペスケはにやけ顔だ。出来ないって分かってるくせに。
「物は試しとも言うじゃ無いか!早速やってみよう!」
「出来ませんって!!私にそんな力…っ」
そんな力…。あったら…。本当に起こせるのだとしたら…。私にも…。
月夜に照らされた噴水広場には歌を歌う詩人とそれを聞く聴衆、くらいしか残っていなかった。こんな夜中に出歩く人は少ない。
少ない、はずなのに、目立つ人影がいた。男が二人、見知った顔。
「なんだペスケ。レストに何をしようとしている」
「いいとこにいた!ノーエル。あんたも手伝ってくれよ」
「ペスケが絡んでると碌な事にならない気がします…。ノーエル、止めた方がいいのでは?」
「あんたら私の事を呼び捨てにするけどこの中じゃ最年長なんだからね!?特にリオン!!」
指差されたリオンはばつが悪そうに頭を掻いた。ペスケは特にリオンにはなめられたくないらしい。普段から敵視している発言が目立つ。
「こほん、最年長というのなら私なんだが…。まぁ私も立ち会うのだから見逃してくれ」
「…ミリルさんが言うのなら、ここは見守るとしよう」
私に出来る事はたった一つ、『天光斬月』を引き抜く事だけ。それ以外にあの時に私がやった事なんてないのだ。そうしたら後は…後は…。
「さっ、『天光斬月』を抜いてくれ。ノーエルを斬り捨てる気持ちでさ」
「ペスケ!!お前は俺をなんだと思ってる!!」
「『陽光の救世主』サマだろ?いいじゃないか、代わりなんて後から生えてくる」
私は息を整えながら、『天光斬月』に手をかけた。静かに引き抜いていくと、剣と鞘の擦れる音が静かな街に響き渡る。両手でしっかりと柄を握ると、剣は月光を反射しながら妖しく輝いていた。
「…それで、この後は何をすればいいの?」
「光の魔力が必要だね…。リオン、ちょうど適任がいるじゃないか」
指名されたリオンはびっくりしたようにこちらを見た。何も説明をしてないのだからそれは驚くのが普通だ。でも、これ以上に適任はいない。
「え、えーっと。魔力を集めればいいんですか?ここに」
「あぁ、そうだ。やってみてくれ」
「分かりました。それじゃあ…。『結界式』!」
リオンが虚空に指をなぞると、周囲を光の壁が囲い、閉じる。更にその指は止まらず、次の『式』を描くと辺りが光で満たされていく。
「『変換式』…。で、いいんですよね?」
彼が使っているのは『魔術式』だ。以前に聞いた話では彼が使っているのは『魔導』という力の使い方で、『魔力を導く』から『魔導』らしい。そのやり方は『計算式』を描く事で『魔力』に命令を与えて思う結果を『導く』…。最も洗練されたやり方で古代の人々も使っていた由緒あるやり方、との事だ。勝利への最短手順を『計算』するのが『魔術師』と格好付けて言っていた記憶もある。
その実力は間違いがない、だから、この状況は揃った…、と言える。『勇気』を起こす条件は整っている。それなら…。
「……何も起きないようだが」
ノーエルが口を開いた。そう、何も起きない。あの時に感じた独特な感覚も、何もない。私はただ、剣を持って立っているだけだ。
「…過去の文献には、魔力は『想い』に応えると記述がある。何か強い『想い』があると変わるのではないか?」
「強い…『想い』…」
あの時は必死に止まれ、って思ってた。今になって同じ思いを抱けるかと言うと、その答えは…。
「こりゃ再現は無理そうだね。ま、簡単に出来たら困るもんだ」
「どうして?」
「悪用されたら嫌だろう。『勇気』はいかなる方法でも防ぐ事は出来ないと明言されている」
確かにそうだ。浴びせればどんな強者であろうと隙を作る事が出来る。それは相手が強者であればあるほどその効果が強力になる。例え一秒だったとしても、兄さんやベクルのような一流の戦いをする者の間ではその一秒は命取りになる。本当にどんな相手にも効く、のなら。
