第10話 ダンジョン世界の外側へ!
「ところで主様」
クレナイのいるところへ、いざ行かん! をしていたところへ、ラビから声がかけられた。なんか気合いを削がれた気分、
とはいえ、無視するわけにもいかない。
「なにさ」
「主様に注意事項をお伝えしておこうと思いまして」
淡々と、ラビは話す。注意事項があると……
なんの注意事項だ?
俺が首を傾げていても関係なしに、ラビは口を開いた。
「主様が外の世界に出た際の、注意事項っす」
「あー、なるほど。……さっき、俺が外に出れるの知らないって言ってなかった?」
外での注意事項。それだけ聞くと、なんか遠足にでも行くみたいだ。
ところで、ラビは俺が外に出れることを知らなかったはずだ。なのに、注意事項とはどういうことだろう。
「おいらは主様に作られたんですよ? ならば意識を同調させれば、主様の全ては丸裸っす」
「やだ、なにそれ怖い」
「別に常に同調してるわけじゃないっすよ。主様のプライベート全部チェックしてやろうなんて思ってないっすから。
……で、意識を同調したら、主様が女神様から言い渡されたこともわかるってことっす。どうせ主様の脳みそじゃ忘れてること多そうですし」
「やかましい」
……つまりは、ラビは俺に同調することで、俺の記憶を覗き見ることができる。それは、俺が転生した際に出会った女神とのやり取りも、見れるってことだ。
俺は外に出れることを"忘れていた"。忘れていたってことは知ってたってことで、知ってたってことは教えられたってことだ。
誰に? 女神にだ。
あの女神のことだから、俺が外に出た際、なにを気を付ければいいとかちゃんと言ってくれている可能性は高い。
俺はその注意事項を忘れているから、ラビが俺と同調して記憶を覗き、女神の言葉を教えてくれるってことだ。
ラビは目を閉じ、集中する。なにもないこの空間で、モニターの音を切れば喋らない限り無音となる。
いつぶりだろうな、こんなの。音がないってのは、こんなにも落ち着かないものなのか。
「……なるほど、わかったっす」
「お、さすがはラビ!」
「へへ、もっと褒めていいっすよ。これで主様は丸裸っす」
「言い方」
腰に手を当て胸を張るラビの姿が、抱きしめてやりたくなるくらいにかわいい。だけどそんなことをしては、この場を離れる決心が鈍りそうだ。
抱きしめもふりたい気持ちを必死に抑え、俺は話を聞く体勢に入る。
「で、注意事項ってのは?」
「そうっすね、まず……この空間にいる間主様は、怪我もしないし腹も減らない。それは身を持ってご承知っすね?」
「あぁ、もちろんだ」
「この空間にいる主様は、生前の"人間"とは少し違う存在っす。
けど、外に出たら怪我もするし腹も減る……つまり、その体は完全に"人間"のものとなるっす」
高い椅子を出現させ、その上に座るラビ。足を組もうとしているけど、短い足では足を組めないのがかわいい。
ラビの説明は、非常にわかりやすいものだ。それとも、わかりやすい女神の言葉をそのまま伝えてくれているだけか。
ここにいる俺は、いわば神……と以前思ったことならあるが。ここから出たら、神ではなく人間になる、ってことだ。
考えてみれば、それは当たり前のこと。むしろ、怪我もする腹も減る世界でそれがなければ、異端として扱われるだろう。
なので、外に出ると人間になるってのは、ある意味救済措置なのか。
「ま、その程度なら問題ないな。人間の頃なんて、生前に散々経験したことだしな」
人間を経験した、なんて言葉がおかしくなっている気もするが、事実なので仕方ない。
いずれにしろ、最初から神なやつが人間になったら戸惑うだろうが、元は人間の俺なら事前に知っておけば、混乱もない。
しかしラビは、どこから心配するような表情で、俺を見ている。
「けど主様、大丈夫っすかね」
「……なにがよ?」
なにを、心配することがあるというのか。
「主様がこの空間で過ごして、いったいどれほどの時間が経ったか覚えてますか?」
「……いや、覚えてないな」
なにを聞いてくるのかと思えば、この空間で過ごした時間?
そんなもの、覚えてなんていられない。なんせこの空間では、時間の感覚がないのだから。
外の景色でも見れれば、明るいとか暗いとかである程度の時間がわかるのだろうが、このモニターで見れるのはダンジョンの中のみ。そしてダンジョン内では、時間の経過がわかるものはない。
よって、時間を知る術がないのだ。
ま、あったとしてもいずれ面倒になって数えるのはやめていただろうが。
「けど、それがなんだよ?」
「どれほどの時間かわからないほどこの空間にいた……もしかしたら主様は、生前の時間よりも多くの時間を、この空間で過ごしているかもしれません」
「それは、さすがに……わかんねえ、けど」
「つまりそれだけの時間、主様は怪我もしないし腹も減らなかった……そんな体が、いきなりの環境の変化に、耐えられるでしょうか?」
この空間でどれほど過ごしたのかはわからない。けど、その時間が多ければ多いほど、俺が人間だった頃の感覚は薄れている。
今更、それもいきなり人間の感覚を取り戻して大丈夫か……ラビは、それを危惧しているのだ。
なるほどな、俺の体がちゃんと耐えられるのか。それを心配してくれている。
ありがたい心配だ。だが、心配はご無用だ。
「安心しろ、俺は大丈夫だ!」
「その心は?」
「クレナイを倒すその日まで、俺は倒れないからだ!」
「……くそみたいな根拠っすね。
ま、意気込みが充分なのはいいことです」
どこか呆れた様子のラビの目が、印象的だった。
まあいいさ、行ってみればわかること!
他にも、ラビからの注意事項を受け……準備は、充分だ! 元よりこの空間のものは持ち出せないから、手ぶらで行くことになる!
さあ待っていろクレナイ!
今度こそ、今度こそお前をぎゃふんと言わせるため、お前の弱点を探し出してやる!
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