友好戦略その5
「だいぶ癒されたでしょ。じゃあこのまま少し話をしよう。ピロートークと洒落込もうじゃないか」
「意味が違う?君に僕の膝で枕をしながら話をするんだ、文字通りpillow talkじゃないか」
「そうだ、君はラブカの名前の由来を知っているかな?」
「羅紗(らしゃ)の鱶(ふか)で羅鱶だよ。鱶はサメの別名なんだけど、羅紗は知っているかい?」
「羅紗っていうのは毛織物の一種で、ラブカが手触りの良い肌を持つことからそう名付けられたんだ」
「鮫肌と言えばざらざらとしたものを想像しがちだと思うけれど、僕たちの肌はそうじゃないんだ。どうだい?触ってみるかい?」
「はい、どうぞ。君だけに特別に触らせてあげるよ」
「っふ、っひぃ、うなぁ!?人に触られるのってくすぐったいんだね、自分で触るのと全然違う」
「でも嫌じゃないよ。君の手、あったかいから。深海は冷たくて暗い世界だから、こういう温もりは初めてなんだ」
「そういえば男の人はえっちな話が好きだとネットに書いてあったよ。君も聞きたい?僕たちのえっちな話」
「ふふ、遠慮しなくていいよ。これも友好のための手段だ。えっちなこと、つまりサメの繁殖方法について話してあげよう」
「魚はみんな卵を産むと思われがちだけど、サメは違う。卵生という卵を産むサメと胎生という赤ちゃんを産むサメに分かれるんだ」
「胎生のサメの中でも卵殻に包まれた赤ちゃんを出産するのが偶発胎生、赤ちゃんを直接出産するのが真正胎生と呼ばれる」
「真正胎生の中でも母体依存型のサメは赤ちゃんがお母さんから栄養を受け取って成長する。卵黄依存型のサメは母体の中で卵黄の栄養を吸収して赤ちゃんが成長するんだ」
「ラブカは卵黄依存型の胎生だよ。僕たちの妊娠期間は、なんと脊椎動物で最長なんだ。3年半もあるんだよ、凄いでしょ」
「え?僕は妊娠した経験があるのかって?それはもちろん、・・・無いよ。恥ずかしいこと言わせないでよ、デリカシーがないなぁ」
「君だってほとんど経験は無いんだろう?見てれば分かるよ」
「性交の経験も無い、君たちの言うところの処女ってやつだ。見てよ、身体に噛み跡もないだろう?」
「あぁ、サメは交尾の時に雄が雌に噛み付くんだよ」
「理由は詳しく知らないけれど、交尾の時に体を固定させたり、性的興奮を促すためらしいんだ」
「噛まれて発情するんだなんて僕もMだって?君に言われたくはないよ」
「でも君に噛みつかれたら興奮するかもしれない」
「なんでもないよ、君に噛み付いたら興奮するんだろうなぁって話。君はMみたいだからね」
「君と話すのは楽しいね。深海にいた頃はろくに話し相手もいなかったから」
「僕の話し相手はミクちゃんくらいだったよ」
「?ミクちゃんはミツクリザメの女の子だよ。ミツクリザメは長い鼻が特徴的な深海ザメだ。口が飛び出て獲物を捕らえることができて、その姿からゴブリンシャークとも呼ばれている」
「友達がいなかった僕に、ミクちゃんは優しく話しかけてきて、色々なところに連れていってくれたんだ」
「マリンスノーが綺麗に見えるポイントや、クモヒトデが群れている場所なんかを教えてくれたんだ。そうそう、危うく火傷しかけたけれど、熱水噴出孔はすごかったなぁ」
「君が深海に行ったら水圧でペチャンコに潰れちゃうかもしれないね。けどもし何らかの方法で君が深海に行くことができたら、今度は僕がそれらの場所を案内してあげるよ」
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