「『勇気』…?なんだそれは」
「ノーエルにもやって貰うかい?必要なのは光の魔力と高魔導性の武器…『陽光灼乱』だ」
ノーエルは少し考え込んだ後、静かに『陽光灼乱』を抜いた。周りの空気がシンと静まりかえるのが分かる。構えただけで周りの皆はピリピリと威圧感を感じているみたいだった。私も、『天光斬月』を持つ手に力が入る。
その剣に光が集まる、その目には光が映る、その光は全てを魅入らせる。皆の視線を集めた剣先が流星の様に揺らぐと、まばたきをする暇もなく『光が一閃』した。
「『光一閃』…。剣技の一つだな、光で目眩ましをしながら相手を斬る…」
「ちょっと!!レスティに当たったらどうすんのよ!!」
ベクルが私を庇いながら叫んだ。兄さんがそんな事をしないとは分かってるから大袈裟ではあると思うけども。
「まったく、これだから勇者サマは…。もう少し周りを見てから行動しな?」
「…っ。悪かったな」
「僕も聞きかじりではありますが『勇気』については聞いた事があります。ノーエルがやった通りにすれば条件は満たされているはずですが…」
結果は何も。話が正しければ思考も、緊張も出来ないはず。でも私はびっくりしたし、腕に力がこもりっぱなしだ。何よりあの独特な、光が時計回りに回る感覚が無い。確かに光った、光ったけれど、ただ眩しいだけであの光とは違う…。
「違う…。あの光じゃない」
「…あの『勇気』か。俺も読んだ知識ならある、ただ…」
ノーエルはどこか、遠い眼で空を見上げていた。ここにはいない誰かに視線を向けているようで、寂しそうな視線だった。
「父さんも起こした事がない。それを、レストが…」
私に視線は向かなかった。それでも、こちらをちゃんと見てくれている気がした。
「はい、実験はおしまい!解散だ、解散!収穫は無しって事で」
一人立ち去ろうとするペスケをベクルが掴んで引き留めた。ちょっと怒ってるかもしれない、手に力が入っているように見えたから。
「ちょっと。確かに私は見たんだ、何か他に考えられる事は?」
「見間違いじゃないのぉ?たまたま光が反射して目が眩んだ、そんだけ」
「それだけじゃ説明がつかない。眩んだだけじゃあんな風に止まらないはずだ」
「もう一度見せて貰えれば説明がつくのさ。それが出来ないんじゃ何にもならない、だろ?」
元々仲が良い方ではない二人だけれど、喧嘩になってしまうかもしれない。ふとハッとした、確かにあの時『勇気』を求めてた。二人を止める為に、『勇気』が必要だ。私の力じゃどうやったって二人を止められない、私に、一歩進む、『勇気』。
『天光斬月』をじっくりと見つめる。自分の中の勇気を奮い立たせる、手の感覚は…いつものままだ。いつまで経っても、あの感覚が出てこない。やっぱりただの偶然だったのかもしれない、目を眩ませただけの。ただの光。
「ならばもう一度、出来る様に舞台を作ればいい」
「ノーエル!?えーっと、それってつまり…」
「『星の右手』に討伐対象の魔物がいる。船の修理にはまだ時間がかかるだろうから、レスト、お前もついてこい」
『星の右手』、ここから風の足跡を辿った先にある折れた塔の名前。瓦礫の形がまるで右手の様に崩れている事から『星の右手』なんて名前がついている。あそこは今は無人の街だ。あの周辺は『セントラル』と呼ばれているけれど緑や自然がまったく無く、生き物もほとんど住み着いていない。遙か昔は一番栄えていた、という話は聞くけれど金属だけで出来た街でどうやって生きていたのか私達には想像がつかない。
「そんな!危ないですよ!あそこは一般人は立ち入り禁止で…」
「だったらお前が守ってやれ。惚れてるんだろ?」
