第三話 最後のゴブリンパンチ
ep1.Not Only a Paper Moon
我が国の子供たちを対象に『将来なりたい職業』のアンケートを取ると、ほとんどの州で警察官・消防士・軍人がトップ10に入る。
事故や事件の現場に登場するのは火事場泥棒よりも正義の一般市民の方がずっと多い。
ジパング発の
広い世界を見渡しても、我らが
その傾向はおよそあらゆる種族と社会階層に共通している。
人々の多くがヒーローになることを夢見、また、ヒーローとなった者に対しては強烈なリスペクトを抱く。
ヒーローとはつまり、たった二人でワイバーンを退けた
国立公園での事件が知れ渡ると、ウィリアムとビアンカに対する周囲の態度は如実に、如実に変化した。
人と遭遇することは稀だが出会ってしまえば文句なしに『
この活躍が英雄的でないなら、はたして英雄的行いとはなにか?
この二人がヒーローでないなら、いったい誰がヒーローか?
遠足から数日後、二人の元には国立公園局長と郡保安官からの表彰メダルおよび表彰楯授与の打診が、それぞれ届いた。
学校には各種メディアからの取材の申し入れが、殺到した(二人ともにマスコミ露出を嫌ったので取材も授与式もティーチ先生を通じて断ってもらったが、メダルと楯は学校宛てに配送されてゴブリン寮の壁を飾っている)。
さらには、ニューヤンク市長が名誉ある『
そして級友たちは、これまで教室内の異分子筆頭だったこの二人を、一転してクラスの自慢のように扱いはじめた。
特にワイバーンを直接ノックアウトしたビアンカに向けられる視線は、ウィリアムに対するそれよりもさらに数段、熱かった。
さて、そんなクラスメイトの態度を、我々の主人公たちはどのように受け止めたか?
「嬉しくねえ、ちっとも嬉しくねえ。むしろ居心地悪くてたまんねえ」
いい加減、遠足の話題は耳にすんのも嫌になってきた。
放課後の中庭でジュース片手に友達を待ちながら、ビアンカが実にげんなりと吐露した。
「でも、そのおかげでクラスのみんなとの距離は縮まったんじゃないかい?」
「ちがうぜウィル、今回みたいな騒ぎはただの
こんなボール紙の月よりお手軽で安っぽい人気、あるだけ鬱陶しいってもんだぜ」
それに、とビアンカは続けた。ため息をひとつついて。
「なんであたしばっかりヒーロー扱いされるのか、そいつがなにより納得いかねえ。最後にワイバーンを殴り倒したのは確かにあたしだけど、でもその状況に持ち込めたのはウィル、あんたがいたからだ。ココはトカゲ野郎に隙を作ってくれたし、ロデオお姉さんは囮になって危険を引き受けようとしてくれた。……ワイバーン相手にゃ色々やらかしてくれたけど、委員長だってコヨーテを追っ払ってんだ」
――ヒーローだって言うなら、あの場に居た全員がヒーローだ。
他の誰かが言ったなら使い古された偽善的慣用句としか聞こえないであろうその台詞を、ビアンカはあらゆる偽善と無縁に口にしていた。
そんな相棒が、ウィリアムにはどんなスーパーヒーローよりも輝いて見えた。
自分はこのシンデレラの
「まぁなんにせよ、さっさと静かになって欲しいよ。……ああそうだ、急速に『お近づき』になろうとしてくる連中といや今日、すげえ大物が釣れたぜ」
「大物?」
「
「なんとまぁ……今度は『ヒーローとお友達』の実績を解除しようとしたのか……」
芸術的なまでの
と、そのとき。
「ビッキー! ウィル!」
ちょうど今し方名前の出た人物が、二人の名前を叫びながらこっちに走ってくる。
吸血鬼の少女は駆け寄ってきた勢いそのままに、並んで立っていたウィリアムとビアンカに左右の腕で同時に抱きついた。
「……おまたせ!」
仮初めでも
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