砂時計の王子 クロスオーバー集

まこちー

One-Sided Game (秋乃晃様)

第1章『魔界の扉と侵略者』(第3部6.5章)

第1話

〜ストワード中央高校〜


「我はリュウガクセイ?のアンドウ・モアだぞ!」


「交換留学生ってヤツらしい。皆、仲良くしてやってくれよ」


くるりと一回転して謎のポーズを決めるのはセーラー服を着た女子高生。アンドウ・モアちゃんである。

紹介したのはアントナ・エル・レアンドロ。かの有名な最後の『砂時計の王子』の孫であり、今は臨時の高校教師だ。

「よろしく頼むぞ!」

モアが頭を下げると、2年A組の皆は拍手をして歓迎を示した。


(魔界……)


(魔界は本当にあったんだぞ)


2年A組の生徒、ベルトラ・エル・レアンドロは大人しく席に座っている。

ベルラもアントナと同じ、最後の『砂時計の王子』の孫である。幼い頃に絵本で見た魔界という場所を探して、友達のロレシオと共に研究をしている。

「ベルラの隣に座ってくれ。俺の従兄弟でね。あまり似ていないが」

「了解だぞ!」


「よろしく頼む。ベルラとやら!」


「よ、よろしく。アンドウ・モア……」




時は少し遡り、前日の夜……。


〜校長室〜


「これがその モアサン です」

「我こそがモアサンだぞ!」

「……か、貨物船の中に間違えて女子高生が……?にわかには信じがたい話だが、そう言われたら信じるしか……」

校長が戸惑っている。当然だ。政府直属の都合良し屋であるトナにも信じられない。

「我はタクミと共に船に乗って旅行に行くつもりだったのだぞ」

「船を間違えてはぐれたらしくてね」

「そうだぞ!」

「貨物船と旅客船では全く形が違うし、間違えるはずがないとは俺も思います。と、いうかまず大陸行きの旅客船は存在しないからね。政府は大陸外の人間は入れたがらないから人間は入り込まない仕組みができている。限りなく不可能に近い」

「私も同意見だ……が」

非常に稀だが例はある。例えば10年前のニュース。大々的に報じられたそれは、一人の男性が他大陸から貨物船に忍び込んで上陸してしまったというものだ。

「政府にとって、他大陸から知性体が来るのはマズい事態だ」

トナが低く言う。

他大陸……それは大陸に住んでいるトナたちにとって、完全に未知の世界であり、タブー視されているものである。政府が他大陸と関わろうとしないのには理由がある。単純にものすごく遠いから、と。

「魔族の存在が秘匿すべきものだからな」

ジスラが部屋に入ってきた。保安官の服装をしている。

「そうだ。モアサン、あんたは人間ではないと言っていたよな?」

「そうだぞ!」

「なら理解はあるかもしれない。人間じゃない知性体がいる大陸から来たなら、魔族を見ても……」

トナはジスラを見上げる。しかし、ジスラはアイマスクを外さなかった。

「モアさんは大陸外から来た人間以外の知性体だというのか?」

校長が聞くと、モアは元気良く右手を挙げた。人差し指で上を示している。

「そうだぞ!上から来た!」

「上?……ええと、北ということかな?」

地図の上は北と決まっている。校長が苦笑いする。トナはくすくす笑う。

「ふふっ、北の大陸かい。本当にあるのかね。俺にはよく分からないが」

「星だぞ!星っ……もごもご」

大きな手のひらで口を塞がれるモア。

「で、しばらくこの高校で匿って欲しい。人間でも魔族でもないらしいですからねい。念の為、俺は学校の内部から、ジスラは外部を見守っておく。何者かが来たときには俺たちが対応しましょう」

「こちらは吸血鬼事件の借りがあるから断る理由は無いが、一番大切なのは生徒、モアさんの気持ちではないか?」

「モアサンは学校が楽しみだぞ!」

校長が頬を緩める。

「それは良かった。何よりだ。モアさんも年齢の近い生徒たちと一緒にいた方が良い刺激になるだろう。……では、」

「はい。明日からベルラの組の臨時担任をしますぜい。まだ担任が決まらないらしいですからねい」

「非常勤の先生たちで対応している状態だ。まだまだ学校制度が落ち着かなくてな……」

「くくっ、こういうときに忍び込みやすいから助かるぜ。なあ、ジスラ」

「おおー!面白い形の舌だぞ!」

「……」

ジスラは物理的に返事が出来なかった。




「待たせちまって悪いね」

校長室を出ると、待っていたのはニヘイ・ユニ。モアと同じく、貨物船に迷い込んだらしい女性だ。

「はあ……。まさかこんなことになるとは思わなくなーい?大事になっちゃったじゃーん……」

自分で説明したいと言っていたから時間をズラして教頭と単独で話をさせたが、何か悪いことがあったのか。

「いろいろ書類書かされるし、人間かマゾク?か?聞かれるし。それ、大陸着いて政府に捕まったときも散々やったっての」

「それはすまない。大陸外の知性体が来ることは本当に稀でね。本当だったら大陸全土でビッグなネットニュースになっているレベルの事件なのさ」

「私もアンゴルモア……アンドウモアも、ただの人間でいいじゃーん。それにしか見えなくなーい?」

「俺は魔族かもしれないぜ?」

「え」

「この大陸では、人間と魔族の区別なんて『普通』に生活していたらほとんどあってないようなものさ。人間は相手が魔族か人間かなんていちいち考えない。それくらいにありふれた、分かりにくいもので、」

「それ、かなり興味あるかも。なんか好奇心そそられる話じゃなーい?」

「我も気になるぞ!」

トナはジスラに目線で助け舟を出す。父が人魚に教わった3000年前の歴史(国家機密)を説明するのは気が引ける、という顔だ。

「魔族と人間の違いか?」

女子二人が頷く。

「それは分からん」

「「えー!?」」

「だが、一つ確かなことはある」

「「おー!!!」」


「俺は強い」


辺りがシン……とする。


「おー!我も強いぞ!」

「そうか。だが、俺の方が強い」

「我の方が強いぞ!」

「いや、俺の方が」

「我だぞー!」


「……放っておくかね」

「それしかないでしょ」

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