第4話 ダンジョンに挑むパーティー



 俺の作ったダンジョン。一度目なら、まあ初めてでもクリアする者はいる。二度目なら、それよりも数は減るが初めてでクリアする者はいる。

 だが、三度目……初見で別々のダンジョンを、三度も突破されるのは、初めての経験だった。それも、たった一人で。


「くそぉ……くそぉ!」


 俺は、クリアできないダンジョンは作らない。誰でもクリアできるもの……しかし、何度も何度も挑んで、苦心の末ついにクリアすることができる、そんなダンジョン。

 そういうものを作るのが俺の夢で、実際にこれまで何個も作ってきた。なのに、だ。


 俺は、悔しかった。悔しくて、悔しくて……いつしか、クレナイという冒険者のことを、考える日々が続いていた。

 寝ても覚めても、クレナイのことばかり。こんなの初めてのことだった。


「おのれクレナイ……!」


 そんなある日、またもクレナイがダンジョンに挑んできた。しかし、今回は一人ではない……他に、三人の人間がいる。

 どうやらクレナイは、他の冒険者とパーティーを組んだらしい。元々三人のパーティーにクレナイが加入したのか、それともソロプレイヤーが四人集まったのか……

 そんなことは、どうでもよかった。


 モニター越しに、会話を聞く。どうやらクレナイは、一人でこのダンジョンに挑むのは厳しいと判断した。だから、一時的にパーティーに入れてもらった……そういうことらしかった。

 まさかクレナイが他の人間とパーティーを組むなんて意外だったが、これまで一人だっただけで、常に一人というわけではないのだ。場合によっては、多人数パーティーで挑む。


 ダンジョン内では、その動きを見るだけでなく会話も聞くことができる。もっとも、全てのダンジョンの会話を聞いていたら俺の頭がイカれてしまうので、場所は選べる。

 最近はクレナイのところばかりだが。


「あいつ、やっぱりただ者じゃないな……」


「主様のダンジョン楽々クリアしてますしね」


「やかましい」


 クレナイの恐ろしいところは、その洞察力にある。


 まだ入ったことのないダンジョン。なのに、一人では厳しいと見抜いた洞察力。事前に情報収集も、欠かさないのだろう。

 パーティーメンバーには、魔法使いがいる。そう、このダンジョンでは魔法が使えないと、厳しい作りにしている。


 クレナイは魔法使いではなく、剣使いだ。そして体術も強い。まるで細めのゴリラだ。

 ダンジョンの様子を見聞きすることができるが、ダンジョンを一歩でも出れば、俺にはクレナイの行動はなにもわからない。おそらく外で、このダンジョンには魔法使いが必須だと情報を得たのだ。


「おのれ小癪な……!」


 だが、魔法使いがパーティーにいるからといってすんなりとクリアできるほど、甘くはないぞ俺のダンジョンは。

 むしろ、即席のパーティーなんぞ返り討ちにしてやる!


 いかにチームワークのとれたパーティーであろうと。そこに、それまで関わりのなかった人間が入ってしまえば……とたんにパーティーは、崩壊する。

 クレナイは冒険者としては優秀かもしれないが、果たして人間関係はどうかな? 普段鉄仮面なだけあって、人との意思疎通は不得意なんじゃないのか?


 チームプレーに必要なのは、冒険者としての力ではない。人間としての対人スキルだ。ダンジョンを攻略するためだけにしか人と関わらないお前に、チームプレーなんてできやしない!


「ははは、今度こそ終わりだクレナイぃ!!」


 ……その数時間後……見事に、ダンジョンは攻略されてしまった。


「わぁ、やったー! 私たちでも、ダンジョン攻略できたんだ!」


「あぁ、なんか感動した!」


「これも、クレナイさんのおかげだな!」


 しかも、しかもだ。そのパーティーは、ダンジョン初心者だったらしい。それなりに修羅場をくぐっている人間ならまだしも、初心者……!

 その事実は、俺を大きく落胆させた。


 クレナイはパーティーを崩壊させるどころか、それぞれの長所を生かさせ、不安を感じていた彼らに自信をつけさせた。ダンジョン攻略どころか、チーム内の空気まで良くしやがった。


「いや、私の方こそ礼を言う。

 キミたちがいなければ、このダンジョンの攻略はさらに難しかっただろう」


 その上で、初心者パーティーにも花を持たせるイケメンムーブ。なんだこの超人は……!

 確かに、クレナイ一人ではダンジョン攻略は容易ではなかっただろう。パーティーメンバーの力を借りたのも事実だ。


 だというのに……こいつならば、一人でも攻略できたんじゃないか、と思えてしまう。


 その後、クレナイはパーティーのメンバーと仲良くはなったようだが、自分はあくまでも基本ソロで行動するからと、仲間に誘われたのを断っていた。

 クレナイ一人にも手こずっているのに、パーティーなんて組まれたらいよいよどうしようもなくなるから、俺は助かるのだが……


「主様〜、彼女のことかなり気にしてますね〜」


「そりゃ、俺の作ったダンジョンをこうもクリアしていくんだ。気にもなるさ」


「さいで」


 ダンジョンは、いずれはクリアされるもの……それが、俺の考えだ。それを理解しているから、難しいものを作りつつ最終的にはクリアできるものを創造する。それが俺のモットーだ。

 だがクレナイは、そんな俺のモットーを崩す存在だ。


 おのれクレナイ……! 俺はいつからか、クレナイにクリアできないダンジョンを作ることに、心血を注ぐようになっていた。

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