その言葉を聞いた後、リオンは顎に手を当て、空を見上げ、手を叩いて何かに気付いた。
「公認!?公認ですか!?ノーエル!!妹さんを貰ってもいいと!?」
「勝手にしろ。後は本人に任せる」
リオンは一回、二回と体を回転させた後、両手を静かに突き上げて嬉しさを爆発させていた。何故かベクルがそっと抱き寄せてきた、きっとベクルも心配なのだろう。
「はぁ~。久々の調査だねぇ!先に一人で行ってこようかな?」
「盛り上がるのなら一人で行ってきな。あんたのテンションに付き合わされるのはごめんだよ」
ペスケは久々の調査に嬉しさを爆発させていた。ノーエルの下で動いていた事から自由に調査出来ない事に不満を持っていたからそういう所もあるのかもしれない。
「そうだね!行ってこようか!!ノーエルは…行ったね。それじゃ、行ってくるわ」
こそこそと、わざとらしく姿勢を低くしながら道を歩いて行った。背負った斧が大きくてどう考えても隠れられてないのだが、この独断で動く気質がペスケらしい所だ。勝手に動きすぎてしょっちゅう怒られているけど、彼女はそれでも平気なので名を馳せている所がある。あのノーエルに物怖じしないのは長所の一つだ。
「あっ、明日の朝。お迎えに上がります!それでは!!」
リオンも立ち去り、残るのは私とベクルとミリルさんのみになった。辺りにはいつの間にか、歌声が響いている。月の明かりが一層、眩しく感じるくらいの夜だ。『天光斬月』の刀身をミリルさんはじろじろと見ている。
「『勇気』には、幾つかの条件が必要になる…。しっかりと満たしていたはずなのだが…」
聞いただけの条件ならノーエルだけでも満たしている。それ以外にも条件があるとするのならなんだろう。『想い』に応えるとするのなら、尚更、私の『想い』だけでは足りない気がする。兄さんの方が遙かに色んな『想い』を抱えている。『勇者』に相応しいのは何よりあの人だ、一番近い、私が断言出来る。
「決めた!私も同行しよう!生きている内になんとしても見てみたい」
「ミリルさん、ミリルさんは戦えないはずじゃ…」
異質の『大魔導士』として知られるミリルさんは異例の異例でなんと、『魔法が使えない大魔導士』である。代々『ミリル・アートヴァンス』という名前は襲名するものなのだが、その後継者は魔法の知識、力、様々なものを求められて厳しい審査の上で名乗る事を許される。
今のミリルさんは魔法の知識だけで『大魔導士』の称号を勝ち取った。競合相手ならいくらでもいたのだが、その全員を納得させるだけの実力があったのだ。ただ、当然ながら知識しかないので戦う事は出来ない。そう聞いていたけれど。
「『勇気』をこの目で見られるのなら無茶もするさ。古代の魔導具を幾つか復元してね。その試射も兼ねて…まぁ万が一はノーエルが何とかしてくれるだろう」
「そうですね。兄さんは強いから」
本当に、強いから。もし、あの力が選ばれた者にしか使えないのだとしたら、それは間違い無く兄さんだ。私じゃない。
「それではな!私は最後の調整をしてくる」
ミリルさんとも別れ、後には二人きりになった。
「まったく。勝手に色々決めて…レスティも断ればいいのに」
「あはは…。でも何だか楽しそうじゃない」
「楽しい?何が…。もっと安全に試せればいいのよ。その『勇気』とやら」
呆れかえった様子で言いながらも、ベクルも剣にしっかりと手をかけていた。きっと久々の冒険に血が騒いでいるに違いない。
星が遠くに見える。夜の闇に浮かぶ星達は風に揺らぐことなく、煌々と輝いていた。その中でも一つの星が嫌に目についた。一番眩しい、一番星が。
――私は知ってるよ、貴方の名前!
皆が知らなくても、私はずっと覚えてるから。
貴方が思い出すまで、ずっと。傍で歌い続けるからね!
