第4話 修理とご褒美

 座敷童と少年は、昨日の一件で物置小屋に寝泊まりをしていた。

 昨日の一件とは、二人が釣りから帰っている途中、屋敷に雷が落ちてしまうという事があった。大粒の雨が降っていたため、被害が最小限になったことが不幸中の幸いだった。


「おーい、起きろ!今日は昨日の事故の修復するぞ~」


 座敷童に起こされた少年は、目を擦りながら起き上がり、再び横になった。


「おい!二度寝するな!!屋敷に戻れなくなるぞ」


「?!?!」


 座敷童の放った一言に少年は、勢いよく起き上がり、忙しなく着替えをし始める。

 着替えを早々に終えたた少年は、朝食をとるのも忘れた様子で屋敷の方へと走って行ってしまった。

 座敷童はそんな少年の後を追ったのだが、少年のいきなりの行動に反応が遅れたのもあり、だいぶ遅れて屋敷に到着した。


「お前いきなり飛び出すなよ...」


 少年に追いついた座敷童は、息を切らしながら少年のいきなり行動に文句を言っていた。

 少年はそんな座敷童をよそに、入口の近くをうるちょろとしていた。


「お前もしかして、何をすればいいのか分らなくなって困ってるんでしょ...」


『コクン』


「見切り発車すぎる...」


 溜息をつきながら倉庫から持っていた木の板やトンカチなどの修理をするために使う道具を両手いっぱいに抱え込んでいた。


『それなに?』


「なにってお前...修理道具でしょ...ほらさっさと行くぞ~」


 座敷童はトンカチを少年に持たせて、ズカズカと屋敷に入っていった。


「とーちゃーく。まあ修理って言っても、私もどうやっていいのか分んないから我流で行きたいと思います!!」


『ラジャ』


『てんじょうどうやってなおすの?』


「知るか!!適当に木の板留めれば大丈夫でしょ!多分...」


 黙々と屋根に空いた穴に合う木の板を探していると、少年が押し入れの中から、一冊のアルバムを持って来ていた。


『なんかあった』


「ん?ってなんだこれ?」


 アルバムを手に取り、ペラペラとページ一枚ずつ見ていく。


「なんだ...これ...なんで私が写ってるんだ?」


 まるで悪夢を見ているかの様に、眉間にしわを寄せて暗い表情を浮かべる。

『だいじょうぶ?』と書かれた紙を少年が、座敷童の視界に映るように見せる。その少年は確かに座敷童の事を心配していたのだが、座敷童の目には悪戯に笑っているようにも見えていた。

 追い打ちをかけるように、少年がアルバムにある一枚の写真を指さして、何かを言おうとしたとき、突然床が抜け、二階から一回へと落下していった。


「いってて...おい少年!!生きてるか!!」


 先ほどまで微動だにしなかった座敷童は、先ほどの衝撃で我に返り、瓦礫の中から少年を探し始めた。だが、少年が一向に見つからず焦っていると、後ろから服の裾を引っ張られる。


『ここにいる』


「少年!!大丈夫だったか!だけどいきなり裾を引っ張らないでくれ。びっくりするから...」


『わかった』


「にしても天井だけじゃなっくた床も修理しなくちゃならなくなったな」


 ため息交じりに愚痴を漏らしと、少年が今日中に終わるのか、と尋ねてくる。


「今日中に終わらなかったらまた小屋で寝るだけだ。それが嫌なら集中しろ~」


『ビシッ!!』


 そして二人は作業を進めていった。

 少年は一階に散乱した瓦礫を外に出し、木材の屑を掃除していった。

 座敷童は当初の目的通り、屋根の修復をしていくと同時に、先ほど崩れた床の修復もしていった。

 板を外側と内側から打ち付け、その間にブルーシートを挟んだ簡易的なものだが、素人には相当難しかったため、かなりの時間がたってしまった。

 途中から少年も屋敷の修理に参戦し、夕方の十八時に作業が終わった。


「結構早く終わったな。よくやったぞ少年!!」


『やしきでねれる』


 少年は嬉しそうに紙を見せてくる。そうとう小屋で寝たくなかったのだろう。


「そうだな~ご飯抜きで作業した甲斐があったな!!」


『コクン』


「ご褒美に今日の夕飯は豪勢なものにしよう」


『なにつくるの』


 目をキラキラと輝かせながら聞いてくる。


「肉だ!!!」


 自慢げに言うと、台所の方から猪を一頭持ってきた。瓦礫を森の奥に捨てに行ったときに捕らえたものだ。


「少年よ!!この肉が食べたきゃ私に付いて来い!!」


 足早に屋敷の外に行くと、慣れた手つきで焚火の準備を始めた。焚火に火を灯すと、次は猪を解体していく。


『ぜんぶたべる?』


「そうしたいのは、やまやまだけど、明日の分も残すつもりだよ」


 捌き終えた猪を焚火の炎に当てていく。

 肉の香ばしい匂いとともに、ジューっと一日分の空腹を刺激する音色が頭の中に響き渡る。コンガリ焼けた肉に塩と胡椒を塗し、口の中へと放り込む。


「ヤバい...ほっぺが落ちそう!!!」


 トロンとした表情で座敷童が肉の味を噛みしめていると、それに続いて少年も肉を頬張る。


『おいしい』


 左手を頬に当てながら幸せそうに肉の味を堪能している。

 四百グラム程あった肉たちがものの五分で消えて行ってしまった。


「ふ~美味しかった~!!」


『あしたがたのしみ』


「そうだな~当分は肉が食えるからね」


 そんな他愛もない会話をしながら二人は屋敷の中へと消えて行った。

 そして、辺りが暗闇に包まれ月明りだけが世界を照らす中、座敷童は記憶の中に無い筈の思い出を思い出していた。





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