第3話 ダンジョンを攻略する冒険者クレナイ



 冒険者クレナイ。それが彼女の名前だ。クレナイと聞いてパッと思い浮かぶのが、赤色の紅だ。

 クレナイというのが、俺の知っている意味と同じとはわからない。が、名は体を表すというやつか、髪の色は赤い。ので勝手に紅とイメージしている。

 そもそも、クレナイというのが彼女の本名かもわからないのだがな。


 そんな彼女は、一人だ。基本、ダンジョンには複数人でパーティーを組んで挑むのが定石とされている。

 それを彼女は、一人で……これまで……


「今のセリフ、果たして何度目でしょうねぇ」


「やかましい」


 くっ……痛いところを突きやがって……!

 悔しいことに、俺は今の言葉を吐くのが初めてではない。何回も……クレナイが訪れる度に、言っている気もする。


 いや、忘れろそんなこと。今に見ていろ。今回こそ……!


「よし、そこだいけ! そのトラップにかかれ……あぁ、そんな!

 いや、まだダンジョンモンスターがいる……あ、そんなあっさりと……

 あ……あぁ……」


 用意したダンジョン、そこに設置されたトラップやモンスターは、容赦なくクレナイに牙を剥く。これまで何人もの冒険者を弾いてきたのだ。

 それを……クレナイは、ものともしない。トラップを、モンスターを、なにもかもをあっさりとクリアして……


 ついにダンジョンの最奥へと到達して……ダンジョンボスをも倒して……用意されていた、宝箱を開けた。


「あぁー!」


「またクリアされちゃいましたねぇ」


 俺は、頭を抱える。ラビは、軽くため息を漏らす。もはや、このやり取りも何度目だろう。

 まただ、またこの女は……俺のダンジョンを、あっさりとクリアした……!



『鮮やかなお手並みお見事!』


『クレ様こっち見て! 手ぇ振って!』


『てかこのダンジョンがしょぼすぎたんじゃね?』


『それはないだろ、何人も冒険者が脱落してるし』


『じゃあやっぱりクレたんが最強ってことじゃん!』


『今日もいい酒が飲めそう』


『さすがおれたちのダンマス!』



 流れる、コメント欄……みんな、各々勝手にコメントを打っているはずなのに、一部会話みたいになっているのが不思議だ。

 これがリアルにしろ、ゲームにしろ、視聴者には関係ない……好きなことを言うだけだ。だがこれがリアルと知っていて、作ったダンジョンを攻略される俺の負った傷は深い。


 俺が、冒険者クレナイを天敵と呼んでいる理由。それは、クレナイが迷宮攻略者ダンジョンマスターと呼ばれている人物で……

 俺の作り出したダンジョンを、ただの一度もミスることなく、次々と攻略していく女だからだ!


「……クレナイ……!」


 ……クレナイという名の、赤き冒険者。初めて彼女の名前を知ったのは、彼女を知る誰かが彼女に、クレナイと呼びかけたときだ。


 彼女のことを目にしたのは、いつのことだったか……はじめに見たときには、きれいな女性だと思った。燃えるような真っ赤な短髪。キリッとした鋭い目、そして左頬に刻まれた刀傷。

 傷があっても、その美しさが損なわれることはなかった。むしろ、傷があってこそ彼女の気高さが完成されているようで。


 だが、相手が美人だからって、俺のやることは変わらない。冒険者にとって難しめのダンジョンを設定し作り、それを苦悩の末クリアしてもらう。

 今回の相手も、すぐに弾き出されてしまうだろうと思った。


 その結果は……


「な……にぃ……!?」


 ……俺の作ったダンジョンは、クリアできない設定ではないが何度も挑めば、いつかはクリアできるものに設定してある。

 もちろん、初見でクリアする者もいる。だがそれも、名だたる冒険者を含んだ複数人でパーティーを組んでいる場合だ。単体ではまずない。


 クレナイという冒険者など、それまで聞いたことがない……それも、クレナイはたった一人。

 パーティーを組んでいないし、ましてや初ダンジョンだ。少なくとも、俺が作ったダンジョンは初めてだ。

 

 そんな、女に……俺のダンジョンは、あっさりとクリアされた。


「な、なぁに。まあ、こういう日もあるさ」


 しかし、ダンジョン攻略というのは実力と、そして運が作用する。

 実力は確かにあったが、今回は、クレナイがそれ以上に運を持っていたというだけの話。それだけだ。初見かつ一人でクリアする冒険者だって、いないわけではないのだ。


 ……そう、自分に言い聞かせ。


 数日を置いて、俺が作った別のダンジョンに挑む者があった。クレナイだ。

 俺は、自分が作ったダンジョンならばどこであろうと、その内部を見ることができる。なので、この空間全体にあるモニターはダンジョンの数だけ、ダンジョンはモニターの数だけ存在する。

 逆に言えば、ダンジョンの外の状況は一切わからないのだが。


 ともあれ、再び挑んできたクレナイ。このダンジョンも、冒険者の中ではそれなりに難関だと有名だ。

 次こそ、クレナイに一泡吹かせてやる。


 ……しかし、あっさりとクリアされてしまった。


「な……ぁ……!」


 偶然、偶然だ。偶然に違いない。

 なぁに、次だ次。三度目の正直という言葉もある! 次こそ、クレナイをギャフンと言わせてやる!


 ……三度目の正直どころか、二度あることは三度あるだった。三度みたび、ダンジョンは攻略された。

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