第6話

〜ソクジュ駅〜


「観光客の皆さんはこちらですー!」

スーツを着たレウォが皆を誘導する。モアとベルラ、ジスラが並ぶ。

「すごいぞ!でっかい城!」

「ソクジュの王宮って城みたいだよな……。あっ、写真写真!あんまり来れないから撮っておかないとな!」

ベルラがカメラを構える。しかし、周りにたくさんの大人がいるせいで……身長的に上手く撮れない。

「俺が撮ってやろう」

「お兄ちゃん!い、いいのか?」

「兄弟で旅行の機会などなかなかないからな。兄として弟に応えるのは当然だ。それに、俺は背が高い」

ジスラがカメラを構えたそのときだった。

「わっ!」

「っ!」

一瞬で人混みに流されてしまうベルラ。モアが手首を掴むが、人の流れに逆らうことは出来なかった。2人はジスラと反対方向に。

「ベルラ!モア!」

「お、お兄ちゃん!」

あっという間に見えなくなってしまった。ジスラはアイマスクを外そうと指をかけたが、すぐにやめてしまう。こんなに人が多いのだ。自分の異様な瞳を晒すわけにはいかない。

(俺はまだ怖いのか。瞳を見られるのが)

(俺は……)



「あっ、そこ!列からズレないで!」

「キャハハッ!」

「って、君は……クオストヤくんじゃないか」

「そーそー、俺ちゃん参上だぜえ」

派手なネオン色のオーバーオールを着た男子高校生、クオストヤだ。

「列にちゃんと並んでくれないと困るよ。ほらほら、こっち」

「ベルラ探してんだけどよお、どこ行ったか分かるかよお」

前屈みになり、レウォの顔を見上げる。

「え……いや。まさか迷子!?」

「さっきよお、俺ちゃんにベルラから着信あってよお。ソクジュに着いたけどお兄ちゃんとはぐれてやべえって」

「そ、それは大変だ!ちょっと待ってて、すぐに探す!」

レウォは近くにいた部下にバインダーや笛を渡し、建物の影に移動する。

「おおっ!でけえカラスだぜえ」

180センチのカラスだ。クオストヤは微塵も遠慮せず、背中に飛び乗る。

「行くぜえ!俺ちゃんとでけえカラスの冒険物語だぜえ!」

「君!目的を忘れるのが早いよ!」



「も、モア。大丈夫か?」

ベルラは汗だくでモアを心配する。なんとか路地裏に避難できた。

「大丈夫だぞ。我は強い」

「お兄ちゃんの真似か?……大丈夫なら良かったぞ、はあっ……」

「……はぐれてしまったな」

「お兄ちゃんとクオスにチャットを送っておいたから、大丈夫だぞ……すぐに合流出来るはず……。うう……」

「ベルちゃんの方が大丈夫じゃなさそうだぞ」

「い、いや。ぼく……余は大丈夫……。モアは女の子だからな、余の心配はしなくていいんだぞ……」

と言うが、ベルラはすっかり息が上がっている。

「少しクラクラする程度だぞ……」

「水が足りないのだな」

「あ、水……。リュックに入っているぞ」

モアがベルラのリュックから水の入ったペットボトルを取り出し、蓋を開ける。

「口を開くんだぞ、ほら」

「ま、待って……モア……んくっ!?」

無理やり飲まされる。哺乳瓶でミルクを与えられる赤子のようだ。ベルラは赤面するが、モアは無表情だ。

「うう……っ、っぷはあっ!も、もう……」

「元気になったか?」

「……なったぞ」

体が軽くなった気がする。ベルラは深呼吸をする。

「まだ辛そうだぞ」

「も、もういい!ぼくは、もう……!んんー!」

「……わあお。随分特殊な楽しみ方だぜえ」

キャハハッ!聞き慣れた従兄弟の笑い声。水が零れることも考えず、口を離す。

「誤解だぞ!!!」

「えー?」

「クオストヤ!余はハレンチな男子では無いぞ!オマエと違って!」

「俺ちゃんまだ」

「あー!言うな!そういうとこだぞ!」

「キャハッ」

「元気になったな!ベルちゃん!我のおかげだな!ふんふん!」

「キャハハッ!キャハハッ!」

「げふんげふん!クオストヤ!笑うな!」

「……居たか」

低い声に一同が振り返る。ジスラも来た。

「すまない。遅くなった」

「お兄ちゃん!っ!昼なのにアイマスク……」

ベルラが兄に駆け寄る。ジスラはアイマスクを額に上げていた。

「弟とその友のためだ。目を使わないわけにはいかないだろう」

「……!」

「俺は強いからな。問題ない」

「……うん!ありがとうだぞ」



「クオストヤはニチジョウから合流すると聞いていたぞ」

ベルラは面白くなさそうだ。

「そのつもりだったんだけどよお、ソクジュって綺麗な場所だからよお。絵のインスピレーション?に良い気がしてよお。ドミーとは別行動にしたぜえ」

「賑やかで嬉しいぞ!なんだかお得な気分だな!」

「俺ちゃんもだぜえ。モアとは今日でお別れだしなあ。最後の思い出作りだぜえ」

「……今日でお別れ、か」

ベルラがしんみりと言う。

「あ、ま、まだ終わってないぞ!うん!」

モアが「そうだぞ!」と胸を張る。

「たくさん思い出作るんだぞ!」

楽しそうに笑う顔を見て、男子二人が頷いた。

「あ、そうだ。レウォにちゃんとお礼してなかったぜえ。空から見つけられたのレウォのおかげだったのに」

「空?クオスは空が飛べるのか?」

「浮遊魔法は使えるぜえ。けど、長時間は難しいからよお。レウォっていうでけえカラスの背中に乗ったんだぜえ。見つけた後は仕事があるからってすぐ戻っちまったけどよお」

「なんだそれは!楽しそうだぞ!」

「キャハハッ!モアなら食いつくと思ってたぜえ」




〜ニチジョウ中央〜



「~♪」


ステージを踏むステップは力強く、しかし声は爽やか。濃い顔と濃い衣装から発せられる歌声はあまりにも透き通っている。

それが、大陸のトップスター……シンガー ドミニオの魅力。

「この歌詞、ユニサンのことだね」

「なーんか気恥しいって思ったらそういうこと?」

『遠いところから来た』『謎の存在』『意外と親しみやすい』……大陸外から来たユニのことを歌詞にしたのだろう。

「新曲が出来たからゲリラライブするって言っていたが、なるほど。こういうテイストだったのかい」

「ゲリラライブでこんなに人が集まるもん?」

「ドミーはすごい人なのさ。本人が地味な性格をしているから忘れやすいがね」

「ふーん」

ユニが見たドミーはルカにゲームで翻弄されたり調味料が切れたから買いに行くとスーパーに行ったりするごく普通のアラサーの父親だったが。

「ってことは、これってすごい経験じゃーん?」

「そうだぜ。くくくっ、誇りに思って欲しいね。……あんたも」

トナが視線を移した先には、タクミが。

「楽しんでいるかい?ニチジョウを」

「あぁ」

短い返事だけ。

「もー!せっかくの機会じゃーん。もっと楽しめよ」

ユニはすっかり楽しんでいるようだ。

「そんなこと言われてもなあ……。ニホンにそっくりだし」

「それはそう」

「え、あんたたちの故郷の話かい?ニチジョウにそっくりなの?」

「「うん」」

「ほう。ぜひ詳しく聞きたいね」

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