第3話 釣りと焚火

「少年よ今日は釣りをしに行くぞ!!」


 釣竿を握りしめ、寝ていた少年を無理やり起こして外へと連れて行く。

 少年は何が起きたのか分らず、日差しにまだ慣れていない目を擦りながら座敷童に連れてからる。


「よーし釣竿は持ったな?それでは出発!!」


 少年は、何が起きているのか未だに分かってはいなかったのだが、取りあえず紙に『おー!!!』と書いて、右手の拳を天高く突き上げる。


「気合十分だな!私も餅以外のものを食べたかったんだよ」


 ことの発端は、以前作った磯辺焼きが少年のお気に召したらしく、あれ以降毎食磯辺焼きになっていたのだ。しかし、座敷童はそんな状況にしびれを切らして、餅以外の食材を求めに行こうと決めたのが理由だったりする。


「ここから南西のほうに行けば、川があるはずだ!迷子になるなよ少年!!」


『ビシ!!』


 そして数十分歩いていくと、草木の隙間から水の流れる音が聞こえてくる。

 生い茂る草木をかき分け進んでいくと、木漏れ日に照らされた一本の川が見えてくる。


「到着!!早速始めるぞ~!!てかお前釣りしたことあるのか?」


『ない』


「そうか...まあいいだろう。私が教えてやる!!ほらほら竿構えろ」


 座敷童が見本を見せるように竿を構える。それに続いて少年がぎこちなく釣竿を構え始める。


「そうそう、そんな感じだ。あとは川に向かって釣り針を投げ入れるだけだからやってみろ」


『コクン』


 少年は座敷童に促され、言われるがまま竿を振って釣り針を川に投げ入れる。

 ポチャンと音を立てて川の中に入ると、浮きがプカプカと上流から下流に流れていく。


「おいしっかりリール抑えないとダメだろ!」


 少年がもたもたとてんぱっていると、座敷童に釣竿を奪われてしまい、少年は残念そうに顔をしかめてしまう。


「そんな顔するなって」


『ごめんなさい』


「だーもう謝るなって、ほらもう一回やってみろって」


 座敷童が投げ入れた後の竿を笑顔で少年に渡し、もう一つの竿を投げ入れ始める。

 数分間沈黙が続くが、浮きに変化は無く時間だけが過ぎていく。


『つれないね』


「バーカ釣りってのは忍耐力が大切なんだよ!今日の私は完全に魚の気分なんだ、ここまで来たら絶対に釣り上げるぞ~!!」


『おもちたべないの』


「すまん、飽きた...」


 少年がしょんぼりとしているとした表情を浮かべている時、いきなり竿が少年のことを引っ張り、川へと引きずられて行きそうになった。


「ちょっ、お前大丈夫か!!絶対竿放すなよ。一時間やって初の当たりだ、ここ逃したら次はないぞ!!」


 座敷童が引きずられないよう、後ろから引っ張るようにして少年の脇下に手を回す。しかし、成長途中の少年の筋力では竿の引きの方が強かったため、糸が切れそうになっていた。

 そうはさせまいと座敷童が竿を奪い取り、声にならないぐらいの声量で叫びながら竿を引っ張ると、大きな魚がまるでマグロの一本釣りの様に釣りあがる。


「み、見たか...これが妖怪の力だ...」


『すごい』


 少年は目を見開いて座敷童の両手を握り、楽しそうに上下に振る。


「おいおい落ち着けって、にしても大きいのが釣れたな~ここの川ってこんな大きい魚釣れたっけ?」


 座敷童の考え事そっちのけで魚に興味津々の少年は、大きな魚をそこら辺に落ちていた木の枝でつつく。


『これどうするの』


 少年が座敷童に筆談で尋ねる。


「フッフッフ...今日はこの魚を使って塩焼きを作るぞ」


 不敵な笑みを浮かべながら言ってくる座敷童の口からは涎がダラダラと垂れており、目をギラギラと光らせていた。


『おいしいの』


「そう焦るなって!食えば分かるから、ひとまず焚火の準備だ!!少年は木の枝をありったけ持って来てくれ」


 慣れた手つきで魚を絞め、手ごろな石を円状に並べながら、少年に指示をしていく。

 五分ほどで作業を終えた座敷童が、魚に木の棒を二本刺す。その後、少年が持ってきた木の枝を石の囲いの中に放り投げ、火のついたマッチをそっと枝の山へ落としていく。

 メラメラと燃え上がっていく焚火に、すかさず太めの木の棒を投げ入れる。少年も座敷童の真似をして、次々と細長い木の枝を入れていく。


『あったかいね』


「そうだな~だけどこの焚火は温まるために用意したんじゃないんだぞ」


『??』


 座敷童は焚火の炎に当たるように串に刺した魚を近づける。磯辺焼きほど焼ける音はしないが、魚の油が滴り焚火に落ちていく度にジュッといい音が鳴る。


『いいにおいする』


「いまでもいい匂いだけど、こいつを塗すともっといい匂いがしてくるんだぞ!」


 懐から徐に小瓶を取り出した座敷童が少年に見せびらかしてから、魚に一つまみ塗していく。


『それなに』


「これは塩だな。こいつがあるとないとじゃ全然違う味になるんだ!!」


「そろそろいいかな。ほれひとまず食ってみろ」


 少年に焼き魚をほぐした物を渡す。

 少年は両手いっぱいの焼き魚を頬張り、ほっぺが落ちてきそうなほど顔をとろけさせる。


「そんなに美味いか!それじゃあ私も」


 座敷童も串の両端をしっかりと握り、焼き魚を頬張る。やっとありつけた餅以外の食事に感銘を受け、体を震わす。

 大きな魚が、二人によって十分足らずで骨だけにされてしまった。


「美味しかった~」


『またたべたい』


「そうだな。そろそろ帰るか」


『コクン』


 二人が焚火の処理をしていると、雨がぽつぽつと降ってくる。その雨粒はみるみるうちに大きくなっていき、少し遠くの方からゴロゴロと音が聞こえてくる。


「これはちょっと不味いかもな...おい少年急いで帰るぞ!!」


『なんかこわい』


「大丈夫だって、私が付いてるんだから」


 少年の手を取り、速足で帰路に就くと、屋敷のある方角から大きな音が鳴り響いてくる。嫌な予感がした座敷童は、少しだけ歩く速さを上げ始める。

 結果的に屋敷にはついたのだが、屋敷二階の一室が落雷によって燃え上がっていた。しかも雷が直撃していた場所は、二人が一番多く使用する所だったため、座敷童の背筋が凍り付いた。


『たきびみたい』


「ははは...呑気だな~お前は」


 座敷童は、青ざめた顔をしていたが、それとは別にある感情が浮かんできていた。


「この感じ前にもあったような...まあ気のせいだよな...」


『どうしたの』


 遠い目して自分の世界に入り込んでいる座敷童を心配に思い、雨に濡れて辛うじて読めるぐらいの文字を見せる。

 少年の心配そうな表情にハッとして、我に返った座敷童が少年に向かって笑顔を向ける。


「心配ないって、幸いにも雨でそこまで炎も燃え広がらないだろうしな!!」


「まあ取りあえず今日は庭にある小屋で寝るか~」


『わかった』


 こうして二人は小屋へと姿を消し、早々に夢の世界へと入り込んでいた。











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