第2話 しりとりとご飯

「な~少年なんか面白い話してくれよ」


 座敷童が地べたにゴロンと転がりながら、少年に気怠そうな声で頼み込む。

 少年は立ち上がり任せろと言わんばかりに手を波のようにゆらゆらと振り、自分の事を指さし何かを表現していく。


「そういやお前喋れないんだったな。そうだな~じゃあしりとりでもするか。紙にでも文字を書けいたら私に伝わるし、この方法なら出来るだろ」


 少年が何かを伝えようとしているのは明らかだったが、座敷童には何を伝えたいのか分らなかったため、少年を静止させ、声を出さなくとも楽しめる遊びに誘う。


『!!!』


 少年は嬉しそうにウロチョロと屋敷の一室を歩き回り、何かを探すように辺りを見渡し始めるが、目的のものが見当たらなかったのか、座敷童の近くに座り込み困った顔を浮かべ始めていた。


「お前、もしかして紙とペンを探してるのか?」


『コクン』


 悲しそうに頷く少年に、思わず吹き出してしまった座敷童だったが、棚の引き出しを開け、紙とペンを取り出した。

 少年は目を輝かせてこちらを見つめてくる。そんな少年に座敷童は、そんなにしりとりがしたかったのかと思っていたが、少年は座敷童そっちのけで棚の引き出しを物珍しそうに開け閉めしていた。


「そっちかい!!」


『?!?!』


 大きな声で反応した座敷童に少年が反応し、駆け寄ってくる。そして何を思ったのか座敷童の頭を撫で始める。


「やめんか!ほれ早くやるぞ」


 座敷童は頬を赤くしながら紙とペンを少年に手渡した。


「んじゃあ私からな~えっと...」   「エイ」   『いえ』  「海老蟹」   『にわ』   「和事」   『とり』   「力説」    『つらい』   「一手」

『てじな』   「長居」


 座敷童のターンが終わった直後、少年のお腹が鳴り、少年がお腹をさすり始めた。

 この頃の時刻が正午になった頃という事もあったので、やれやれという風な顔をしながら座敷童が立ち上がる。


「ご飯にするからお前も付いて来い」


 アヒルの親子のようにテクテクと少年が座敷童の後ろについき、ぎしぎしと音を立てながら階段を下りて台所に向かう。


「お前、なんか食べたいものあるか?」


 少年は、少し立ち止まり、先ほどしりとりに使った紙に『おもち』と書いて座敷童に見せる。

 その手があったかと座敷童がポンと手を叩きながら、なに餅にしようかと考えていると、台所に置いてある醤油が座敷童の目に映り込んでくる。


「今日は磯辺巻きにするか」


 台所の戸棚にあるはずの餅を探すが、餅はネズミか何か食べられていたようで、一向に見つからない。


「は~最悪だよまったく...一から作るか。餅米もまだ残りがあったし」


『どうしたの?』と書かれた紙を突き出し、不安そうに首を傾げている少年に答えるようにして言葉を紡ぐ。


「どうもしないよ...よし少年!!付いて来い今から餅つきするぞ!」


 七輪と杵を持った二人は、外にある臼の近くまで来ていた。

 少年は餅つきをしたことがない様で、小刻みに跳ねながら楽しそうに座敷童の指示を待っていた。


「よし、少年!入口近くにある桶に水汲んで来い!」


 ビシッと少年が敬礼し、トコトコと桶を抱えながら井戸へと向かい始めて行った。

 一方で座敷童の方ははというと、臼に餅米をせっせと入れていた。


「おっ!少年戻ってきたか。っておいその水はこの中に入れるんじゃない!!」


『?!?!?』


『ペコリ』


「怒ってないからそんな顔するなよ...気を取り直してちゃっちゃと作るぞ、私もお腹すいてきた」


 ぺったんぺったんと座敷童が餅を搗き、少年が餅をこねていく。

 作業は順調に思えていたが、事件は突然起きた。なんと、餅を搗いている途中に杵がボキっと音を立てながら飛んで行ったのだ。


「マジかよ...」


『ポカン』


 二人が口を大きく開けながら、唖然とする。

 杵は綺麗な放物線を描き、屋敷の窓ガラスにガシャンと大きな音を立てながら落下していく。


「こ、こんな時もあるよな...気を取り直して続き始めるか~」


『コクン』


 座敷童が気まずそうに屋敷に戻り、予備の杵を持ってきて作業を再開し始める。

 作業を約一時間ぐらい続け、あとは焼くだけのところまで出来上がった。


「よーし次はその餅をこの桶に移すぞー」


『ビシっ!!』


「移し終わったな。んじゃあとは、七輪で焼いて、醤油で味付けして、海苔巻いたら完成だ。頑張るぞ!!」


 少年は笑顔で拳を突き上げ、気合十分であることを座敷童に示す。

 餅を七輪に乗せ焼きあがるのを待つ。

 餅が七輪の上で音を立てながら焼けていく。餅が膨れてきたところに、醤油をゆっくりと垂らしていくと、先ほどよりも焼ける音が大きくなっていく。醤油が焼けた香ばしい匂いが、空腹感を余計に刺激し、涎が溢れ出てくる。


「これぐらいでいいだろ」


 モチモチとした感触のお餅を箸で持ち上げ、海苔を巻いてからお皿に並べていく。

 待ちきれなくなった少年は餅に手を伸ばすが、その手を座敷童がペチンと叩く。


「行儀悪いぞ、頂きますしてからだ!!」


 少年はムッとしながらも座敷童からの言いつけを守り、体育座りで待っていると、「出来た!!」という声が聞こえてくる。


「これでやっとご飯にありつける!!」


 座敷童が目を輝かせながら少年に餅を手渡し、「頂きます」と言ってから二人は磯辺焼きを頬張る。

 何十個もあった磯辺焼きの山が見る見るうちに消えていく。そして三十分足らずで磯辺焼きの山が消え、二人は両手を合わせる。


「ご馳走様でした」


『ペコリ』


 こうして昼食を終えた二人は、満足そうに屋敷へと帰って行った。

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