第14話 ダンジョン博士は冒険者に
「……いや、言っている意味が、よくわからないかなぁ」
あなたは何者だと、わりと直球な言葉を投げかけられてしまった。
まさか、俺がこの世界の人間ではないと、バレたのか……!?
「そんな大金、そんな無造作に持ち歩いて……もしかして、すごいお金持ち?」
「……ん?」
「いえ、詮索はしません。けど……さすがに、それは不用心です」
……おや、どうやら俺の正体が、バレたわけではないようだな。
なるほど……これほどの大金を無造作に持ち歩くあなたは、何者かという意味だったか。一安心だ。
だが、こういう行為をして目立ってしまうのはよろしくない。自重しなければ。
「ご、ご忠告どうも」
「どこかの貴族……にしては身なりは汚いし、凄腕の冒険者? にしては、見覚えがないし……」
詮索しないと言いながら、俺が何者なのかをばっちり推理しているクレナイ。貴族なのか、それとも荒稼ぎしている冒険者なのか。
まあ、貴族があんなところで行き倒れているわけもなし。冒険者同士なら、特徴的な相手なら覚えているものだ。
だが俺は、貴族でもなければ冒険者でもない。
よくよく考えれば、俺は別の世界で死んで転生して、その後いろいろあってこの世界に降りてきた……なんて言っても、誰も信じないだろう。
「……盗んだお金じゃないでしょうね」
「違うわ!」
あらぬ誤解をかけられそうになりながらも、俺は会計を済ませ、店を後にする。
いやあ、実にうまい飯屋だった。あれならば、また行ってみたいという気持ちにさせられる。
「では、私はこれで」
店から出たところで、クレナイが言う。
「えっ」
「倒れているのを見てしまった以上、最低限元気になってもらうまでは見届けるつもりでしたから。これ以上は」
付き添う必要もない……と、そういうことか!
しまった、それもそうだよな……あのときクレナイと出会えたことが奇跡だったが、その後無条件に行動を共にできるわけじゃあないのだ。
とはいえ、ここでクレナイと別れてしまえば、また会えるかはわからない。せっかく会えたこのチャンスを、逃したくはない!
「あ、あの!」
じゃ、と背を向け歩き始めていたクレナイの背中に、気づけば俺は声をかけていた。
このまま別れてしまってはいけない。そう思ったがゆえの咄嗟に出た言葉だったが、やばいなにも考えてない。
クレナイは立ち止まり、振り返る。
「まだなにか?」
「あ、その、えっと……」
俺は、必死に考える。まさか、ダンジョン創作以外のことでここまで頭を働かせる事態が起こるなんて、思いもしなかった。
クレナイを引き止める理由。それも、クレナイが興味を示し、一緒に行動すると判断しても不思議ではない理由……!
それは……
「お、俺、冒険者になりたいんだけど……いろいろ、教えてくれないかな」
それは、冒険者になりたいからいろいろと教えてくれ、というものだった。
冒険者であるクレナイ、それに初対面の俺を世話してくれたお人好しが、これを無視することはできないと踏んだ。
案の定、クレナイは形のいい眉を寄せ、悩んでいるようだった。
「冒険者に、か……なるほど。
しかし、それは私でなくても、冒険者ギルドに行けば……」
「いーや! クレナイに教えてほしいんだ!」
このままでは、冒険者ギルドとやらに案内されて、はいおしまいとなってしまいかねない。だから、それでは足りないと訴える。
……そもそもの話、だ。俺はクレナイを、ダンジョンでぎゃふんと言わせるためにここまで来た。そして、クレナイをダンジョンで失敗させるには、俺が近くでクレナイの弱点を見つけなければいけない。
ダンジョンに入るためには、冒険者でなければならない。どのみち、俺も冒険者にならなければならないのだ。
「うーん……まあ、そこまで言うなら……けど、どうして私にそこまで?」
グイグイ行き過ぎて、若干不審がられているか?
こうなったら、もう少し自分の心の内を明かすか。
「クレナイは、
「……
どうやらクレナイは、
かっこいいじゃないか、
……と、それはさておき。
「……はぁ、これもなにかの縁か。けど、私は基本ソロなので、教えられることはあまりないと思いますよ」
「いやいや、充分だよ!」
意外にもあっさりと、クレナイと行動を共にできることになったな。これは上々。
とにもかくにも、冒険者登録をしなければならないので、冒険者ギルドへと向かう。
ダンジョンや、ダンジョン内部のことならば、俺にわからないことなどない。だが、ダンジョンの外の出来事は、さっぱりだ。
冒険者ギルドとやらがどこにあるのかさえも、わからないのだから。
クレナイの案内の下、一つの大きな施設に辿り着く。
「ここが冒険者ギルドです。ここで冒険者としての登録をして、それぞれ依頼をこなして、冒険者のランクを上げていくことになります」
「ほほぅ、なるほど」
ギルドの中に入る前に、クレナイから軽い説明。
なるほど、この辺りは、俺の持っている知識と変わらないようだ。ありがとう、生前のファンタジー小説たち!
ま、ランクなんかどうでもいい。クレナイと行動を共にして、弱点さえ探ることができればそれで。
……そういえば、クレナイの冒険者としてのランクは、いくつなのだろう。
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