第39話 とある少女への追憶②

 




「...…イジメ?」



「ええっと……うん。多分」




 首を傾げながらそんなことを呟く七海。

 放課後に話があると呼び止められ、誰もいなくなった教室で2人、席に座って話していた。

 夏休み明けの教室は蒸し暑く、まだ日も長い。


「イジメって……どんなことされてるんだ?」


「う〜んと、……ちょっと叩かれたり、かな」


「えぇ……?」


 暴力沙汰か。

 穏やかじゃないな。


「他には待ち伏せされたりとか……、カツアゲ?とか」


「ちゃんと色々やられているな……。雅とは最近一緒に帰ってないのか?」


「夏休み中から何かバイトしてるみたいで……、最近会えてないんだ」


「そっか……。夏休み中は俺らもなかなか会えてなかったからなぁ……」


 いつものバカ共と休みまで会う必要もないと思い、夏休み中は1人自室にこもりゲームに興じていた。

 多分、太一や阿久津も思い思いに過ごしたのではないだろうか。

 雅は……身分でも偽ったんだろうな。

 中学生でバイト出来ないし。


「そんで、何でそんなことになってんだ……? 恨み買うようなことでもしたとか?」


「うーん、多分結果的にそうなっちゃった、のかも」


「…………?」






 ***



 七海には好きな先輩がいた。

 夏休み中にその先輩が部活をしている所に足繁く通い、なんやかんやで仲良くなったらしい。

 マネージャー的なこともさせてもらっていて、夏休み明けから本格的にマネージャーとして参加する予定だった。

 しかし、それをよく思わない女がいた。

 七海が好きになった先輩の幼なじみの女?だか。

 そしてそのクソ女とその取り巻きに目をつけられたらしい……。




 ***



 とまぁ……。

 話を聞くにこんな感じ。


 うーぬ。

 まぁ、その先輩とやらの幼なじみは面白くはないんだろうなぁ。


「その幼なじみの女って3年?」


「うん、登場人物私以外全員3年」


「サンキュ、分かりやすい」




 物の見事な三角関係。

 七海は先輩Love。

 クソ女は先輩Love。

 クソ女は七海dis。

 ふぅ……。

 先輩モテるなぁ……。

 俺も部活とかやった方がいいんだろうか。

 いや無理だな、才能が無さすぎる。


「先輩って何部?」


「サッカー」


「おぉ…………」



 王道中の王道。

 そりゃ七海も惚れるわ。

 しかもウチの中学は何か知らんがサッカー強かったはず。

 ……倍率とかヤバそうだなぁ。


「その先輩とやらもめちゃくちゃモテるんじゃないの?」


「かなりね」


 苦笑いこそしているが、七海はかなり努力したのではないだろうか。

 周りの目もあっただろうに、意中の相手そこそこモテるに対して積極的に行動を起こした。

 その心意気はもちろん素晴らしいことだと思う。

 結果はどうであれ、その過程は誰にも非難されることはあってはならないと俺は思う。


「質問だらけでごめん。……何で俺に相談を?」


 正直そこが1番分からなかった。

 女友達や雅、先生とか……。

 まぁ、色々と選択肢はあるだろうけど、その中で何で俺なのか。



 ……いや誤解しないでほしいが、別に相談されるのが嫌とかではなく。

 純粋な疑問だった。

 だって、普通選ばないもん、俺の事を。

 相談相手として。

 普段の俺を知っていれば、自然と除外されるはず。

 責任感もない。

 信頼もない。

 特別な才能とかも皆無。


 うん、改めて俺だったら選ばんな。



 しかし、俺の意に反して帰ってきた返答は、素っ気ないものだった。



「何でだろ…………、分からない」



「えぇ…………」



「特に理由とか無いんだけど、強いて言うなら……」




「うん」





「佐々木君なら、何とかしてくれそう……だったから、かな」






「…………」




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