第4話
「どうしたのですか?」
「聖女様降臨……、いえ、乙女ちゃんとの出会いを思い出していました」
教室内は相変わらずうるさい。でも、隣の席の聖女様の声は聞き取れる。
現実に引き戻してくれたのは聖女様のささやき。幸せすぎて魂が抜けかける。だから油断して失言した。聖女様がむすっとしてしまった。騎士、失態!
それでも言い直せば、聖女様は頬をほんのり染めながら笑ってくれた。嬉しい! 可愛い!
「あの日からずっと、守ってくれてありがとうございます」
「当たり前です! でもほんとなら、朝も帰りも……」
これ以上は言っちゃだめだ。
聖女様の家はかなりのお金持ちなので、送迎つき。だから安心ではある。
でもやっぱり一緒に登下校したい。せめて朝は校門まで迎えに行きたいのに、教室にいてほしいって断られるし。優しさなのはわかるけれど、もう少し踏み込んだ関係になりたい。
「あっ! あの、質問です!」
「なんでしょうか?」
だけどあたしは臆病だ。前より仲良くなったはずなのに断られたら、立ち直れない。だから別の話題に切り替えた。
「ずっと気になっていたんですけど、呪文って異世界と共通なんですか?」
もしこれで別の呪文でも大丈夫とか言われたら、倒れる自信がある。それぐらい、今の呪文を一生懸命唱える聖女様が好き。
「いえ。前の世界では――――でした」
「あ、あの、もう一度お願いします」
「――――、です」
は?
なんかピーって音がする。
え。全部伏字?
ちょっとそそる。
わかりましたか? って聞こえてきそうなぐらい、期待した眼差しを聖女様が向けてくる。どうしよう。失望されたくない。
「聖ちゃん、モスキート音出せんの?」
うしろの席からもえもえが会話に参加してきた。正直助かったが失礼すぎないか? ほら、聖女様が悩まれている。
「今のは呪文なのですが……。こちらの世界には対応していない言葉なのかもしれませんね」
「なるほど」
残念!
卑猥な言葉だから自主規制かけてるのかと思った!
追加で質問しなくてよかった!
これで好感度は下がらない!
もえもえ、ありがとう。こやつにこれほど感謝する日が来ようとは。あとでお菓子を進呈しよう。
けれど今は会話を進めたい。
「世界によって呪文が違うなら、どうやってこの世界の呪文を知ったんですか?」
「呪文は、この世界が教えてくれたのです」
「「世界が?」」
いつの間にか周りからは、さざなみのような小声しかしなくなっていた。興味あるよね、魔法。
「世界と一つになると、教えてくれますよ」
言っている意味がわからない。あたしも使えるのかな?
しかし、一つになるなら聖女様とがいい。あ、これ名案じゃん。まずい。想像したら鼻血出そう。違うことを考えろ、あたし!
そういえば、聖女様も転生してきたって思い出してから魔法が使えるようになったって言ってたよね。
でも、そのせいで人格が変わりすぎたから転校してきたとも言ってた。
この話をする聖女様は泣きそうな顔をしていたから、深くは聞けないけど……。
「やり方がわからないので、いつか教えてくれますか?」
「いつでも! そろそろ夏休みですし、その、私の家でとか、どうですか?」
しんみりするのはよくない。だから気持ちを切り替えたら、無防備なハートに爆弾を放り込まれた。無事被弾!
「大丈夫ですか!?」
「……大丈夫、です」
「聖ちゃん、そのまま放置していいよ」
あたしの鼻血が聖女様の頬を染めてしまった。申し訳ない。魔法もありがとうございます。お肌がいつも通り美しくなられましたね。もえもえは黙れ。
早く返事を……!
聖女様の神聖な力が鎮まるのを待って、あたしは口を開いた。
「ぜ――」
「席につけー!」
あああーー!!!
このタイミングで登場した担任を睨みつける。あいつ、絶対に目を合わせてこない。それでも教師か。
「出欠取るぞー。相沢ー」
「はーい」
早くしろ。お前がしゃべっている間は聖女様に話しかけられない。聖女様はとても真面目だから、いつでも全力で物事と向き合うからね。
「聖、今日も元気、か?」
「はい、元気です!」
きっしょっ!!!
頬染めんな!
なに美声に切り替えてんだよ!
聖女様は可愛い!!!
わかりやすすぎる贔屓。見た目が女だけの蛮族に囲まれた哀れな男。だからこそ、嗅覚が研ぎ澄まさたのだろう。本物の清楚を見つけられるように。
だからといって生徒に邪な気持ちを抱くんじゃない!
仕置きが必要だな。
もう何度お灸を据えただろうか。このメガネしか特徴のない
あたしの返事を遮った罪を償え!
精神統一をすると、自分の気の巡りを感じる。自由に操ることも可能だ。かなり疲れるけど。
しかし今日は行き場を失った怒りを全て込める。針のように練り上げた殺気を放つ。気分はプロダーツプレイヤー。
「目がぁっ! 目がぁあああっ!!」
「あー、ついにメガネにヒビ入った。バズるなこれ」
ここぞとばかりにみんなが動画を撮っている。こういう事態に備えて、
ちなみに聖女様の動画は撮らない。
魔法は合成だと思われる。美少女すぎるから、晒したら特定されて大変なことになると力説していた。
聖女様はあわあわしている。大丈夫。眼球が痛む程度で血は出ていませんから!
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