第38話 daze③
大振りの一撃。
蒼汰の意識は完全に俺の脳天を砕くことを目的としているだろう。
しかし、それこそが狙い目。
――――昨日用意したものpart2。
懐から小さなライトを出し。
「っ!!!!!?」
蒼汰の眼前で点滅させた。
タイマンで勝つ必要はない。
一瞬でも隙を作れればこちらに分がある。
「んだ……! これ………!!!」
チャンス!!!
「よいしょぉ!!!!」
「うぐぅ………!!!!」
俺は間髪入れず奴の股間をめがけて蹴りを入れた。
奴はバットをもっていた。
よもや卑怯とは言うまいね?
「あ……ぐぅ………!!」
カランカラン、と音を立ててバットが転がる。
目くらまし。
古典的な方法だったが、まぁまぁ上手くいった。
薄暗い小屋の中で蒼汰を無効化させるためにはこれが1番だと思った。
地面にうずくまり、苦悶の表情を浮かべている蒼汰。
上手くいったようで何より。
「ちょっ、蒼汰……?」
「クソ……いてぇ……!!!」
「よっしゃ〜グリグリターイム」
バットを拾いまして……っと。
向こう脛を思い切りぶん殴るっ!!!!
鈍い音と共に、「ああああああああぁぁぁ!!!!!」と言う絶叫。
人体で激烈に痛む部分というのはある程度決まっている。
そのひとつはここ、向こう脛。
弁慶の泣き所とも言う箇所。
どんな大男でもここ殴られればかなり効く。
そして……。
「股間がまたガラ空きだよ」
蒼汰の両の手は脛に。
となれば……そりゃ股間狙うよね!!?
空を切るバット。
再度響く鈍い音。
「〜〜〜〜〜〜!!!!」
「正当防衛の証拠もさっき撮れた。…………後は、ちゃんとした犯罪の証拠も押さえなきゃね」
小屋の奥にある扉。
おそらくその奥に、噂の真相がある。
『最近女拉致って遊んでるらしい』
金髪から聞いたことが真実だとしたら、実行に移せるのは全幅の信頼が置ける場所。
そりゃ、私有地だったら捜索の手も及ばない。
もしここがそうだとしたら。
監禁しておくなら絶好の場所。
「陽菜」
「…………」
「その扉の奥には何があるの?」
「…………」
信じられないものを見る目。
そりゃそうだ。
蒼汰が地面に転がっているのが信じられないんだろう。
転がるのは俺でなくちゃおかしい。
これまで絶対的な優位だったものが、いとも容易く覆された。
その心中は想像するに難くない。
「この小屋には、色んなものが転がっているね。ロープやらハサミやら。でも小屋だから物置として使っているんだったら別に何もおかしくは無い」
「でもさ」
「そこら辺に落ちてる大量の髪の毛……。注射器は何かな」
「……………!!!!」
ここで行われているのは、いや。
ここで行われていたのは。
俺が想像するよりも、ずっと悲惨なことだったんじゃないだろうか。
その被害者たるのが、扉の奥にいる。
「見させてもらうね」
「あっ……ちょっ」
陽菜の静止を振り切り、扉に手をかけ、開ける。
「………!」
薄暗い小屋の奥の扉で区切られた小さな空間。
そこに彼女はいた。
壁に縄で両手を括り付けられている。
予想通り髪を切られている。
それに暴行を受けていたのか、顔も腫れ上がっていて人相が分からない。
「大丈夫ですか……?」
歩みを進めるほどに土煙が舞う。
彼女の周りは酷く汚れていて血液やら体液やらにまみれていた。
こんな劣悪な環境に……。
「今、縄を解きます」
地面に転がっていたハサミで縄に切れ込みを入れる。
固く縛られているのか縄の下は鬱血しているようだ。
「おりゃ……!」
固く縛られた縄も何回か動かせば強度を失う。
あともう少し。
不意に。
俯きがちだった女の子の顔が上に動き始めた。
「あっ……大丈……夫…………?」
目線が合う。
「さ……さ…」
無理して出そうとしている掠れた声。
その声。
初めて聞くであろうその女の子の声。
自然と目が見開かれるのを感じる。
いや待て。
そんなことは有り得ない。
冷や汗が背中を伝う。
馬鹿か。
そんなことあるわけない。
あってはならない。
嘘だと。
……嘘だと言ってくれ。
「七……海…………?」
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