第3話 夜

 いつの間にか、僕の意識は覚醒している。扇風機の風量を示す灯りがあったから、自分が何者で、どこにいるのかが少しずつ分かりかけてくる。眠りは不思議だと思う。いつ眠りについたのかはっきりしないし、起きた瞬間もさだかではない。腕時計を見て、今が午前2時半頃だと確認した。目覚めるたびに思うのは「生きている」ということ。眠ったまま死んでしまえば、死んだことに気づかず、また、自分がこれから死ぬということも意識せずに死んでしまうに違いない。眠っているとき、きっと僕は呼吸をしたり、いびきをかいたり、寝返りをうったりしているのかもしれない。けれど、僕の意識はそこにはないのだから、”眠っていることは、死んでいることとあまり変わらない”。


 こんなふうにして、夜中に目が覚めたとき。僕は、若くして亡くなった自分の父親のことを想う。僕の父親は、僕がもの心つくまえに死んだ。赤子の僕の隣に寝ていた父は、朝に冷たくなって死んでいたという。多忙な仕事で疲れていたようだが、なんの前触れもなく死んだので、僕の母親はとても驚いたそうだ。不謹慎ながら、とても簡単に死んでいたことに対して、悲しむ余裕もなかったという。しかるべきところに連絡をして、死が確実であることが結論づけられるの待ちながら、母は僕を抱いてあやしていたという。何かのおりにそういう話を聞いたのだが、母親はあまりそのことを思い出したくないらしく、以降詳しく語られたことはない。だから父親の死は、僕にとってよりいっそう簡素な死に感じられた。


 一方で、父親の人柄については、母親をはじめ、いろんな人から話を聞く機会があった。


「君は死んだお父さんに似て、ちょっと優しすぎるのよ」


 僕は父に似ているらしい。夜中に目が覚めると、ここにいる僕が僕ではなく、死んだ父が目覚めただけではないかと思う時がある。

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