第7話

〜ニチジョウ中央駅〜


「タクミ!」

タクミを見つけたモアが勢い良くタクミにタックルする。

「モア!……うわ!!」

弾き飛ばされるタクミ。ユニが「あちゃー」と頭を抱える。

「全く。我が少し目を離したら迷子になってしまうとは……タクミもまだまだだな!」

「迷子になったのはそっちだろ……。いてて……」

「大丈夫かい?立てる?」

トナが前屈みになり、タクミに聞く。

「大丈夫大丈夫、こんなやつ放っておいていいよーん」

「何で教授が答えるんだよ……」

「とにかく!合流出来て良かったぞ!ふんふん」

「あー、俺のこと結構心配してた感じ?」

「「全く」」

「だからなんで教授が!」

久しぶりに会えた三人はいつも通り(?)の会話をしているようだ。トナはほっとする。

「さて、じゃあ……モアサンたちにとってトルーズク大陸最後の思い出作り。行こうか」

トナが開いた胸元から取り出したのは、水族館のチケットだった。


「すげえぜえ。派手な色の魚だぜえ」

クオスが水槽を覗き込む。様々な色の魚が泳いでいる。

「おー!すごいのだぞ!モア!見ろ!」

「おー!小さい魚だな」

目を輝かせるベルラとモア。

「クオス、写真は撮らなくていいのか?余のカメラなら綺麗に撮れるぞ」

「必要ないぜえ。俺ちゃんの頭の中にもう絵が出来ちまった」

「それ、また学校で描くのか?我も……」


「我も、完成品が見たい」


モアが寂しそうに言う。クオスは少し考えてから

「手紙なら送れるんじゃねえのお?実物はさすがにデカすぎて無理だけどよお、写真で送れば見せられるかもだぜえ」

「余のカメラで綺麗に撮るぞ!現像したのを、モアに送るんだぞ!」

「……!ありがとう!手紙、楽しみだぞ!」


そんな様子を眺めるドミーとトナ。

「子どもたち楽しんでるな」

「ああ。モアサンがいくつかは知らないが、ベルラやクオスと仲良くなれたようで良かったぜ」

「とおちゃあ!タイヤキが泳いでまーちゅ!」

「くくっ、ルカはタイがタイヤキに見えるのかい」

「タイヤキだよお!おじちゃあ、ちらないのお?きゃはははっ」

「本物のタイとタイヤキが繋がることがすごいだろ。ルカってたまに信じられない想像力で話すよなー」

「美味そうだ」

ジスラが低く呟く。壁にスシの画像が貼ってある。タイの他にマグロやイカなどなど展示されているコーナーだ。

「スシネタ展示コーナー……泳いでるのを見せられてもよく分からないんだぞ」

「分かるぜベルラ。こういうのは刺身として出てくるから美味く見えるんだ。直結しないよな」

「いや、そうでも」

タクミの後にニチジョウ組とモア、ユニが

「「「ないよなー……」」」

と、続けた。

「なんだろうなコレ。スシ屋や魚屋の広告で生きてるときの魚の画像が載ってることが多いからかー?」

と、ドミー。

「泳いでる魚を見ると、おスシ食べたくなるよねーん」

と、ユニ。

「まぐろちゃんおいしちょおでーちゅ!」

と、ルカ。

「あ、俺ちゃん回らないスシ屋に行ったときのこと思い出したぜえ。水槽に入ってたマグロをよお。目の前で捌いててよお。……お腹減って来たぜえ」

と、クオス。

「……あんたたちの感覚はよく分からないが、話を聞いていたら俺もスシが食べたくなってきた」

と、トナ。ドミーがすかさず提案する。

「水族館見終わったら行くか?」

わーい!!腕を挙げてユニとモアが喜んだ。スシネタ展示コーナーでスシを食べる話をする人たちを周りの客はチラチラ見ている。

「行くのは良いが、金はどうするんだい?」

「ケチだなートナ兄は。……経費は無理?」

「さすがにこの人数はキツいぜ。大統領にどう説明するんだ?」

「俺が出そう」

バリバリッ!マジックテープの音が響く。トナとドミーが顔を見合わせる。

「む。100……200……」

「紙幣ないのかよ!ジスラは出さなくていい!俺とトナ兄が払うから!」

「待ってくれ!俺は水族館のチケットを全員分買っている。……分かるね?ドミー。分かってくれるね?」

「ほんとケチだなあんた!割り勘だ割り勘!キッチリ2で割るんだよ!水族館代はノーカンだ!」

「やはり俺が出そう。ATMはどこだ」

「「あんたは出さなくていいから!!コイツが多く払うんだ!!!」」



「イルカちゃんでーしゅ!」

イルカショーを見てはしゃいでいるルカとモアの写真を撮るのはベルラだ。

「ほらルカ!白いイルカが出てきたぞ!」

モアが指差す。

「きゃははっ!しろいろ!しろいろ!」

「まるでキャンバスだぜえ!真っ赤に塗りてえぜえ!」

―バッシャーン!!!

クオスの物騒な言葉は大きな着水音にかき消された。

館内を一通り見終わり、お土産を物色する。

「モアは何が好きだった?」

ユニが聞くと、モアはペンギンのキーホルダーを見せながら

「ペンギンがかわいかったぞ」

と笑う。

「ペンギンちゃんいっぱいこうちん!」

「こ、行進なー。ルカもペンギンにするか?」

「とおちゃあがぜんぶかいまーちゅ」

「買わない買わない!同じやつ10個買ってどうするんだよ!戻してきなさい」

「や!!!!!とおちゃあのばか!」

「ルカくん、そんなに買ったらみんなの分がなくなっちゃうよーん」

ユニが優しく言うと、ルカは「そっかあ」と頷いてあっさり棚にペンギンのキーホルダーを戻した。

「わ、悪いな。助かった……」

「短い間だったけど一緒にいたからねん。ルカくんのこと知れて良かった……」

そう言って柔らかく微笑んだ。

「そらよっと」

「何だこれは」

「チョウチンアンコウのカチューシャだぜ」

「ふむ。良くできているな」

鏡を見ながら大真面目に頷くジスラ。それを笑いを堪えて見るトナ。

「お、お兄ちゃん、変な生き物みたいなんだぞ」

「キャハハッ!やべえ!やべえぜえ!芸術だぜえ!」

「ベルラ、お前も着けてみろ。兄とお揃いだ」

「いや……ぼくはちょっと……」

「くっ、くくくくっ……ぐふっ、んぐっ……」

トナはもう限界だ。

「すごく賑やかだな。いつもこんな感じなのか?」

タクミが聞くと、ドミーは「そうだなー」と苦笑した。

「うるさいときもあるけど、退屈しないよな」

「我もチョウチンアンコウになったぞ!見ろ!」

「わ!モア、なんだか似合ってるんだぞ!」

「キャハハッ!それ褒めてんのかよお?」

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