第8話 ダンジョンでクレニキを弱体化させたい



 ……クレナイがダンジョンのクリア報酬をなにに使っているかは一旦置いておいて、だ。

 なんにせよ、またもクレナイにダンジョンをあっさりクリアされてしまった、ということだ。


「ま、そんな悔しがることはないんじゃないすか。クレニキの活躍のおかげで、配信視聴者も増えて、その分お金も増えるし。

 その金で、ダンジョンのクリア報酬を用意できるわけですし」


「ん、まあ、そりゃそうなんだが……

 てか、お前までクレニキ呼びはやめろよ」


 さっきから、ラビの言っていることが正論なんだよな。クレナイをぎゃふんと言わせたいのは、ただの俺の意地。

 それを除けば、クレナイの活躍は称賛に値する。彼女が活躍すればするほど、配信視聴者も増え、お金もガッポガッポ。その資金で、ダンジョンのクリア報酬を用意できる。


 いくらダンジョンを作ったところで、報酬がなければ誰も挑まない。だから、配信による収入減は、俺の生命線を握っていると言ってもいい。

 なんせ、ダンジョン創作は俺の生活の全てなのだから。


「ただまあ、気持ちはわかるよ。強いし、動きもきれいだし、なによりびじ……見た目も、悪くはないし」


「あんれぇ? クレナイのこと美人だって、言っちゃうんですねぇ」


「言ってねぇ。あんな不愛想な女」


 ……いや、うん。クレナイの見た目は人の目を惹いて余りあるからな。俺の世界なら、アイドルとかやっててもおかしくは……

 いや、やっぱ無理だな。あの仏頂面じゃあ。


 うーん、そういう意味で言うと、俺の収入源にはクレナイが貢献してくれているのか……なにか個人的に、お礼とか……

 いやいや、それだってダンジョン報酬があるじゃないか。それで、あいつには金やってるようなもんだし……


 あれ? 収入源のほとんどがクレナイのおかげで、その収入源で用意した報酬をほとんどがクレナイが持っていくってことは、クレナイが稼いだ金をクレナイが持っていっているようなもんなんじゃ……?


「あれぇ?」


「まーた変なこと考えてら。

 ほら、戻ってきてください主様」


「あたっ」


 パシン、と頭を叩かれる。この感触は、ラビのものだ。

 ラビの手はもふもふでぷにぷにで気持ちいいのだが、叩くときにちょっと爪を立てるのは勘弁してほしい。


「いたた……あー、これひっかき傷とかヤバいかも……」


「この空間で主様を傷つけることはできないんですから、傷なんて残りませんよ」


「ちぇ」


 叩かれた部分を手で擦ってみるけど、血は出ていない。痛みこそ、多分思っているほどのものじゃないんだろうな。

 この空間じゃ、俺は傷を負うこともない。そもそも傷つけるようなものが少ない空間ではあるのだけど。


 こうして、痛みを感じなくなるってのは……怪我とかしないって意味ならいいんだろうけど、だんだんと人間らしさがなくなってきているような、気がするな。


「あ、クレナイがダンジョンから出ていきましたね」


「みたいだな。はあぁ、クレナイのやつ、ダンジョンの外でなにやってんだか。気になるわぁ」


「ストーカーみたいなこと言い出しますね」


「やかましい」


 俺はその場に、寝転がった。くそ、最近はクレナイのことを考えてばっかだ。

 俺は、クレナイのことはダンジョンの中でしか知らない。仏頂面というのも、ダンジョンの中で気を張っているからで……外では、普通に笑っているという可能性もある。


 というか、これまでのクレナイのダンジョン潜り最長記録なんて一時間にも満たないんだ。俺は、クレナイのことを知らなさすぎる。

 なにが弱点だとか、なにが好きなのだとか……わかれば、今後の対策も立てやすくなるかもしれないのに。


「……やっぱり、直接クレナイに会うしかないのかもな」


「主様?」


 相手のことを知りたいならば、会うのが一番だ。クレナイのことを知りたければ、クレナイに直接会う。

 それができれば、この心のもやもやも晴れるのかもしれない。直接話すことができれば……


「とりあえず、次のダンジョン考えてから、考えるか」


「すぐに切り替えた……それでこそ主様っすよ」


 まずは、能力値の一定ダウンってダンジョンを作ってみよう。

 どれくらい弱体化させるかは、そうだな……こないだダンジョンに挑み、コテンパンにやられていった新人冒険者Aを基準にしてやろう。


 次作るダンジョンの中では、誰もが身体能力が減少する。新人冒険者Aのレベルにまで。体を動かそうと思っても、うまくは動けないだろう。

 これは、言ってみれば……身体能力の弱体化というより、まるで自分の体じゃないみたいだ、ってのが正しいのかもしれないな。


 自分の思うように、体を動かせない。それだけじゃない、筋力だって低下する。新人冒険者Aの筋力を見るに、クレナイがいつも持っているあの剣も、持ち上げるのも困難になるだろう。

 武器が使えない不便さを味わうがいい!


 ……まあ、今回のダンジョンでは剣使ってなかったわけだけど。


「モンスターも、ちょっとレベルを高くして……それに、罠もいっぱい仕掛けて……どうせなら、道中に用意するミニ宝箱にはアイテムじゃなく、モンスターをこんもり仕込んで……へひひひひ……」


「うわぁ……」


 いい、いいぞ、どんどんアイデアが湧いてくる! クレナイをぎゃふんと言わせるための、アイデアが!

 これならやれる……やってやれるに、違いない! 今度こそ、クレナイをぎゃふんと言わせ、泣かせてやる!


 ……その二日後、作り上げたダンジョンは攻略された。クレナイに。

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