第41話 とある少女への追憶④

 



 七海の意中の相手。

 情報を集める過程で分かった事だが、かなりの好色家のようだった。

 まぁ……、言葉を選ばないなら酷めのヤリチン。

 そりゃ、サッカー部という華のある部活に身を置いておいて、尚且つ強豪ときたもんだ。

 慕ってくる女なんて腐るほどいただろう。


 そんな男と七海をくっつかせたら、どんな結果になるかは想像に難くない。

 散々遊ばれて捨てられた女生徒の存在が何よりの証拠だ。


 だから、俺はすることに決めた。

 七海と先輩との関係も。

 先輩とそれを取り巻く女どもも。

 何よりその先輩とやらの輝かしい経歴も何もかも。



 別に難しいことは何もしていない。





『先輩』の汚い噂をチェーンメールで流し、学校全体でアンチ先輩、アンチサッカー部の雰囲気を作る。


 先輩の幼なじみとやらは所詮頭の軽い馬鹿女。雅に弱みを掴ませ、先輩との間柄を引っ掻き回してもらった。


 精神的、物理的に孤立したところで阿久津が突っかかる。


 もう既に余裕の無くなっている「先輩」は恐らくノってくる。


 そこを、正当防衛という免罪符で阿久津がケガを負わせる。




 これでリセット完了。


 先輩は、サッカー部の尊厳も、幼なじみも、人気も、慕う女達も何もかも失った。



 雅は先輩の本性を知った途端、「何すればいい!?」と食いついてきた。

 清々しいまでの手のひら返しに苦笑いだったが、奴には最大限の働きをしてもらった。









 後日談。



 ***




「……ありがとね」



 その言葉は、きっと本心ではない。



「佐々木君は、本当に凄いね」


 何も凄くなんかない。

 俺は別に何もしていない。

 俺は君の気持ちを踏みにじった。

 要らない正義感で余計なことをした。


「……みんなと過ごした1年間、本当に楽しかった」



「……そっか」



 七海は中三に進級すると同時に転校が決まっていた。

 上級生からのイジメは結局彼女の親を動かしたようだった。

 隣町だか、どこかは忘れたけどここから離れたとこに引っ越すらしい。

 桜もまだ咲かない中二の修了式の日、正門前にて俺達は最後の言葉を交わしていた。


「でも良かったよ。あんな人と付き合ってたらきっと不幸になってた」


「…………」



「……君は、凄いよ」



「……」



「私も、もっと強くなる。誰かに頼ることなんてないように」



「……そっか」



「私、頑張るから。…………また会おうね」




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