まったく知らない声、だけど聞いた事がある、そんな声。ふと目が覚めた時に目の前にいたのは、あの兎、ロップの寝姿だ。垂れた耳が可愛いからロップと名付けた。違う寝床を用意してあげたのだけれど、いつの間にか私のベッドまで入ってきたみたいだ。あの時計をいやに気に入ったみたいでベクルにお願いして巻かせて貰っている。
その時計によるとちょうど朝だ。ベクルより早起き出来たみたい、窓から差し込む朝日が眩しい。あの夢はなんだったんだろう、どこかで聞いた事がある声だった気がする。つい昨日だったか…、頭に手を当ててもよく思い出せない。
ベッドから降りて、伸びをするとロップも起きたみたいで私の足元に駆け寄って来る。『天光斬月』はしっかりと鞘に収めて傍にある。今日も私の事をよろしくね、手にした時にそんな事を考えた。
お母さんのお墓に新しい花を添えると、後ろから足音が聞こえた。たぶんリオンだ。
「あっ、えっと…。お迎えに来ました!」
「リオンさん。こんな朝早くに…。有り難う御座います、ベックが朝ご飯を作ってるから、良かったら食べていって」
「いえっ!僕なら大丈夫です!既に食べてきましたから!」
無駄に姿勢正しく、ピシッと立っている。そんなにかしこまらなくってもいいのに。崩して欲しかったけれど、それはそれでリオンらしくない感じがした。
「あの…。前から聞きたかった事があるのですが…」
「なんですか?リオンさん」
「その…。お母様の話です。お父様のお話はよく聞いてるのですが…」
お母さんは英雄にはほど遠い人だった。確か、普通の農家の出で、たまたまお父さんと出会ったらしい。二人の出逢いだとか、そういう話はあんまりされなかった。
「もしかしたら、レストさんは…。いえ、やっぱり何でもありません」
困った様にリオンは笑った。その先の言葉はいくらか予想出来る。私は、お母さんと同じだから。そう言おうとしたかもしれない。
お母さんは戦えなかった。お父さんに惹かれたのはもちろん格好良かったから。『ライト・フォーアス』はその時、最強の冒険家でこの星にその名を存分に轟かせていた。お父さんがお母さんに惹かれたのは、可愛かったから。それだけ聞いていた。特別な理由なんてない。リオンさんが私に惹かれているのと同じ理由だ。それなら、それならって思ったのかもしれない。
「私は…。弱いから…」
兄さんと違って、余りにも弱すぎる。本当に血を継いでいるのか、色んな事を言われた。
その辺の農家の娘だから、冒険で家を空けている間に違う男に、そんな事を言われてもお母さんは負けなかった。私は何度も陰で泣いた。私が強く、強く生まれなかったから。兄さんが立派に血を証明しているからこそ、私は自分が情けなかった。
もし、同じ事になったら。私はきっと耐えられない。絶対に比較されてしまう、私が子供を作ったとしたら。
「そんな事はありません!それを証明しに行くんです!」
リオンは真っ直ぐな瞳で言ってくれた。自信に溢れ、胸を張るその姿は頼もしさを感じた。私には勿体ないくらいに良い人だ。だから、尚更。
「レスティ。パン、焼けてるよ」
ベクルがリオンを強めに弾き飛ばして目の前に現れた。冷めない内に早く食べなきゃ。
「うん。それじゃ、食べてくるね」
「はい!お外で待っています!!」
威勢のいい返事を背に家の中に入る。今日、私は証明できるのだろうか。私の血を。
私の『勇気』を。
大きな金属で出来た門の前。思わず息を呑むくらいに荘厳な建物だ。私には読めない文字がそこかしこに刻まれている。ペスケがいたら解読してくれたのだろうけど、今の私達には読む手段はない。
「本当に先に行ったのか?あの馬鹿…」
「ノーエル。あいつの馬鹿は知ってるだろう?行くって言ったら行ってるよ。たぶん寝ないでずっとうろついてんじゃないの」
そこには全員が集合していた。ペスケを除く。ここには星が誇る一大戦力が集結している。『心眼の剣聖』に『陽光の救世主』、『朝露の魔術師』に『大魔導士』だ。私だけが二つ名を持っていない。ちょっと寂しいけれどそれが現実だ。
