友好戦略その3
「歯磨きがあんな恐ろしいことだったとは…」
「まあいい、次はお風呂に入りなよ。浴槽は僕が洗っておいてあげたから」
「僕が先に入らせてもらったから、お湯は溜まっているはずだよ」
「服は脱げたかい?僕が背中を流してあげるよ」
「遠慮しないで。今日は君を徹底的に甘やかしてあげると決めているんだ」
「じゃあ頭から洗ってあげようか」
「シャンプーを手に取って〜、きちんと泡立てて〜」
「あわあわ〜」
「今回はあんまり抵抗感がないね」
「ほう、床屋で洗われているから慣れてると」
「床屋ってあれだよね、髪を切ってもらうところ。人間は定期的に髪を切らなきゃいけないらしいじゃないか」
「面倒な種族だなぁ。サメにはそもそも髪なんてものがないから、そういうものとは無縁だよ」
「そもそもなんで陸上の動物には毛なんてものがあるんだい?」
「体温を逃さないため?…そうか君らは恒温動物だったね。体温を一定に保たなければいけないんだ」
「僕らサメは基本的に変温動物だからね。周囲の温度に合わせていればいいんだよ」
「あっ、でもアオザメやネズミザメなんかは周囲の水温よりも体温を10度ほど高く維持することが可能なんだ」
「彼らは奇網という動脈と静脈が絡まり合った血液循環システムを持っていて、体を効率的に温めることができるんだ」
「アオザメなんかはそのおかげで、サメの中でも最も高速で泳ぐと言われているんだよ」
「泳ぎが苦手なラブカの僕からしてみれば、羨ましい限りだなぁ」
「髪はこんな感じでいいかな?そしたら泡を流していくよ〜」
「はい、流せたよ。では背中を洗っていこうか」
「洗っていくよ〜。ゴシゴシ」
「?洗っているのに使っているこれかい?これは海綿だよ」
「海綿というのは海などに生息する原始的な動物だ」
「因みに深海にはカイロウドウケツという海綿が生息しているんだ」
「偕老同穴というのは、夫婦が仲睦まじく老いて最後には同じ墓に入るという意味の四字熟語だよ」
「カイロウドウケツの中にはドウケツエビという海老の雌雄が暮らしていることからその名前がつけられたんだ。ふふ、なかなかどうしてロマンチックじゃないか」
「これは違う種類の海綿なんだけど、柔らかいスポンジ状の体をしているからね。昔から体を洗うのに使われているんだ」
「むぅ、たくましい身体をしているね。洗いがいがあるよ」
「洗い終わったよ、じゃあ前側をやっていこうか」
「ってあれ?君の交接器、一つしかないじゃないか!」
「交接器というのは、その雄が交尾をするための器官のことだよ」
「なんで一つしかないの?事故かなんかで片方無くなっちゃったの?」
「え?元々一つだって!?人間はそうなんだ〜。サメの交接器は左右に一つずつ、合計二つあるんだよ」
「ところで君の交接器の下についている袋みたいなのはなんだい?」
「精子を入れるための袋?なんでそんなものが体の外にあるの?」
「体温で精子が温まっちゃうから?へぇ人間も大変なんだね〜」
「まぁいいや。前を洗っていくよ」
「うん?前は自分でできるって。いや僕がやってあげるって」
「だめ〜?そこまで言うなら任せるよ。僕は先にあがっているから、ゆっくりしていってね〜」
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