友好戦略その6

「眠くなってきた?寝ちゃおうか」

「ベッドに行こう、僕が添い寝してあげるよ」

「恥ずかしがらないでいいよ。これも友好戦略の一つ、添い寝で骨抜きの術だ」

「君の布団いい匂いするね。僕の方が先に眠くなっちゃいそうだよ」

「どうしたの?また顔が赤くなっているよ、まるで深海の生物みたいだ」

「深海では赤色の光が真っ先に吸収されるからね。深海では赤は目立たない色なんだ」

「だから深海の生き物は赤い体になることで隠れているんだ。君も隠れているつもり?」

「でも残〜念、僕にはばっちり見えているよ」

「僕の目、少し光っているでしょ。深海ザメの目にはタペタムと言って、光を反射する構造があるんだ。これで小さな光も見逃さないから、君の顔もよく見えているんだよ」

「照れているのかな?可愛いなぁ」


「ねぇ人工呼吸はキスに含まれると思う?」

「最初に会った時、僕が擬人化してすぐの頃だ。肺呼吸の仕方がよく分からなくて死にそうだった僕を、君が助けてくれたじゃない」

「人工呼吸で唇と唇が触れたのをキスと呼んでいいのかなって?」

「まぁあの時は僕の歯が君の口の中を突き破って大惨事になってたけれど」

「その節はごめんなさい、折角助けてくれたのに恩を仇で返すようにしてしまって」

「でも君の血の味、今でも覚えている」

「しょっぱくて、鉄の味がして、でもなんだか君を感じさせる味がした」

「いや君の血が美味しかっただけだよ、誤解しないでね」


「そういえば君も明日は休みなんだよね?どうやって過ごすつもり?」

「君がまだ疲れているならば、一緒にゲームしたり、アニメを見て過ごそう」

「でも君が元気になったなら、出掛けるのについてきて欲しいんだ」

「人類と友好を深めるためには、外に出て人々と触れ合い、見識を広げることが必要だってことは分かっている」

「だけど一人だと、どうしても心細いんだ。君の力を貸してくれよ」

「いいの?ありがとう」

「服屋さんにも行きたいなぁ。今着ている服は全部、君が貸してくれたものだろう?」

「これも気に入っているんだけど、如何せん僕にはサイズが大きすぎるんだよ」

「だから新しいのを買いに行きたいんだ。フリル付きの洋服とかどうだろう。ラブカの英名はfrilled sharkというんだ、フリルの付いたサメという意味だよ。だからフリルは僕に似合うんじゃないかな、そう思わない?」

「でね、あの、・・・もう一つお願いがあるんだけど」

「前回僕らが外に出かけた時に、すごい人混みに遭遇しちゃったじゃないか」

「それで君とはぐれて、その、僕が迷子になっちゃったんだよね」

「知らない場所にひとりぼっちになってしまって、すごく怖かったんだよ」

「君が見つけてくれた時には、僕はもう涙目になってしまっていた」

「深海にいた時には泣いたことなんてなかったのに、陸上だと不安で不安でたまらなくなってしまったよ」

「サメはそもそも涙なんか流さない?そういうことじゃないんだよ、ふうっ、馬鹿」

「だからさ、今度出かける時は君と手を繋いでいいかなって」

「しっかり手を握っておけば、はぐれたりしないかなと思って。どうかな?」

「繋いでくれる?やったぁ。それを聞いたら出かけるのが楽しみになってきたよ」

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