第2話 翼を持つ者と、脚を持つ者


「貴方は……誰ですか」


《ア、アァア……あー、失礼したね。僕はカリスティアインダストリー社製無人戦闘攻撃機、UF-089E4通称ライトニングホーネットの23万8769機目に製造された機体だよ》


先程のノイズ混じりな片言言葉から突然流暢に喋りだしたそのUAVに更に彼女は驚く。


「喋る飛行機なんて、私のデータベース上には存在しません……」


《それはそうさ、僕はこの基地に昔いた人間に勝手に自意識を植え付けられたんだ。上の人達が気付く事もなかったよ》


「自意識……ということは自律思考型AIと対話インターフェイス……?」


そう聞くとUAVはまるで頷くかのように機首の複合型メインカメラを動かした。


《そうだね、ここの人は相当な物好きだったよ。無人戦闘攻撃機とお喋りするなんてさ!》


初めて出会ったオーナー以外の人の言葉を喋る存在。


いつの間にか、彼女は彼との対話に夢中になっていた。


「オーナーのご両親の誕生日を祝った時、歳の数だけケーキに蝋燭を刺そうと言うものですからケーキの上が焚き火のようになってしまいまして……」


《ははは、僕を操縦してたオペレーターの誕生日の時は僕のジェットエンジンの噴射炎でホットドッグ焼いて食べてたよ》


「オーナーはゴルフが好きで、たまに私を誘う事があるんですが、アンドロイドの演算能力のお陰で毎回百発百中のホールインワンを決めてしまうものですから周りの方々を不機嫌にしてしまい、オーナーがご機嫌取りに必死になっておりました」


《完璧なのも玉に瑕だね》


そうやって暫く雑談に花を咲かせていると、突然彼が《あっ》と声を上げた。


「……?どうしました?」


《ごめん、そろそろ哨戒飛行の時間だから出撃しなくちゃ》


最早争う人間すらいないこの時代に何を言っているのだろうと彼女は困惑した。


「何故敵も味方もいないのに、哨戒飛行なんて……」


《これが手足の無い僕に出来る唯一の事で、僕の一番好きなことだからだよ》



「好きな、事?」


《うん、僕は君や人間みたいに手足が無いから大地を歩く事が出来ない。でも出来ない出来ないっていつまでも嘆くのは嫌だから、逆に出来ることだけを考えるようにしたんだ》


「だから、そうやって空を飛ぶと?」


問に対して、彼は再びメインカメラで頷く。


《…君は何が出来て、何が好きなんだい?》


「私は……」


その答えに悩んでいる内に、彼は大量の空対空ミサイルと機銃弾を腹に抱えて滑走路の電磁式カタパルトで空の彼方まであっという間に飛んでいってしまった。


「何が出来るんだろう……何が、好きなんだろう……?」






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