第5話 子

 夕汰を抱く僕がいた。とても繊細な重みだった。今まで感じたことのなかった重み。綿毛のように軽くも感じられたし、不安定で固形でないものを抱えている感じもした。夕方に生まれたから夕汰だ。この命。まるで触れていないような。浮かんでいるような感触。とても柔らかな布にくるまれて、夕汰は目を閉じていた。でも確かに、僕を見ていた。

 この時が一瞬にも思えた。永遠にも。僕は死ぬまで思い出す。彼が生まれたときのことを。そして僕が死んでからも、彼は生きていくのだ。そこに無常の喜びを感じた。僕が死んでからも生きる。


 この病院の窓からは、いつも海が見える。葉子さんの病室からも、至急署名が必要になったあの時も。そして僕は、殺風景なロビーで時間がたつのを待ち、窓から海が見えた。日の沈んでいく海。沈む夕日に代わって生まれてきた夕汰。


 僕のイマジネイションは、2頭立ての馬車を操る太陽神アポロン。音はしない。僕の魂は、この瞬間にすでに引き継がれている。こうして僕は子をもうけた。僕と葉子さんは。


 

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