第5話 記憶と謎の道

 屋敷の修理をしたその日の夜、座敷童はあることに悩まされ、眠れぬ夜を過ごしていた。

 その悩みとは少年が、今朝見つけた一冊のアルバムの件だった。


「元々此処に有った奴だと思たんだけどな...まさかアルバムに私の写真があるなんて...」


 身に覚えのないアルバムをペラペラとめくり、なにか手掛かりがないかと注意深く観察するが、これと言って重要そうな手掛かりは見当たらない。

 だが、諦めずに何度も何度もページをめくり、三週目に差し掛かった時座敷童は、あることに気が付いた。


「これ五年前の写真だ...でも私がこの屋敷に来たのは一年前のはず...」


 この謎めいた状況に理解が追い付かない座敷童は、一旦考えるのを辞め、外の空気を吸いに行った。

 屋敷の外に出るや否や、体をグビーっと伸ばし、小さく溜息をつく。

 階段に腰を掛け、ボーっと森を眺めていると、奥の方で人影らしきものを発見する。

 こんな時間に人が来るものか?と疑問に思った座敷童は、見つからないように気を付けながら、人影の後を追う。

 数分尾行を続けたいると、水の流れる音が、座敷童の耳に入ってくる。


「こんな時間に川に来るって...もしかして自殺か...?」


 そんなことを小さく呟きながら、木陰に隠れて人影を見つめる。

 月明りによって照らされていく人影は、徐々にその姿を露わにする。そして、光り輝く月を背に、謎の人物が座敷童の方に振り向く。


「お久しぶりです、座敷童さん」


 そんな突拍子の無いことを呟く人物に、座敷童は見覚えがあった。


「なんで...少年がここに...」


 寝ているはずの少年が何故か森にいる、それにいつも見ている少年より、少し幼く見える。


 そんなことを考えていると、少年と思しき人物は、座敷童の思考を遮るように話しかけた。


「この川、僕たちが、六年前に初めて会ったんですよ?まあ覚えてないと思いますけど...」


 アハハと悲しそうに笑う。


「あなたは何者なの...?六年前に少年と出会っていたってどういうこと...?」


「まあそんな反応になりますよね...でも僕からは詳しいことは、教えてあげれないんですよ。そうですね~僕はあなたの記憶、とでも言っておきましょうか!!」


「私にそんな記憶なんて...」と言いかけた時、少年?は一言座敷童に言葉を放つ。


「そろそろ僕は消えるのであなたの質問にお答えすることはできません...」


 そんなことを言う少年?の下半身が少し薄くなっていることに気づいた。


「それでは僕はもい行きますね...早く思い出してくださいよ?僕が可愛そうなので...」


 少年?は座敷童を置いて、消えて行ってしまった。

 少年?が消えた途端、座敷童の意識が薄れ、気が付いたら屋敷にあるいつもの部屋に居た。


『起きて』


 肩を揺らしながら、座敷童を起こす。


『お腹すいた』


 そんなことを書かれた紙を見て、珍しく寝坊をしていた事に気づいた。


「昨日何か忘れちゃいけない大事なことを思い出していたような気が~」


『??』


「あー何でもない、朝食にするか」


『コクン』


 昨日の残である猪のお肉を台所で一口大に切っていく。

 切ったお肉をフライパンに入れ、塩胡椒を塗して焼いていく。慣れた手つきで調理を進めていく。

 少年はいつものように、箸でリズムを取るようにして、机をたたいて待っているのに、今回は珍しく包丁を手に取り、座敷童の手伝いをしようとしている。


「少年は座って待ってていいんだぞ?」


 座敷童のそんな一言に聞く耳を持たずに、少年は手を動かしていた。

 お肉を切り続けていくと、少年の手から包丁が滑り落ちていく。

 とっさに体を後ろに跳ねさせて躱す。


「おい、大丈夫か...?やっぱり座ってろって...」


 少年にを心配しながら床に落ちた包丁を手に取ろうとしたとき、床の一部が沈み、隠し通路が現れてくる。

 床がギーギーと音を立てながら、石造りの階段がその姿を現す。

 壁には苔が生えており、ホコリも凄く、掃除されてないことが分かる。


「は...?なにこれ...?」


『知らないよ』


 いきなり現れた隠し通路に困惑の表情を浮かべる二人は、顔を見合わせて首を傾げる。


「ご飯食べたらちょっと調べてみるか...」


『冒険だ』


「そういえばお前、いつから漢字書けるようになったんだ?」


『なんか分かるようになった』


「なんだそれ...まあいいや、ご飯食べよ」


 少年が首を縦に振り、二人で朝食を食べる。

 少年は早く探索をしたいのか、いつもより早く朝食を食べ終わり、座敷童が肉を食べ終わるのをじーっと見つめて待っていた。


「食べずらいんだけど...」


『早く行こ』


「そんな焦らなくても消えたりしないって...」


 少年をなだめながら食事を終えると、早速探索の準備をし始めた。

 着替えを済ませた二人は、ランタンを持って謎に通路の入口の前に来ていた。


「じゃあ行くか!!」


『出発』


 こうして二人は、とても暗く、ランタンの明かりだけが道を照らす謎の道に消えて行った。



















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