第15話 ダンジョンに潜りたいだけなのに



「これで俺も冒険者か!」


 冒険者ギルドに足を踏み入れ、受付のお姉さんに冒険者登録をしたい旨を伝えたところ、出された紙に名前を書き、冒険者カードを発行してもらった。

 冒険者になること自体には、複雑な手続きはいらないみたいだ。必要なものは名前くらい。


 発行された冒険者カードには、自分の名前が刻まれている。ふむ、銀色のカードか……カードとは言うが、材質は神ではなくプラスチックに近いな。


「よかったですね」


「あぁ! これでクレナイと一緒にダンジョンに潜れる!」


「……私と?」


 つい冒険者になったことへの喜びから、うっかりと言葉を漏らしてしまった。

 そういえば、まだクレナイと一緒にダンジョンに入りたい、と言っていなかった。ただクレナイに、冒険者としていろいろ教わっている、という形なのだ。


 しかし、吐いた唾は飲み込めない。ここは、話の流れで言ってしまおうか。

 俺と、同じダンジョンに入ってくれと。そこで戦いを見学したいとか言って同行して、弱点を見つけてやる!


「実は、俺はクレナイと……」


「あ、レイさんはEランクからスタートの冒険者ですので、ダンジョンには入れませんよ」


 横から、受付のお姉さんの声。

 ……なん、だと?


「なんだと?」


「冒険者にはランクがあり、ランクごとに受けられるクエストも違う。高ランク冒険者は低ランク冒険者の依頼も受けられるが、逆は不可能。

 確か、ダンジョンに挑めるのは……」


「Cランクから、ですね」


 ……ダンジョンに、入れない。それはなんの、罰ゲームだというのだろうか。

 はるばるこんなところにまで来て、行き倒れて死にそうになって、そこで運良くクレナイに出会えたかと思えば……


 ダンジョンに入れない、だと? ふざけているのか?


「おい、おいおいちょっと待って。違う、話が違う」


「そう言われましても……新人冒険者さんがダンジョンに挑んでも、無駄に命を落とすだけです。

 どうしてもダンジョンに入りたいのでしたら、まずはクエストをこなし、ランクを上げていただかないと」


 そんなちまちまやっていられるか! というか!俺は高ランクの冒険者になることが目的じゃあない!

 冒険者になったことでクレナイと一緒にいても不自然じゃない状況を作り、クレナイの弱点を見つける。


 なのに、楽しく冒険者なんてやっていられるか! いやそりゃ、ちょっとは心惹かれるものがあるけどさ!?


「冒険者は、EランクからスタートしDランク、Cランク、Bランク、Aランクと上がっていきます。そして、それら一番上のランクが、Sランクです」


 冒険者のランクが云々……と受付のお姉さんが親切に説明してくれるが、俺にとってはどうでもいい。

 Cランクでなければダンジョンに入れないということは、後二つもランクを上げろということだ。


 そんなことをしているくらいなら、ダンジョンでも作ってたほうがマシだ!

 そもそも、ダンジョンが危険だから低ランク冒険者だとダンジョンに入れない。だが俺の作ったダンジョンは、人が死ぬことはない。


「いやほら、聞いた話だと、死なないダンジョンってのもあるらしいじゃないか!」


「あぁ……確かにそうですね。ですが、ダンジョンであることに変わりはありませんので」


 俺のダンジョンだけを選んで挑めば、危険はないのではないか。そう思ったが、頑なにだめだということらしい。

 死ななくても、危険に変わりはない……か。確かに、いろんなモンスターとかトラップ配置してるけどさぁ。


「……そういえば、クレナイのランクはいくつなんだ?」


 よく見れば冒険者カードに自分のランクが書かれていることを確認しつつ、気になったことを聞く。

 クレナイの冒険者ランクか……あんな鮮やかな手並み、Aランクは間違いない。まさか、一番上のSランク?


 クレナイは、首からかけていた銀色のカードを見せてくれた。そこには、クレナイの名前と……


「……B、ランク……?」


 思いもよらないランクが、書かれていた。

 Sではなく、Aですらなく……B、だと? 俺の作ったダンジョンを次々攻略していくこの女が、その程度?


 冒険者の中には、クレナイよりももっとすごい人がいる、ということか。マジかよ。

 いや、それもそうだが……


「ダンジョンに潜りたいなら、その分ランクを上げなければな」


 クレナイの無慈悲な一言。いやいや、別にいらないんだよ! 俺はお前の弱点が探れればそれでいいの!

 それを、なんで冒険者活動に熱を入れなきゃならないんだ!?


「Eランク冒険者さんは、このあたりのクエストからスタートすることになりますね」


 と、悶えている俺に受付のお姉さんが、神を渡してくる。それは、クエストの書かれた紙だ。それが、複数枚。

 そこに書かれていたのは……薬草採取、裏道のゴミ掃除、木の実集め……わぁ、見たことのあるものばかりだ。これぞ冒険者の……


 ってそうじゃねぇよ!


「手っ取り早くダンジョンに入る方法はないっすかね」


「申し訳ありません、ランクを上げてもらいませんと」


「いや、そこをなんとか!」


「申し訳ありません、ランクを上げてもらいませんと」


 にゃろう、取り付く島もない……これが冒険者のルールってやつか。

 ルールがある以上、誰であってもそれを破ることはできない。


 俺はただ、俺の作ったダンジョンでクレナイをぎゃふんと言わせたいだけなのに。

 どうして、自分の作ったダンジョンに入るのに、こんなに苦労しなくちゃいけないんだ!?

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