第7話 心

今日は久しぶりの休日であったが、心が休まる気はしなかった。時間や行動に何ひとつ制約の無い状態で木漏れ日を浴びたり、鳥のさえずりに耳を傾けたりしていることに、違和感を覚えていた。初夏の爽やかな風は、私に何のために生きているのかと問い詰めてくる。耳を塞ぎたくなる。成長した息子、娘が、フライングマシンから手をふっている。私は手を振り返し、芝生の上に腰をおろした。


暫くして、どこからか、祭囃子が聞こえてきた。祭りの季節には、さすがにまだ早い。鼓を軽快に叩く音、陽気な笛の音。近くのコミュニティセンターか何かで、練習をしているのだろうか。私は立ち上がり、祭囃子に向かって歩いていた。しかし、どうしたことだろう。歩けば歩くほど、祭囃子は遠ざかっていき、今ではもう全く聞こえていない。私の様子を案じた息子が、私の背に声をかけた。


どうしたの?


祭囃子が聞こえたんだ。聞かなかったのか?


聞こえないよ。全く。それに祭りの季節はまだ先じゃないか?聞き間違いじゃない?


いや、確かに聞こえたんだがな。気のせいだったかな。私の耳がどうかしたのかな。


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