第6話 ウルダ(6)
現れたのは傷だらけの山賊だった。ジャンが投げたナイフは全部10本だった。その中に外れたのは1本で、命中して絶命した山賊が3名で、重傷したのは2人だった。残りは軽傷だった。けれど、軽傷と言われても、剣をにぎることが難しいぐらい、かなり致命的だ、とサマンは思った。それでも、彼らだけで5人の山賊を相手にするのも大変だ。
ラクダも疲れて、動かない。
「もう逃げられない」
アブはラクダの背中から降りて、剣を抜いた。サマンもジャンを置いて、アブの隣に立って、剣を抜いた。
「俺にナイフを投げたのは、誰だ?!」
一人の山賊が大きな声で聞いた。どうやら、ナイフが目に当たったようだ、とアブは剣を強くにぎって、答えなかった。
「無視するな!」
その山賊はいきなり鞭を出して、アブとサマンを攻撃した。いきなりの攻撃にアブとサマンはびっくりしたけれど、素早く距離を取った。
「ほう? ガキでもちゃんと戦えるのか」
もう一人の山賊がそう言って、笑った。ジャンが投げたナイフは腕に刺さって、その山賊の腕から血が流れている。暗闇の中でもよく見えるほどだった。
「こいつらはどうする?売るか、殺すか・・」
ズサッ
一番後ろにいる人が言い終える前に、いきなり倒れた。
絶命した。
「おい、どうした?」
仲間がいきなり倒れたため、一人の山賊が馬から降りて、倒れた人を確認した。
「死んだ?」
その山賊が仲間の体を確認すると、瞬いた。
傷が軽傷はずだったのに、と山賊が思うと、その仲間の体をひっくり返した。
胸に小さなナイフが刺さっている。
「おい!おまえら以外にも誰かいるのか?!」
その山賊が怒鳴ったとしても、アブとサマンは答えなかった。
「答え・・」
ズッサ
今度はその山賊が崩れた。すると、鞭を持った山賊が怒り狂ってアブとサマンに向かって攻撃し始めた。もう一人の山賊も馬から降りて、大きな剣を振り回して、アブを攻撃した。アブは必死に抵抗して、応戦したものの、やはり大人と子どもの差がある。絶体絶命の時に、アブの頭の上に、すれすれと光が見えた。アブは急いで頭を下げた瞬間、相手が崩れた。
死んだ。
アブは思わず後ろに振り向いたけれど、そこは誰もいなかった。
ジャンしかいない、とアブは思ったけれど、言わなかった。ただ、自分はできることをすれば良い、とアブも分かっている。
仲間が死んだことも知らないもう一人の山賊は、力強くサマンを攻撃している。サマンの腕や背中に鞭が当たって、その山賊が攻撃を緩めるどころか、ますます激しくした。
その時だった。
馬の後ろから、小さな影が見えて、馬の背中に一飛びして、そのまま山賊の頭をつかんだ。そして驚いた山賊が後ろに振り向こうとしたときに、もう一本の手が短剣で彼の首を斬った。
山賊が崩れて、そのまま絶命した。
「ジャン!」
アブが駆けつけると、敵の返り血を浴びた小さな影が見えた。
「アブ兄さん」
「大丈夫か?!」
「はい」
「良かった」
アブはジャンを抱きしめた。
「本当に良かった」
「アブ兄さんも、怪我はない?」
「問題ないよ、このぐらいは・・」
アブはジャンをそのまま抱きかかえて、サマンの様子を見た。サマンは立ち上がって、もうズタズタになった服を脱いだ。
鞭による傷が生々しいけれど、命の別状はない。
「痛い?」
ジャンが聞くと、サマンは微笑んで首を振った。この時ぐらいは強く見せないといけない、とサマンは思った。
「ちょっと着替えてくる」
「ああ」
サマンが言うと、アブはうなずいて、主なき馬を見ている。
「これからどうしますか?」
「うむ」
ジャンが聞くと、アブは空を見て、周囲を見渡している。
「武器を集めて、馬ももらっていく」
「はい」
「そして先生の指示通り、ここから一番近い村に目指す」
アブがそう言いながらジャンを降ろした。
「先生の所に行かないの?」
「行かない」
アブは即答した。
「俺たちが見えただけでも、戦闘の邪魔になるだけだから」
「はい」
「じゃ、さっき投げたナイフをまた回収しよう」
「はい」
ジャンはうなずいて、もう絶命した山賊たちからナイフを回収した。ついでに、山賊たちの武器も集めて、サマンの所へ行った。
「お、良い武器だね」
「はい」
サマンが言うと、ジャンは笑いながらそれらの武器を持ってサマンの前に置いた。
「馬も良い馬ばかりだ」
「本当だ」
サマンはアブを見て笑った。
「アブ兄さん」