『セントラル』。金属で出来た鉄の街。青い謎の金属で出来たこの街は、破壊不能な為に誰も住むことが出来ない場所になっている。その金属は曲げる事も、溶かす事も、安易に持ち上げる事も出来ない。再利用して住むには敷居が高すぎるが為にこの街には誰も住むことが出来ない。
そこかしこにかつて家だったであろう金属の塊が立ち並んでいる。平らにならした道は、金属ではないだろうけど何かで土を覆っている。歩きやすい道ではあるけどたまに割れていてつまずいてしまう。きっと頻繁に手入れが必要だったのだろう。
道を少し行くと、ガチャガチャ、と音が響いている。誰も警戒していない、その音の主が誰であるか、なんとなく分かるからだ。あの人が物色している時は大体わざとうるさくしているのでこちらには分かりやすい、とベクルがよく不満げに言っていた。
「ない、ないないない。ない!!目新しいもん何にもない!!」
声まで響けば確定だ。ちょっと大きめの建物にペスケがいる。姿こそ見えないがこの場にいる皆が確信したようだ。ノーエルは呆れ気味に溜息を吐くと、建物の入り口を塞いでいる金属に手をかけてぶっきらぼうにそれを投げた。ズシンと大きな物音が響くと物色している中の音が止まって、こちらに駆け寄ってくる足音に変わった。建物から出てきたのはやっぱりペスケだ。
「聞いてくれよ!寝ないで調べてたんだけどさ!この周辺なんにもないの!幾ら何でもつまんなすぎると思わないか!?」
「ペスケ、遊びに来てる訳じゃないんだぞ」
「遊んでるもんか!こっちは真剣だよ!?ノーエル!あんたも探せ!!ここは建物から察するに病院らしい、きっと最先端の医療器具が…」
「あのなぁ、ここに来たのは魔物の討伐に、だ。少しは協調性ってものを…」
「そうか!衰退していく過程でここの物資は持ってかれたんだ!きっと避難場所みたいなのがあったはず…そこに行き着けば…」
また溜息を吐くと諦めたように歩き出した。ペスケは放っておく方が良いらしい。
「確か地図によると…。向こうだ!向こうの方にあったな!今すぐ行こう!ノーエル!」
「俺に命令するな!リーダーは俺だぞ!」
「ノーエルー…。お前は女の頼みも聞けない男なのか?『陽光の救世主』の二つ名が泣くぞ!さぁ行こう!」
ノーエルは一度、足を止めるとペスケの指差した方へ向き直った。どうやら先に行ってくれるらしい。
「分かってるじゃないか!それでこそ男だ!お前の事を少しだけ見直したぞ!」
「リーダーは大変ですね、ノーエル」
リオンが同情する様に肩に手を置いた。その手を見るノーエルの目は、まるでそう思うのなら変わってくれ、とでも言わんばかりに覇気が無かった。聞いた話ばかりで見た事は無かったけれど、こんなに振り回されている兄さんは初めてみる。私の前では完全無欠で通していたんだな、と思うとおもわず頬が緩むのだった。
道中は本当に魔物がいるのか、と思うくらい何とも遭遇しなかった。天気は晴れ、風も穏やかでこんなに大人数ならピクニックに変更してもいいくらい。こういう時こそ警戒しなきゃいけないのだろうけど。
またしても大きめの建物の中にペスケは入っていった。入り口の所に色々書いてあるけれど、これが避難場所を示しているみたい。私とベクルは顔を見合わせたあと頭にはてなを浮かべた。
「私も足を踏み入れていいかい?魔法に関する物は少ないだろうけど、好奇心が疼いてね」
ミリルさんがペスケに続いた。私とベクル、リオンとノーエルが入り口で見張る事になった。もう一人くらい中の捜索に回せ、とペスケがジェスチャーしてるけれど、ベクルもノーエルも見て見ぬふりをしていたのだった。
「あいつのペースに合わせてたらおかしくなる。レスティも分かったでしょ?あいつがどんだけの変わりものか」
「あはは…。でも面白い人でもある、でしょ?」
「彼女の実力は間違いないですしね。僕と同等くらいの力もあります」
