第24話 中村葉と来瑠々 ◇葉

 来瑠々は俺の幼馴染にして、唯一の親友だった。


 家が近くて、しかも実家の会社同士の取引もある。

 物心がついた時から、俺の言う『友達』という言葉は来瑠々そのものを指していた。


 幼少期、来瑠々は周囲から浮いていた。

 無理もない。金髪で碧眼なんてキャラクターは、どうしても目立ってしまう。

 それゆえにいじめの標的にされたり、差別みたいなことが起こることはよくあった。


 俺は来瑠々の周囲のそんな反応がどうしても嫌だった。昔から背が高くて腕っぷしにも自信があったので、俺は来瑠々にちょっかいを出す連中と男女問わずよく喧嘩をしていたのだ。それもあって、俺自信も結構な嫌われようだった。


 でも来瑠々だけは、そんな俺のことを友達だと言ってくれる。あいつの存在が、俺にとっての光みたいなものだった。



 中学生にもなると、来瑠々はより一層可愛くなった。周囲から浮くことは減り、金髪碧眼で天使のような美少女としてちょっと有名になった。

 一方の俺は、さらに武闘派としてのイメージが浸透してしまったのか、来瑠々以外の友達一人すらできなかった。

 そんな状況でも俺のことを見捨てたりしなかった来瑠々は、本当に天使だったかもしれない。


 中学卒業間近のとある日、天使のような美少女がいるという噂を聞きつけた野郎が、来瑠々にちょっかいをかけていた。もちろん俺は問答無用でぶっ飛ばした。

 しかし運悪く、そいつは最近活発に動いている半グレ集団に関わりのある奴だったらしい。

 すぐに俺はそいつらから報復を受けることになる。


「よくもウチのモンをボコボコにしてくれたなあ! どうやら結構な怪我をしちまったみてえでよお、治療費がわんさかかかるらしいんだわ」

「……そんな大したことないだろ。平手打ちを一発お見舞いしただけだ」

「嘘ついてんじゃねえよクソアマァ! てめーのせいで俺たちの大切な仲間がえらい目にあってんだ。落とし前くらいちゃんとつけてもらわねえとな?」


 奴らのアジトに呼び出され、俺は仲間の治療費を払えと脅された。

 もちろんそんなに治療費がかかるわけがない。実際に平手打ちしかしていないのだから、せいぜい湿布薬を処方されて終わり程度のものだ。

 しかし奴らはそういうスキに容赦なくつけ込んでくる。俺一人対半グレ集団、多勢に無勢もいいところで、奴らはとんでもない金額を提示をしてきたのだ。もちろん拒めば返り討ちにあうだろう。


「こんなの払うわけ無いだろ。ちゃんちゃらおかしな話だ」

「ほう、払わねえってんなら仕方がねえな。じゃあ俺らが実力行使するだけのことよ」

「実力行使? 俺をタコ殴りにしたところで、ビタ一文金を払ったりはしないぜ」

「だろうな。まあ、お前が払わなくても、お前のツレの金髪碧眼美少女が稼いでくれることになるけどな」

「なっ……!」


 悪魔のような連中だった。

 こいつらは半グレ集団の中でもたちが悪い奴らで、売春のあっせんなんかを手掛けている最低なことをしている。

 俺が下手をこいたせいで、奴らの手によって来瑠々が汚されるような事があってはならない。

 だったらまだ、俺が自分で金を稼いで払うほうがマシ。追い込まれていた俺はまともな思考ができるわけもなく、そういう手段を取ってしまった。


 とにかく俺は金を稼ぐためにバイトをした。実家の建設会社を手伝うことで金を捻出していた。

 それと同時に来瑠々があの連中と関わらないよう、ワンダーフォーゲル部という廃部になりかけていた部活に無理やり所属させて目が届くようにした。言うことを聞いてくれないかと思ったけど、実家の会社同士の取引関係をチラつかせたら、案外あっさりとしたがってくれた。


 来瑠々は多分俺のことを酷いやつだと思うだろう。友達なんて金輪際思ってくれないかもしれない。それでもいい。

 俺のせいでたった一人の友達である来瑠々が苦しむことなんて、絶対に許せなかった。だから自力でこの問題を解決して、ただ俺が悪かったということにして済ませようとしたのだ。

 もちろん警察なんてもってのほかだ。昔から警察には何度も世話になっていたこともあって、俺から助けてくれなんてとても言えない。

 

 だから、バカな俺にはこうするしか方法がなかった。

 正直に来瑠々に打ち明けていたら、もっと別な未来があったのだろうか。


 警察の事情聴取と、生徒会からの聞き取りがこれから始まる。

 内容次第では、いよいよ俺は来瑠々とお別れしなければならなくなるだろう。自業自得だ。


 ああ、なんでいつも上手くいかねえんだろうな、俺の人生は。

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