第9話 ダンジョン攻略者に会いに行こう
「ずぅうううん……」
「自分で擬音出してへこまないでくださいよ、うざいっすよ」
「うぅうう……」
俺は今、すごい落ち込んでいた。それはもう、わかりやすいくらいに落ち込んでいた。
なんせ、懸命に考えて作ったダンジョンを、クレナイにあっさりと攻略されてしまったからだ。なんというこの……無力感!
はじめは、よかった。クレナイは今回はパーティーに入れてもらい複数人で挑んできたが、能力値一定ダウンのダンジョン内ではそれらは烏合の衆。
実際、パーティーの高火力担当の魔法や剣はことごとく弱体化し、モンスターに襲われている姿は傑作だった。
このままパーティーは全滅。クレナイはおしまい……になるはずだった。
しかし、鍵はやはりクレナイ。クレナイの肉体も、確かに弱体化した。
そのはずなのに……弱体化していないものがあった。それは経験だ。数々のダンジョンをクリアしてきたクレナイは、身に付けた経験値を生かして危機を乗り切っていった。
「うぅ、くそぉ……体が思う通りに動かないはずなのに、なんであんなスムーズに進めるんだよぉ」
「レベルが下がって動揺するのは、これまでバカみたいに力で解決できると思ったり実際に解決してきたバカだけってことですね」
「クレナイは、バカじゃなかったと……」
経験値が残っている以上、クレナイの真価は発揮される。
パーティーメンバーに指示を出し、モンスターとは真正面からぶつからない方法、モンスターに見つからない方法、そして自分を囮にしてモンスターを罠にかける方法……
そのすべてが見事な手際だ。正直、クレナイ一人ならなんとかなっていたかもしれないと思えるだけに、惜しかったとも言えるが。
『やっぱりクレナイ最強!』
『今回クレナイの動き鈍くなかった?』
『回線悪いのかな』
『クレナイは強いだけじゃなくて指揮官としても有能』
『クレナイ様に指揮されたい』
『もうクレナイに攻略できないダンジョンはないのかもな』
ついには、能力値ダウンで鈍くなった身体機能は、配信されている動画の回線が悪いせいで動きが遅く見えるだけ……と思われてしまう始末。
ちゃうねん、実際に遅くなってるねん。
おのれ視聴者どもめ、好き勝手言いやがって……!
それはそれとして今回も視聴ありがとうございます!
「はぁあ……」
「主様……なんか、気晴らしとかしないんすか? そうすれば、なんかいいアイデアが生まれて……」
「ダンジョン作りが俺にとっての気晴らしだ!」
「……あ、そっすか」
……なんか引いちゃった。ごめんねラビ。
ラビの言うことも、一理あるか……ダンジョン作り以外で、気晴らしでもあれば良いダンジョン作りの良いアイデアが浮かぶかもしれないのだ。
ただ…………俺……
「ダンジョン作り以外に俺、なんか趣味とか……ないよ?」
「……なんかごめんなさい」
謝られてしまった。ラビは悪くないのに、謝らせてしまった。
考えてみれば、俺にはダンジョン作り以外に気晴らしと呼べる趣味がない。
いや、元の世界では、そりゃいろいろ趣味はあったよ?
でも、この空間はダンジョンを作りそれを配信するだけの空間。それ以外の娯楽が用意されているはずもない。
話し相手としてラビを作りはした。ここは、俺の創造したものが出てくる空間。いわば神と言ってもいいだろう。
だが、結局は一人だ。他にできることもないし、ただダンジョンを作っていただけなのだが……
「どうしよう……」
元の世界のように、SNSが生きている空間ではない。動画配信や掲示板のコメントを見ることはできるが、見れるだけ。テレビやゲームもあるはずもない。
ラビのような話し相手を作っても、虚しさが増すだけな気がする……
そこまで考えて……俺の頭には、一つの考えが浮かんだ。
「よし、行くか」
「行く?」
「クレナイのいるところだよ」
実際に、クレナイに会いに行く。これは以前考えていたことでもあり、外に出ればなんかいろいろアイデアが浮かぶかもしれないという考えからだ。
立ち上がる俺に、ラビは驚いた様子。
「え、主様、この空間から出られるんですか?」
「うん、出られるよ」
「マジすか」
そう、ダンジョン作りのためのこの空間。俺は、ここに住んでいるが……ここでしか生活できないとは、言っていない。
モニターに映し出されている先……つまり、俺が作ったダンジョンのある世界に、俺は行くことができるのだ。
これまでは、ただダンジョンを作っているだけで満足だったが……そうもいかなくなった、ってことだな。
実際にあの世界に降りて、クレナイに会ったりして……自分に、新しい刺激を取り入れるのだ!
「知らなかったっすよ」
「あー、言ってなかったからな。まあ俺も、正直半分くらい忘れてたけどさ」
そうと決まれば、行動に移す! まあ、用意するものはないんだけど。
この空間で作ったものは、この空間にあるうちは消えないが……この空間から持ち出すことは、できない。
つまり、ラビも外に連れ出すことはできないのだ。
「悪いなラビ、一緒に連れていけなくて」
「いえ、主様の留守を守っておくことにしますよ。
まあ、おいらなんかじゃ守るもなにもなにもないでしょうけど」
「そんなことはないさ。ま、ちょいちょい戻ってくるから」
俺はなにも、この先ずっとあの世界に居つくわけではないのだ。この空間と行き来できる。
ラビと会えないままだと俺もつらいし。ちょいちょい帰ってこよう。
さて、いざ行かん! 待ってろよクレナイ!
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