第5話 ダンジョンマスターは人気者
『今回もクレナイ様神』
『こないだのパーティーもよかったけど、ソロこそクレナイって感じする』
『トラップもモンスターももはや意味ないよねw』
『てか今更だけど、このダンジョン動画どうやって作ってんだろ』
『面白ければなんでもオーケー』
『他の冒険者っぽいのは苦戦してるのに、クレナイだけいつもあっさりだよね』
『出来レースなんじゃね?』
『動画配信者クレナイ贔屓確定w』
「ひいきしてねえよ! 好き勝手言いやがって、ひいきできるならしろあいつを蹴落とす方向にひいきするわ! バーカ! バーカ!」
今日も今日とて、クレナイにダンジョンを攻略される。その様子は、懐かしき我が子今日日本へと配信されている。
配信され、コメントされ……視聴された分だけ、応じて収入が入る。
これが俺のダンジョン生活。ダンジョンを作って、配信して……流れるコメントに、一喜一憂する。
「いつもいつも仏頂面でモニターに向き合って、流れてくるコメントに文句ばかり垂れる。
我が主様ながら情けない」
「やかましい」
俺の姿が滑稽に映ったらしく、ラビはわかりやすくため息を漏らしている。それに対して俺は、悪態をつくことしかできなかった。
それも、ちょっと刺さることがあるからだ。
初めの頃は、楽しくダンジョンを作り、配信し、流れてくるコメントを微笑みながら見つめていた……
それが、いつからだろう。楽しさよりも、別の感情が生まれてきたのは。
「だってよぉ、クレナイが……視聴者どもがぁ」
「だってじゃないっすよ。はぁ。
だいたい、ダンジョンの様子も配信の様子も、主様は見ることはできても主様の声が届くわけじゃないんだから、いくらがやがや言っても意味ないでしょうに」
「ぐぐ、正論を……!」
悔しいが、ラビの言う通りだ。あくまでも見ることしかできないモニター相手になにを言っても、意味なんてない。
モニター越しに、ダンジョン内の言葉は聞こえるのに……ダンジョン内にこちらの声を届けることは、できないのだ。
まあ、干渉する方法がないわけでは、ないのだが……
「それにしても、クレナイさんの影響か、最近冒険者が増えましたねぇ」
「ん、そうだな」
俺にとっては、いいことだ。ダンジョンに挑む者が増えれば増えるほど、新しい刺激がある。
視聴者コメントも増えるし、冒険者の新顔を見るのも楽しい。なにより、俺のダンジョンに散っていく冒険者たちを見ると……
「あぁ、クレナイがおかしいだけで俺のダンジョンはちゃんとしたダンジョンなんだな……って、実感するよ。挑んで失敗して、それでも折れない冒険者を見るのは……快感だよ」
「主様、心の中でなにを思おうと勝手っすけど、途中から口に出すのやめてください。キモいんで」
「容赦ねえなぁ」
ダンジョンについてだが、ダンジョンは一度クリアしたらクリアした者は二度と入れない……なんてことはない。中にはそういうダンジョンもあるようだが、俺のは違う。
一度クリアしようが、何度でも挑むことができる。一度クリアしたからって、また必ずクリアできるわけではない。油断した冒険者が散っていく様を見るのはなににも代えがたい快感だ。
だが、クレナイは自分が一度クリアしたダンジョンには、二度と挑まない。初めて挑むダンジョンでもあっさりクリアしてしまうのだ、一度クリアしたダンジョンなんてぬるいということだろう。
「さて、次はどんなダンジョンを作るか……」
「……主様、一つ思ったんすけど」
次のダンジョンの構想を練っている中で、ラビが話しかけてきた。
また、辛口なことでも言われるのかと思っていたのだが……
「視聴者のみなさんに、クレナイを追い詰める案を出してもらうっつぅのはどうっすかね」
「……視聴者、か」
ラビの言葉を聞いて、俺は考える。
ふむ……悪くない案かもしれない。これまで俺は、一人でダンジョンを考え、作っていた。ここには俺以外の人間がいないので、当然ではあるが。
だが、他の人間とコンタクトを取る方法も存在する。
コメントは流れてきても、こちらから語りかけることはできない……だが、それは言葉を伝えることができないというだけ。
「そうっす。配信動画には、視聴者コメントが流れてくるっすけど、このモニターででできるのはダンジョン覗き見配信だけじゃないっすよね」
「覗きって言い方ぁ。……まあでも、確かに」
これまでは、ダンジョン配信をやってきた。ダンジョン創作は俺の力で、それを配信するのがこのモニターの力だ。動画を日本へ配信し、視聴者はコメントが打てる。
だが、俺ができるのは、それだけではない。
「今まで試したことなかったけど、やってみるか……ダンジョン掲示板!」
配信する動画とは別に、そこからリンクするページを作成。リンク先のページに、一つのスレッドを立てる。
そこに立てる内容はこれだ。『冒険者クレナイをぎゃふんと言わせる方法』。
俺が掲示板を立て、それを見た視聴者が思い思いにコメントを残していく。配信する動画にコメントを残すのとは、また違った感覚だ。
今時の若者なら、スレッドを見たり書いたり、そういった経験があるのではないだろうか。
「まあ、そういうことなんすけど……タイトルどうにかならなかったんすか」
「う、うるさいな。いいんだよ、意味が伝われば」
「伝わんないっすよ。せめて意味だけでも伝えないと」
「あぁっ」
今まで、そういう機能があるのは知っていたけど、使ったことはなかった。
本当なら、俺だけの力でクレナイをぎゃふんと言わせたかったんだが……
仕方ない、もはや四の五の言ってられないのだ。俺は、クレナイを……!
『冒険者クレナイをダンジョンで失敗させる方法』
視聴者のみんな! クレナイを倒すその知識を、俺に分けてくれ!
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