「ん?」
「投げナイフが5本ありました。でも、アブ兄さんのカバンの中にある毒瓶の中身を全部使ってしまいました。ごめんなさい」
ジャンが言うと、アブは一瞬固まった。
「皆が無事で何よりだ」
アブは優しい声で言って、布でくるまれた投げナイフを受け取った。
「それよりも、なぜその瓶の中身は毒だと分かった?」
アブが聞くと、ジャンは考え込んだ。
「毒のにおいがします」
「におい?」
「はい」
着替え終えたサマンが聞いた。
「毒のにおいが分かるのか?」
「うーん、全部じゃないけど、なんとなく、毒っぽいかな、と思います」
「ふむ」
アブが自分のカバンを確認すると、やはり瓶一つ中身はもうない。
「サマン、ジャンを洗ってくれ。クジャク星だ」
「分かった」
サマンはジャンを連れて、ラクダから離れたところで持って来た水でジャンの手を洗った。そして服を脱がして、また洗った。
「寒いけど、少し我慢してね」
「はい」
ジャンはブルブルしながら答えた。サマンは素早くジャンを洗ってから、アブが持って来たジャンの服に着替えさせた。
「またジャンの服を買わないとね」
「そうだね。次の村で買おう」
サマンが言うと、アブはうなずいてジャンが使った服でナイフを包んだ。そしてきれいな布でまた包んだ。
「ジャンが使った毒は、とても危険な毒なんだ。俺の親父からもらった毒でね、敵に使われたら、ほぼ即死するんだ」
「そうなんだ」
「知らずに使ったの?」
「はい」
アブが言うと、ジャンはうなずいて、返事した。
「アブ、おまえも着替えなきゃ。さっきジャンを抱きしめただろう?」
「ああ、そうだった。水がまだあるのか?」
「このぐらいしかない。飲み水だけは別にしたから、これを全部使っても良い」
「分かった」
アブはサマンから大きな水筒を受け取って、すぐさま自分自身を洗った。サマンはジャンを連れて、ラクダの上に座らせてから、厚い布を取って、そのままジャンにかぶせた。
「ここで待ってね」
「はい」
サマンが言うと、ジャンはうなずいた。サマンは山賊の武器や財布を集めて、ラクダにまとめた。そして死んだ山賊らを簡単に埋めた。夜が明け始めて、光が周囲を照らし始めた。アブはサマンがいるところへ行って、少し会話してから、ラクダの上に乗った。サマンもラクダに乗ってから、ゆっくりとその場から移動して、その場から一番近い村へ向かった。
「喉が渇いた?」
「はい」
サマンが聞くと、ジャンはうなずいた。サマンは飲み物を取って、ジャンに差し出した。ジャンがゴックンゴックンと美味しそうに飲むと、サマンは笑った。
あの戦いから一滴も飲んでいなかったから、喉が渇くだろう、とサマンが言うと、ジャンはうなずいた。
「ありがとう、サマン兄さん」
「良いさ」
サマンは水筒を受け取って、カバンに直した。
「でも、今度はちゃんと言ってね。飲みたい、喉が渇いた、とか」
「はい」
ジャンはうなずいた。
「俺は言葉だけで、おまえの兄さんになるつもりじゃないんだ。だから、おまえも、俺たちが本当の兄さんとして接触して欲しい」
「はい」
「血のつながりがなくても、俺たちは兄弟だ。分かった?」
「はい」
サマンは優しい言葉で言った。アブは無言でサマンとジャンを見て、前に進んでいる。
数時間の旅が続いて行くと、日が高くなった。アブはラクダを止めて、布を敷いてからたき火を作って、食事の準備をした。サマンはジャンを降ろして、数少ない水で調理し始めた。
「先生が無事かな・・」
ジャンが言うと、隣で調理しているサマンは微笑んだ。
「問題ないよ」
サマンは鍋に蓋をした。そうすれば、水滴が無駄にならない、と説明した。
「ラクダにも水を少しあげないとね。だから、人は工夫しなければいけないんだ」
アブが来て、持って来たバケツに水を入れて、ラクダに飲ませた。
「じゃ、食べようか」
「はい」
サマンはできた料理を鍋ごと運んで、茶碗に分けた。普通のなすと干し葡萄と干し肉を蒸し焼きにした料理だった。
「パンの袋がどこかで落としたみたいだ」
「まぁ、仕方ない」
サマンが言うと、アブはうなずいた。
「ある物だけで頂こう」
アブが言うと、全員うなずいて、食べ始めた。食事ができるだけでもありがたい、と誰もが思った。
食事の後、アブはヤカンで沸かしたお茶を茶碗に注いだ。そうすれば、茶碗を洗わなくても良い、ということだ。水があまりないところでは、このようなやり方は当たり前だ、とジャンは最近理解した。