『血塗れの冒険家』、という二つ名があるくらいだ。その名の由来は知らないのだけれど、十分に実力のある人なのだろう。なによりあの鎌斧『デスサイズ』は迫力がある。
「リオンさんが認めるなら、それはすごい人なんだな、って思います」
「後は、周りに合わせてくれる所があれば完璧なんだがな」
ノーエルが明らかに嫌味たらしくこぼした。たぶん、本当に嫌なんだろう。
「そう思うなら外せば?あいつとは何年も一緒にいたけれど離れるとほんと、せいせいするよ」
「あいつはあいつで役割がある。それを果たしているのなら、無下にする理由はない」
ふと、肩に乗せていたロップが顔を突き出してきた。お腹が空いたのかもしれない。鞄に入れておいた薬草をひとつまみ持って顔の傍に持っていくとそれを頬張り始めた。
「…随分、懐いているようだな」
「兄さんも触ってみる?ふわふわだよ」
こういう小動物は嫌いではないはず。昔、家族で犬を飼っていた事がある。小さい犬だったけれど、勇敢で大きい相手にも物怖じしない奴だった。ノーエルは少しこちらを見た後、すぐに視線を逸らして目を瞑った。どうやら駄目みたい。
その代わり、かどうかは分からないけどベクルがロップに手を伸ばした。一回、二回とその体を撫でると幸せそうに微笑んだ。撫でられている間、逃げようとも隠れようともしない。意外にロップも勇気があるのかもしれない。
「…ぼ、僕も触っていいですか…?」
「いいですよ。ほらっ、ロップ」
リオンが恐る恐る手を伸ばして、一回、二回と撫でるとロップは気持ちよさそうに目を細めた。リオンの顔も綻ぶ。
「ほら、兄さんも」
「…俺は、いい」
「そんな、怖がらなくってもいいじゃない」
「お前達で愉しめ。俺には、俺にはいい」
兄さんは、気負いすぎているのかもしれない。これくらいの息抜きはしたって誰にも怒られないはずだ。肩に乗ったロップを手で持ち上げて、兄さんの前へ持っていこうと、
した、その時だった。
「ガォォォン!!」
甲高い、金属が吠える様な音がした。金属同士が擦れ、自ら動くようなそんな音。ペスケ達がいる方だ。建物の中からしたような気がする、広い空間になっていたから件の魔物が入り込んだのかもしれない。ノーエルは私が振り向くより先に駆け出していた。
「ミリルさんが危ない!えっと、レストさんは…」
「…行くよ。じゃないと、証明できないでしょ?」
私はこれから『勇気』の証明をしないといけない。本当にそんな現象を起こせるのか、そして、本当にそんな現象が存在するのか。両方を証明しなければいけない。
ベクルは私を見つめると少し不安そうな顔をしたけれど、頷いて走り出した。ペスケがいるから大丈夫、だとは思うけど。
幾つかの瓦礫の山を避けて、右へ左へと進んでいくと開けた空間にそれはいた。金属の外殻を纏った魔物だ。一般的にはゴーレムと言われてるやつだ、この周囲の金属を使っている相手だとすると厄介な相手になるはず。
「困ったな。僕の魔法はあまり通用しない…」
「つべこべ言わずに援護しな!一体だけじゃないよ!」
ペスケが振り下ろされたゴーレムの腕をはじき返すと、他の瓦礫の山から一体、二体、三体も出てきた。
「あぁあわあわ…!ぼ、僕は奥のを相手します!『倍化式』!『アクアシュート』!」
リオンが指をなぞり、手を合わせると目の前に水の玉が現れ、ペスケを丁寧に避けて奥のゴーレムに向かって勢いよくぶつかっていった。当たったゴーレムは体勢を崩し、倒れ込んだがまだ完全に倒したとは言い切れない。
「一体、片付いた。後は」
私達より先に踏み込んでいたノーエルが呟いた。その目の前には剣で切り裂かれたには余りにも真っ直ぐに両断された金属があった。
「それじゃあ二体目。って事で」
ベクルが金属の殻を放り投げた。見てなかった、いや、見えなかっただろうけど核を突いたのだというのは簡単に分かった。
「えぇー…!二人共、早すぎですよ…!」
「ほんと、面白くないよねー。もっと楽しまなきゃ…!」
