かみよもきかず(鳳 繰納様)
第2章『使節団と魔法使い』(第2.5部)
第1話
〜ストワード 大統領の家〜
「使節団!?」
思わず叫んだのはザックだ。アントワーヌが神妙に頷く。
「使節団なのだ」
「随分思い切ったねェ」
アレストがニヤニヤ笑っている。
「ちょっと待ってくれ。使節団ってことは、大陸外から公式に人を招き入れるってことだろう?……それって良くないことなんじゃあ……」
「ザッカリーの言いたいことは分かるのだわ」
ザックの隣に座っているテリーナ。彼女は父アントワーヌから事前に話を話を聞いていたようだ。
「僕も悩んだのだ。だが、大陸外にも目を向けることは大切なのだ。僕もアレストもあと何十年も生きられない。そう思うと、今が最後のチャンスに思えてきてな」
「つまり父サンの入れ知恵ってわけか?」
アレストが笑いを堪えている。
「ギャハハ!そうだぜ!俺もアントワーヌサンも爺サンの年齢だ。シャフマが国だったときは大陸外と貿易をしていたが、統一してからは『公的』に行うことはあまりなくなったからねェ」
アレストの提案らしい。彼らしいと言えば彼らしいが。
「使節団のもてなしはあんたに頼むぜ、ザッカリー」
「……え?」
「あんたもう31だろう。客人のもてなしくらいはできるよなァ?」
「酒場で毎日働いてるから接客はそこそこ……いや、呼ぶのは父サンだろう!なんで俺が、」
「……ザッカリー」
「はい……?」
興奮してソファから立ち上がったザックをテリーナが座らせる。
「……楽しそうだと思わないかしら!?」
「あんたたち、グルだったのか!!」
「ギャハハ!そういうことだぜ!」
「ザッカリー、一人でやれというわけはないのだ。仲間と協力するのは君の得意分野だろう?」
アントワーヌの頼みは断れない。ザックは「わ、分かりました……」と小さく言った。
「お父様?」
透き通った男子の声。階段を降りて来たのは、10歳の長男、アントナだ。小学校の制服を着ている。真っ白なシャツに黒のサスペンダー、膝丈のズボン。
「僕に内緒話ですか?」
目を細めて口角を上げる。
「トナ!あんたも協力し……いてて!」
「ザッカリー。トナはまだ子どもなのだわ!大人がやるべきなのだわ」
「いえ、お母様。ぜひ僕にもやらせてください」
ペコリと頭を下げる。自分の息子ながら、礼儀正しく育ったものだと思う。
「まだ何も分からないのに『やらせてください』……。くくっ、アントナ。あんたは大物になるぜ」
アレストが孫の頭を撫でる。
「明日から夏休みですから、時間はあります」
「公的な使節団とはいえ、一応内密に頼みたいのだが……」
「ヒミツのお仕事ですか?」
「そうだぜ。子どもには任せられな、」
「アントナはヒミツを守れる子なのだわ」
「テリーナ。さっきまで反対していただろう」
不機嫌な父を見て、トナが勢い良く抱きつく。
「お父様、僕はヒマなんです。キャンプの約束忘れられていましたから」
「……!し、しまった。仕事が忙しくて……」
「別にいいんです。でも絵日記に書くことがなくなってしまいました。宿題が進みません」
ニヤニヤと笑う。
「ヒミツのお仕事、だぜ」
「もちろんハイリョはします。ね、いいですよね?」
「あんた……」
我が子ながら恐ろしい。生まれついての人心掌握術。これは誰に似たのだろう。考えるまでもなく、アレストなのだろうが。ラビーも上手い。自分にはない才能だ。
「分かった。アントナができる範囲で頼もうか」
「ありがとうございます。お父様」
〜一ヶ月後 ストワード中央駅〜
ザック、テリーナ、ヴァレリア、リュウガが改札の前で使節団を待っている。
「ふん、なんじゃ。使節団とは。よう分からんわい」
「リュウガサン、説明しただろう。大陸外の人たちが大陸に来て、知識の共有をしてくれるのさ」
「新しいことを知れるのは良いことなのだわ!」
「一概には言えないと思うけどねー。極悪人だったらどうすんのー?」
「我が一網打尽じゃ」
「ぶ、物騒なことはやめてくれよ……。あ、デヴォンはまだか?」
「今メールが来たのだわ。少し遅れるって」
ケータイを開けてメールを確認する。このケータイは昨年発売したもので、おかげで糸電話や固定電話を使わなくても良くなった。まだ電波に問題があるが、どこでも使えるのは便利だ。
「つーか、ザックの息子は?来るんじゃなかったのー?」
「初対面だからな。極悪人の可能性が1パーセントでもあるならまだ会わせられないさ」
マセているが、彼はまだ10歳の男の子。危険なことはさせられない。彼はストワード第一ホテルでカルロ、アレストと共に待機させている。
「降りて来たのだわ!」
「さて……悪い人たちじゃあないといいが」
ザックの長い前髪が海風に揺れる。
「そもそも人間か分からないしー。ししょーみたいな魔族かも?」
「あ。それは予想していなかったな。え、どうしよう。言葉通じるか?」
「身振り手振りでなんとかするのだわ」
「そ、そんなに上手くいくのか……?」
わちゃわちゃしていると、ヨンギュンの分身が現れてザックの肩をつついた。
「あ……」
前方。三人の男性と二人の女性。
「人間ではありそうだぜ?」
「何故我に言うんじゃ」
小声で話す。ヨンギュンの本体が貨物船の奥から顔を出す。
「すいません、うちの荷物は自分で……」
「いえいえ、こちらでホテルに運んでおきやすから心配ご無用ですぜい。それより、」
ヨンギュンがザックたちに視線を移す。
「ウタハ、行きましょう?歓迎されてるみたいよ」
サクラコが上機嫌で言う。ウタハは目を泳がせた。
「だ、大丈夫やろか」
「あんまり気負い過ぎるなって。使節団って言っても、やることは知識の共有……他は観光客と同じって話聞いてただろ?」
キヨモリは既に観光客気分のようだ。
「ヨンギュンさんから話を聞いた感じ、生活様式はこちらとあまり変わらないようだったからね。観光も楽しみたいよ」
モリノシンもリラックスしている。ウタハは更に慌てる。「うちだけ馴染めなかったら……」なんて考えてしまう。
「大丈夫だ、ウタハ」
「タケルさん?」
「根拠はないけど、大丈夫だから……」
不器用に言うタケルを見ていたら、あることに気づく。
「緊張してます?」
「げっ!」
図星だったようだ。反応が分かりやすい。
「うちも緊張してますけど、タケルさんほどやないかも?」
「い、いやいや……そんな、ゲーム実況の方がたくさんの人に見られてるわけだし……あっでもあれは画面越しだからな……」
「本当に大丈夫です?」
「あぁ……」
頷くが、あまり大丈夫ではない。人見知りというわけではないはずだが、立場にプレッシャーを感じているのか。
「ウタハ、タケル!降りるわよ」
サクラコの声でハッとする。ウタハもタケルも覚悟を決めた。
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