食事の後、彼らはまた出発した。数時間をかけて、やっと村の入り口が見えた。以外と大きな村だ、とジャンは思った。大きなオアシスが見えて、人々が忙しそうに動いている姿が見えた。
「この村でしばらく過ごす。先生の行方が分かるまで」
「はい」
サマンはジャンを降ろしてから、大事なカバンを持って、肩にかけた。アブも降りて、馬5頭とラクダ6頭を連れて、預かり屋に向かった。札をもらってから、彼らは近くの村の警備に報告して、ジャヒールの行方を捜す。
どうやら、ジャヒールはそこそこと名前が知られた人のようだ、とジャンは思った。
「先生はこの辺りでは有名だよ」
サマンはそう言いながらジャンを抱きかかえて、アブを待っている。アブはシリアスの顔で彼らと話し合っている姿が見えた。
「アブ兄さんも有名ですか?」
「まぁ、あいつの親父と兄貴を知らない人はいないだろう」
サマンは笑った。
「アブ兄さんのお父様は何をやっているの?」
「腕の良い用心棒だ」
サマンが言うと、ジャンはまたアブに視線を移した。用心棒がなぜ毒瓶を息子に与えたか、とジャンは首を傾げた。けれど、その疑問をサマンに問いかけなかった。
「待たせた、ごめん」
アブが戻って来ると、サマンはうなずいた。
「どうだった?」
「先生が現れたら知らせてくれるそうだ」
「良かった」
サマンはうなずいた。
「彼らが馬に興味を示したが、俺は先生が来るまでしばらくそのままにして欲しいと答えた。良いよな?」
「俺は問題ない。ジャンは?」
サマンが聞くと、ジャンは首を傾げた。
「アブ兄さんに任せます」
結局状況を理解しなかったジャンはそう答えた。アブは笑って、小さなジャンのほっぺにつまんでから、うなずいた。
「分かった。じゃ、まず食事をしよう」
「はい!」
「ははは、ご飯になると、とても元気だ」
アブは笑って、サマンとジャンと一緒に市場へ向かった。ジャンはいくつかの料理に興味を示したから、アブとサマンはそれらを合わせてまとめて買った。食事は食事屋で取った。
「食事屋って、食事をするために部屋を貸すお店なんですね」
ジャンがいうと、アブはうなずいた。
「そうだよ。アルキアにはないのか?」
「はい、ありません」
ジャンはそう答えて、ご飯を口に入れた。おいしい、とジャンが頬張ると、サマンは笑った。
「じゃ、屋台で買った食事はどこでやるの?」
「うーん、その屋台の前か、持ち帰って、家で食べるか、それだけです」
「不便だろう?」
アブは首を傾げた。
「持ち帰りの場合、屋台のお皿はどうやって返すのか?」
「家から容器を持って来る、そんな感じです。その他は、屋台の前で食べる人もいます」
「不便だ」
アブはやはり理解できなかった。
「屋台の前で食べるとなると、外で食べるだろう?」
「はい」
「それはなんとなく理解できるが、家族連れや友達と一緒に食べると、道がいっぱいになるだろう?」
「そうですね」
ジャンはうなずいた。
「買う人も多いから、落ち着いて食事もできないだろう?」
「考えてみると、そうですね」
ジャンはうなずいた。
「そう考えると、食事屋は便利だ。食事は外の屋台で買って、ここで食べる。食べ終わったら、お皿は食事屋が屋台に返す。お皿を返すために、料金の前払いに含まれるから、俺たちにとって便利だ。食事屋の店員なら、この皿はどの屋台の物か、すぐに分かるさ」
アブが言うと、サマンもうなずいた。
「それに、女性と一緒に市場に行ったら、彼女達は外で食事できないからかわいそうだろう?」
「え?そうなんですか?」
サマンが言うと、ジャンはびっくりした。
「アルキアでは、女性が普通に外で飲み食いしているのか?」
「それは良く分かりません」
ジャンは素直に答えた。
「でも、おばば様はたまに外で買うように、と侍女に頼みました」
「ふむふむ」
サマンはそう言いながら大きな肉を取った。
「ということは、多分アルキアでも、女性は気楽に外で飲み食いできないだろう」
サマンがそう言うと、アブはうなずいた。
「だから食事屋は重要だ」
「そうですね」
「まぁ、食え。食事を終えたら、宿を探さないといけないから」
「はい」
アブが言うと、ジャンはうなずいて、また美味しそうにご飯を口に入れた。
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