残っているのは二体。リオンが相手するといったやつとペスケの目の前にいるやつだ。
「えぇい…!あんまり使いたくなかったんですけど!『大魔法式』!」
魔法を詳しく知らない私でも知っている。『大魔法式』、特別強い魔法を使う為に必要な魔術式だ。二つの属性を併せ持つ魔法を撃つのに必要で、その術式を描くには魔力だけでなく体力も消耗する、と聞いた事がある。リオンが手を合わせると、ベクルが私の傍に寄って体を押えて伏せさせた。
「『炎水解!アクアフレア』!」
立ち上がったゴーレムの周りに水滴が浮かび上がる。それはまるで『朝露』のように綺麗で、思わず見とれてしまうくらい。それをじっと見つめていると一つ、二つと加速的に蒸発していき、辺りに陽炎が立ち上がった。ゴーレムの形が歪んでいく、その歪みは少しずつ、少しずつ大きくなる。何が起きているのか分からないでいると、
突然、空間が歪んだ。
爆風に身を屈めて耐えていると、遠くで金属がひしゃげる音が響き、何とか目を開けるとゴーレムがいた場所には何も無かった。いつの間にか、消えていた。ゴーレムだったものさえ見当たらない。
「はぁっ…。もっとスマートに倒せたらいいんだけどなぁ…」
素直にすごい事だ。私は思わず拍手しようとする手を抑えて、まだ残っているゴーレムに目を向けた。ペスケは相変わらず『遊んでいる』。
「ほらほらぁ!ちゃんと楽しまないと!!」
襲ってくるゴーレムの腕を一回、二回と弾いて挑発している。相手は魔物だ、言葉が通じているはずはないが、ペスケは関わらず語りかけている。
「どうやったら死ぬのかなぁ…!こうか?それともこうか!」
『デスサイズ』で金属の体に向けて切りつける。わざと浅く、かつ腕や足先を狙っている。目に見えて分かる、『遊んでいる』。
「私見を広めたいんだ…!教えてくれよぉ…。分かった!ここだな!?」
強く、腕に向かって切り込みを入れた。腕を切り離されたゴーレムは僅かに体勢を崩したがすぐに持ち直してもう片方の腕で殴りかかっていく。
「なんだ、違うのか…。じゃあこっちだ!」
その腕を切り落とし、いよいよゴーレムには攻撃手段が無くなった。それでも体を動かそうと、カタカタ、カタカタと揺れている。まだあいつは生きている。
「うぅん…。どうだろう。まだ生きているみたいだな…」
ベクルは頭に手を当てて、ノーエルもペスケから目を逸らして外を見ている。
「…知りたくなったぞ。あと何回で死ぬんだ?私に教えてくれ!!」
ゴーレムの体を空中高くに弾き飛ばすと、『デスサイズ』を大きく振りかぶって叫んだ。
「『ブラッドレクリエーション』!私と遊ぼう!!」
『血塗れの冒険家』、その二つ名の由来は相手を死ぬまでなぶる凶悪性からきたものだった。金属の体の表面に傷が瞬く間に増えていく、私の目では追いつけない速さで。火花が散る、余りにも多くの火花が。もしそれが血であったのなら、私は直視できない程に残酷な光景であっただろう。
ゴーレムの体が傷で満たされ、目に見えて歪んでいく。鎌がその体を削りきり、突き刺さった時、ペスケの動きが止まった。
「…終わりかぁ。それじゃあ、死んでくれ」
『デスサイズ』を一振りすると、ゴーレムの体は綺麗に両断された。金属の落下音が辺りに空しく響く。つい先程まであんなに賑やかだったのに。
「…うん?待てよ…。こいつは残しておいた方が良かったんじゃないか…?」
ペスケが顎に手を当てて考えている。魔物が現れたのなら、倒しておくのは何も悪い事じゃない気がするけれど。
「はぁ…。まぁいい。ミリルさんを守る手前もあったしな」
「そうだ!『勇気』!実践する為に魔物がいないと…」
リオンの言葉で思い出した。そうだ、私は『勇気』の証明に来たんだった。完全に、足が竦んで何も出来なかった。
「守られていたとは言え…、色んな意味で死ぬかと思ったぞ!当分ペスケくんとは行動しない!!」
「あはははは!そう怖がらないで、天下の『大魔導士』サマならどんと構えて下さいよー!」
