第16話 ダンジョンが……作りたいです……



「はぁ……」


 冒険者登録を終えた俺は、一人ほそぼそと薬草採取を行っていた。

 冒険者になったはいいが、ダンジョンに入るには冒険者ランクを上げなければなならない。そして冒険者ランクを上げるには、とりあえずクエストをこなすしかない。


 俺はさっさとダンジョンに……というか、ダンジョンに潜るクレナイに着いていき、クレナイの弱点を探りたいのに。

 なぜこんなことをしているのだろうか。


「ちまちま薬草集めるためにこの世界に降りてきたわけじゃないっての」


 ブツブツと一人文句をたれている俺は、周囲から見ればさぞ変な人に見えるだろう。

 でもいいんだ、周りには誰もいないし。それに一人でしゃべることには慣れている。


 ラビはたまに反応してくれないときもあったし、一人でしゃべってるみたいになってたことは一度や二度じゃない。べ、別に寂しくなんかないんだからね!


「っと、こんなもんかな……」


 とりあえず目的の薬草を、目的の数だけ採取完了、っと。本当なら、もっとどーんとやって一気にランクを上げたいが。

 低ランク冒険者だと、受けられるクエストは限られるし、それも複数受けてようやくランクを上げられるようなものだ。


 仕方ない、か。俺は転生者とはいえ、その力はすべてダンジョン創作に注ぎ込んでいる。

 そしてダンジョンを作ることのできないこの世界では、転生の恩恵なんてないのだから。


 俺が異世界でしたいのは、こんなことじゃない。さっさとランク上げて、クレナイに着いていけるくらいのランクになって、ダンジョンに潜って……


「……あれ? クレナイの弱点を探るだけなら、別にダンジョンに着いていく必要なくね?」


 クレナイの弱点を探るなら、ダンジョンに一緒に潜るのではなく、日常生活をストー……探ればいいのではないか。

 今になって、気づいてしまった事実。あぁいやでも、ダンジョンの中で近くにいてこそわかることもあるかもしれないしな……


 うーむ、どうしたら……


「わ、あぁあ!」


「ん?」


 考え事をしつつも、薬草を採り終えたのでギルドに帰るか……と思い至ったところで、俺以外の声があった。

 それは女の声。反射的に声の方向に顔を向ける。


 そこには、カゴいっぱいに木の実を入れていたが……その木の実がこぼれ、ゴロゴロと形の良い赤い実が落ちているところだった。


「あぁー、あぁー」


「……」


 ……クエストを終えたら、ギルドに帰りクエスト終了の報告をする。報告のために必要なものを証明することで、クエストは完了となる。

 薬草採取なら指定の数の薬草を、モンスター退治ならば対象のモンスターの体の一部を……といった具合に。


 すでに指定の数の薬草を採取した俺は、あとはギルドに帰り報告をするだけ。さっさと終わらせて、さっさと冒険者ランクを上げたい。

 時間が惜しい。他のことに構っている暇などないのだが……


「あぁーん、待ってぇー」


「……はぁ」


 コロコロ転がる木の実を拾い、拾うために屈んだことでまた別の木の実が落ちてしまう。負の連鎖に陥ってしまった、桃色の髪の少女。

 それを見て見ぬふりは、どうしてかできなかった。


「……はい」


「え! あ……ありがとうございます!」


 俺は近くに転がってきた木の実を拾い、女の子に近づき、手を差し出す。目の前に木の実が出てきたことに女の子は驚いていたが、俺の顔を確認するや、にっこりと微笑む。

 木の実を手渡しし、そのまま落ちている木の実拾いへと移る。


 薬草採取の次は、と木の実拾いかよ。なんつってな。

 しばらくの間、木の実拾いに専念することに。事あるごとに「ありがとうございます、ありがとうございます」と言われるのはちょっとうるさかったが。


 たくさんあった木の実も、二人で拾えばすぐに作業は終わる。


「これで最後、っと」


「あ、ありがとうございます!」


「いいって何度も」


 最後の木の実を、女の子の持っているカゴに入れる。

 様々な種類の木の実があるが、これはいったいなんだろう……まあ、関係ないか。


「いえ、助けていただいたからにはお礼をしなければ。あ、おひとつどうですか?」


「お、食べていいの?」


「あ……あ、はい。クエストで集めたものなんで、本当はだめなんですけど……でも、お礼で……」


 差し出してくれた木の実、それはクエストの内容で集めたものらしい。じゃあ食べちゃだめじゃないか。

 それと、意図せずに木の実集めの理由を知ってしまった。彼女は冒険者なのか。それも、木の実集めをしているということは俺と同じく低ランクの。


 彼女は、目を強く閉じて「むむむ……」と唸っている。お礼をしなければいけない、しかしお礼するには木の実しか手元にはない。


「いや、別にいらないよ。お礼が欲しくて手伝ったわけじゃないし……

 それに、キミみたいな子供からもらうわけにも……」


「むむ、子供じゃないです!

 もう十六です、成人です!」


 成人です、と薄い胸を張る少女。この世界では、十六歳から成人と言われる。

 なのでカテゴリー的には大人なのだが、背も高くはないし、なんか見た感じが子供っぽいので、はいそうですかとはうなずけない。


 とはいえ、このままじゃせっかくクエストで集めた木の実をお礼として差し出されてしまう。それはよろしくない。

 お礼はいらないと突っぱねても、聞きそうにないし。


「じゃあお礼はまた、別のものでいいからさ。

 とりあえず、キミもクエストクリアしたんだろ? なら、一緒にギルドに戻ろう」


「お兄さんも冒険者なのですか。わかりました、一緒に行ってあげてもいいですよ!」


 ……なんか、個性的な子と出会ってしまったなぁ。

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