第4話 朝

 僕は再び眠りについたらしい。次に目が覚めたのは、朝の7時をまわったところ。葉子さんがかけている、謎のヒーリングミュージックが聴こえる。


 おはよう。


 葉子さんは、ヨガのようなことをしてる。ゆっくり伸ばす背中、首。中空に弧を描いて腕を降ろして、大きく息を吐いた。強い陽射しが窓際においた観葉植物の陰をぬけて、彼女の体を優しく包んでいる。眺めながら、僕はコップ一杯の水を少しずつ飲み干す。


 朝食はパン。向かい合って食べる。どこかで、これからの算段をたてなくてはならないのだけど、今朝はそんな気持ちになれないのが僕らに共有されている。


 ことはややこしいのだ。僕らはお互い職種は違えど日本とこの国を短期間で行き来しながら働く仕事に就いており、たまたま現地のパーティーで知り合った。子どもができたとなると2人とも帰国?ただし、葉子さんはこっちで出産をしたいようなことを言っているし、実際僕もこっちでの生活のほうが好きだ。手っ取り早いのは2人とも今の仕事を辞めて現地で仕事を探すことだが、子どもができるというのに安定した収入を得られる職をみつけることはこの国では不可能に近い。


 もうひとつ気になるのは、葉子さんのご両親にどう説明をすべきかということ。説明しないわけにはいかないだろうし、そのへんのことは葉子さんは全く話していないそうなので予測がつかない。案外すっと飲み込んでくれるのでは、とも思うのだけれど。


 そんなことを考えながら、僕は一旦自宅に引き上げることにして、葉子さんは「本屋に行くかも」とのことだった。葉子さんと相談しながらすすめていくけれど、僕がしっかり決断をしなければならない。自宅まで5分もかからないくらいなのに、自転車はゆっくり進んだ。僕は一歩一歩踏みしめるように、しっかりとペダルを漕いだ。

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