ミリルさんの小さい体が、尚更小さく見えるくらい怯えていた。あんな鬼気迫る姿を間近で見せられたのなら、それも納得できる。思わず私の傍に来て隠れるくらいに怖かったみたいだ。
「いやー。遊び過ぎちゃったなー。私とした事が、目的を忘れて楽しみ過ぎたよ」
「いつもの事でしょ?まったく、弱いやつ相手だと活き活きするんだから」
「だって楽しいじゃん?弱い物虐め。強いやつと戦うなんて御免だねー」
それがペスケのモットーらしい。常に弱い相手と、圧倒する戦いを。だからいつも『血塗れ』で帰ってくる。十分に強いからペスケより強い相手がそうそういないのが厄介な所だ。
「星を救う為には、もっと強いやつと戦わなければいけないだろう!その時はどうするのだ!」
ミリルさんが私の後ろで吠えた。ペスケはへらへらした顔でノーエルに視線を移した。
「『陽光の救世主』サマに全て任せる。私が戦っても意味ないもーん」
「こういう奴だ。更生は期待しない方がいい」
ノーエルは諦めた様に呟いた。十二分に性格を把握しているらしい。切り捨てられた金属を八つ当たりの様に蹴り捨てて歩き出した。
「もう帰るのか?まだまだ調査したりないなーとペスケさんは思うわけですが」
「勝手にしろ。討伐対象は倒した、一度、報告に戻る。お前達は…、ここに残れ」
「え?残るの?でもここって危ない…」
「何を言ってるんだ。『勇気』を実践するんだろう、俺もさっき試したが…。何も起きなかった」
そうだ、そうだった。また頭から抜けていた。私がやらなきゃいけない事なのに。敵と戦うという事がどうも意識付けられない。ずっと、護られてる側だったから。
「といっても、ここって魔物が少ないのよね。夜も越さないといけないかも…」
「任せたまえ!こんな事もあろうかと便利な魔導具を色々持って来ているんだ!」
ミリルさんは背負っている鞄に手を突っ込むとがさごそと色々な物を取り出した。日を跨ぐ準備をしていたのには驚くけれど、その鞄の中身だけで越せるというのも驚きだ。小さい体にぴったりな小さい鞄だ。その大きさからは信じられないくらい、多くの物が出てくる。
「…あれ!?男…僕一人ですか!?」
「頑張れよ。それじゃ」
ノーエルはこちらを見ずに立ち去った。リオンは何故か立ち尽くしている。
「あった!あったぞ!!このはさみ…状態がいいな。持ちやすい!メスもあるぞ!」
「ひえっ!!き、君がそれを持つと何だか怖くなる!!」
「何故?これは医療器具だ。万が一にでも怪我をしたら私が手当できるのに」
「戦う姿を見るまで君のそれは演じているものだと思っていた…!だが!今日、本物と分かったからには距離を置かせて貰う!!」
またしてもミリルさんは私の後ろに隠れる。参ったな、これじゃあロップが二匹に増えたみたいだ。思わず頬を掻いてしまう。
そもそも何故、私の後ろなのだろう。ベクルの方が大きいし頼りがいがあるのに。
「ペスケ、一旦それを置いて。じゃないと私が剣を抜かなきゃいけなくなる」
「やだなぁ!私じゃベクルに敵うわけないじゃないか!そんなに凄むなら置いておくよ」
ペスケはそっと、地面にはさみを置いた。彼女は終始にやけ顔を崩していない。
頭を抱えたリオンが立ち尽くしている。兄さんがいない今、まとめ役になって貰いたいのだけれど。
「あの、えっと…。リオンさん。夜を越すならどの辺りにしましょう…?」
「えっ!?あっ?!夜!?レストさんと!?!」
「それ以外でも剣を抜かなきゃ行けない理由が出来たね」
「あっ!?ちょっ、ちょっと待ってくださいよ!!今のはちょっと!!」
顔を紅くしたリオンが一生懸命に手を振って何か違う、という事をアピールしている。
もうすぐ夕暮れ、黄色い太陽が赤くなる頃。『星の右手』の小指が影を伸ばして私達に迫ってきていた。私も、いつになっても剣を抜けるようにならないと、なんて考えながら騒がしい皆を見守っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます