第43話 雫とバンド

 AME――アルファミュージックエンターテイメントは、Shizと繋がりがある。

 しかし、なにか引っかかることが私の中にはあった。


「ShizとAMEが繋がっている……? あれ? でもShizはどことも関係を持たず個人で活動しているんじゃ……?」

「確かにそうなんです。けど、楽曲のマネジメントに関してはAMEのごく一部の人が絡んでいるらしくて。実際に、最近出たアルバムはAMEが原盤権を持ってますし……。あっ、原盤権っていうのは――」

「わかったわかった、要するに、Shizと関わりがありそうだからこのコンテストを選んだってことだね」


 雫ちゃんのShizトークが脱線しそうになったところで私は会話に割り込む。

 ちなみに、原盤権というのはアーティストが持つ楽曲の著作権を借り受けて発売したり配信したりする権利のことだ。大手レコード会社に原盤権を渡して楽曲が世に出回ることを、俗に「メジャーデビュー」を呼んだりする。


「そ、そうです、深雪さんの言うとおりです。AMEは色々コンテストを開催しているんですが、その中で一番私達に合いそうなのがこれだったということで……」

「なるほどね。雫ちゃんなりにいろいろ考えたわけだ」

「……ご、ごめんなさい、ちょっと私情を挟みすぎましたよね。忘れてください」

「ううん、全然問題ないよ。それよりも、事情を知らない他の二人がポカンとしてるから、説明してあげてよ」


 ふと希空ちゃんと来瑠々ちゃんの方を向くと、二人とも頭上に『?』マークを浮かべて首を傾げていた。

 この二人にはまだ、雫ちゃんとShizの関係について何も知らない。


「――というわけなんです……。おかしいですよね私、Shizがお姉ちゃんだっていう確証も全くないのに突っ走っちゃって……」


 雫ちゃんが自嘲気味に笑う。他人に自分の心の内を話すことにやはり自信が持てないのか、説明をするときも終始弱々しく語っていた。

 たとえ相手が来瑠々ちゃんや希空ちゃんといった仲間であっても、まだ少しだけ壁を作っている、そんな印象を受ける。


「雫……、あなたって本当に……」


 雫ちゃんが話し終えるのを待たず、希空ちゃんがなにか言いたげにうずうずしていた。

 もっと現実を見なさいとか、そんな夢みたいな話なんてあるわけ無いでしょとか、希空ちゃんらしい厳しい言葉が飛んでくるとばかり思っていたので私は身構えていた。しかし、次いで出てきた言葉に私の予想は覆される。


「なんでそんな大事なこと言ってくれなかったのよ! それを知っていたら、私だってもっと他に力になれる方法を探せたかもしれないのに」

「そうデスよ雫。どうして深雪と雫がこんなにバンドにご執心なのか、やーっと理解できましタ」

「ご、ごめん二人とも……、こんなこと、信じてくれるなんて思えなかったから……」

「信じないわけないでしょ。ただでさえ自己主張控えめな雫がそんなに入れ込むんだから、よっぽどのことだってすぐにわかるわ」

「そうデスそうデス、これが私だったら希空がベースのピックを手裏剣みたいに投げつけてきて終わりデスが、雫となれば大事おおごとデス」


 余計な一言にムッときた希空ちゃんが、手に持っていたダンロップの一・二ミリのおにぎり型ピックを手裏剣さながら来瑠々ちゃんへ投げつける。

 思いの外ピックはきれいにまっすぐ飛んでいって、来瑠々ちゃんが「ムムム、伊賀者デスか!? それとも甲賀者デスか!?」と忍びに襲撃された戦国武将みたいなことを言うのだけれども、話が大きく脱線するのでここは触れないでおくことにした。


 とにかく、雫ちゃんの想いというのが、みんなにきちんと理解してもらえたようで良かった。


「そういうわけで、コンテストもこの『U25 AMEチャレンジカップ』に出ることにしましょ。確かに参加者はみんな手強いかもだけど、そのほうが面白そうじゃない」

「いいの? 希空ちゃんが特待を確実に取りに行くなら、他のコンテストって選択肢も……」

「もちろん保険として他の方策も練るけれど、本線はこれしかないわ。二人はどう?」


 希空ちゃんは私と来瑠々ちゃんへ問いかける。もちろん私も来瑠々ちゃんも、ノーと言うつもりはない。


「そう聞いちゃったらこれしかないよね。このバンドは雫ちゃんが中心にいるバンドだから、雫ちゃんが一番モチベーションを高く保てることをするのが一番いいと思う」

「深雪に同意デス。雫のやる気が高ければ、回り回って私たちの士気も上がりマスからネ」

「みんな……」


 雫ちゃんは自分の想いが仲間に肯定された嬉しさもあったのか、うっすら涙を浮かべ始めた。

 それを見た希空ちゃんが、「昔からすぐ泣いちゃうところ、変わってないわね」と微笑む。改めてバンドメンバーがこの四人で良かったなと、私はそう思った。

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