第2話

〜留学初日 放課後〜


「我も部活に行きたいぞ!」

部活の話をクラスメイトから聞いたモアは張り切っていた。

「しかし、モアサンは一週間で帰るんだぜ。一週間だけになっちまうが……」

大統領が一週間後の貨物船にモアとユニを乗せることを約束している。モアの学校生活はすぐに幕を閉じるのだ。

「なら一週間だけ部活に行くぞ!」

「個人でやる部活なら良いかもしれないね」

トナが言った直後、聞きなれた声が廊下から。

「トナ兄。また学校来たのかよお」

「おっ、良いところに。クオス」

「なんだなんだあ?俺ちゃんになんか用でもあったのかよお」

3年のクオストヤ・エル・レアンドロだ。彼もアレストの孫である。アレストの三男、ラビーの次男。

「留学生のモアサンだ。一週間しかいないんだが、美術部はどうかと思ってね」

「モアサンだぞ!」

「ふうん?俺ちゃんは構わねえけどよお、一応顧問に話した方がいいんじゃねえ?……ま、とりあえず見学だよなあ。今から部活始まるからよお、美術室来いよお」

クオスはベタベタしたいつもの口調で言う。モアは嬉しそうに腕をバタバタさせた。



「こんなにたくさん絵の具があるのか!」

モアの目の前には大きなキャンバスとたくさんの絵の具が。

「とりあえずその中から三色使って描いてみろよお」

モアは頷く。どの色を使うか考える。

「悩むならよお、何描くか先に決めると良いぜえ」

「あっ!そうか!何を描こうか……。……よし!」

モアは赤と青と黄の絵の具を手に取る。

「ここに侵略者を描くぞ!」

モアはすごい速さで筆を進める。青と黄を背景にし、手前の生物に赤を使うらしい。

「……タコさんウィンナーかよお?」

青いゼリーの上に浮かんでいるタコさんウィンナーだ。黄色はアクセントに使っている。ゼリーが光っている演出だろうか。

「青いゼリーの上にタコさんウィンナーか。失敗した料理の絵かい?」

トナが言うと、モアは首を全力で横に振る。

「侵略者の絵だぞ!」

「……侵略者かよお」

「……あー、侵略者だったのかい」

棒読みの二人。モアは満足そうだ。



「モアサンの泊まるところだが、カルロオジサンの家に決まった」

日が暮れて来た。筆を洗いながら言う。

「別に俺んとこでもいいぜえ。ルカが喜ぶだろうしよお」

「ドミーにも電話してみたんだが、連絡がつかなくてね。今日は忙しい日なのかもしれない」

「あー、ナイトプールで撮影だから深夜までかかるって言ってたような気がするぜえ。曖昧だけどよお。キャハハッ」

「俺の家はシャフマだからここから遠いし、散らかっているだろうからストワードの別荘に案内するのは申し訳ないし……。と、なるとカルロオジサンの家が良いかと思ってね。ジスラもしばらくアパートから帰って家にいてくれるらしいし」

カルロの家なら攻撃魔法が使えるカルロ、ジスラがいるのも心強い。

「我はふかふか布団を所望する!!」

「くくくっ、そういうことにはうるさいカルロオジサンだから安心していいぜ。あの人、ホテルマンだからね」




〜カルロの家〜


「おかえりなさい」

玄関で迎えてくれたのは、黒と金が混ざった色の髪を後ろでまとめている女性。カルロの妻、マリナである。

「あなたがモアさん?」

「我がモアサンであるぞ!」

「セーラー服、良く似合っているわね」

「女子高生だからな!」

モアが胸を張る。

「マリナサン、すまないがしばらくモアサンを頼む」

「大統領からの依頼ですものね。アントナも断れないでしょう。私は大歓迎よ。ずっと女の子を育てたかったの」

「女の子を育てたことはないのか?」

見るからに『お母さん』の雰囲気なのに。モアが首を傾げる。

「ええ。私の子は二人とも男の子だから」

「男の子……?」

「トナ兄、外に異常は無い」

「アリガトウ。ジスラ」

「母さん、しばらく飯を頼む」

「はいはい。ベルちゃんと同じもので良いわよね?」

「もちろんだ」

「男の子って……」

モアがジスラとマリナの顔を交互に見る。

「ふふふふっ、そうよ。ジスラは私の子」

「そうなのか!」

「もう1人いるわよ。ほら、帰ってきた。ベルちゃん」

「母さん!ただいまだぞ!余の帰還だ!」

ワープ魔法で玄関に飛んできたのはベルラだ。玄関が人で溢れる。

「うわ!なんだ!?なんでこんなに人が!?」

「ベルラ、しばらくモアサンを頼むぜ」

「え!?アンドウ・モア!?」

「おー!席が隣の人!」

「ふふふっ、なんだかきょうだいが増えたみたいね」

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